農作物の病害を引き起こす病原体にはさまざまなものがあります。本記事では、病原体としてよく知られる細菌と糸状菌の違いについて、また、糸状菌のこまかな分類についてまとめていきます。
細菌と糸状菌の違い
細菌と糸状菌はいずれも自然界に広く存在する微生物です。
細菌 | 糸状菌 | |
分類 | 原核生物 | 真核生物 |
構造 | 単細胞、核なし | 多細胞、核あり |
大きさ | 0.1〜10µm(マイクロメートル) | 2〜10µm(菌糸の直径)、数mm〜cm(菌糸全体) |
代表例 | 大腸菌、納豆菌、青枯病菌 | アオカビ、黒かび、うどんこ病菌 |
病害の例 | 軟腐病、青枯病 | うどんこ病、灰色かび病 |
細菌について
微生物の一種である細菌は、原核生物に分類される単細胞生物です。
細菌の大きさは一般的に1〜2マイクロメートル程度で、真核生物と比べて非常に小さく、肉眼で見ることはできません。
細菌の中には、農業分野に限らず、私たちの生活に役立つものもあれば、病気を引き起こす有害なものもあります。たとえば、乳酸菌はヨーグルトや納豆の製造に利用される良い細菌です。一方で、青枯病や軟腐病などの病害を引き起こす細菌もいます。
なお、細菌による病気の特徴的な症状として病斑の周りに黄色のリングが見えることが多く、これが目安となります。
細菌とウイルスの違い
農業病害を引き起こし、目に見えないほどの大きさのものにウイルスの存在もありますが、細菌とは構造や増殖方法がことなります。
細菌 | ウイルス | |
分類 | 原核生物(生物) | 非生物(生物ではない) |
大きさ | 約0.1〜10µm(マイクロメートル) | 約0.02〜0.3µm(細菌より小さい) |
構造 | 細胞膜・細胞壁を持つ単細胞 | 核酸とそれを包むカプシド(遺伝情報を包み込むタンパク質の殻) |
増殖方法 | 栄養を取り込み、自己増殖する(分裂) | 単独では増殖できず、生物の細胞に侵入して増殖 |
生存環境 | 土壌、水中、体内など様々な環境で生存可能 | 宿主細胞内でのみ増殖 |
糸状菌について
微生物の一種である糸状菌は、「真菌」の一種です。
真菌とは、細菌と異なり、核膜を持ち、真核生物に分類されます。菌糸(糸状の構造をした菌類の体を構成するもの)を形成し、胞子(一部の菌類などが生殖のために作る生殖細胞)によって増殖し、「カビ」とも呼ばれます。
糸状菌は菌糸の菌糸の先端を伸ばし続けることで成長し、環境中に広がります。また、糸状菌の成長過程においては、多くの酵素が分泌され、これが有機物の分解を助けます。そのため、糸状菌はこうした分解作用により、自然界において「分解者」としての重要な役割を果たしており、物質循環に欠かせない存在でもあります。
糸状菌の分類
糸状菌には非常に多様な分類が存在します。一般的に、糸状菌はその繁殖方法や有性・無性の胞子形成方法によっていくつかのグループに分けられ、主な分類には以下のものがあげられます。
- 変形菌類
- 鞭毛菌類
- 子のう菌類
- 担子菌類
- 不完全菌類
それぞれ異なる特徴を持ち、病気を引き起こす際にも異なる病徴を示します。
特徴 | 代表的な病害 | |
変形菌類 | 根に不整形のコブを形成する。アブラナ科野菜に発生。 | 根こぶ病 |
鞭毛菌類 | 水分を好み、湿潤な環境で多発生。根腐病や葉腐れを引き起こす。 | 疫病、べと病、ピシウム根腐病 |
子のう菌類 | 有性生殖で子のう殻(胞子を作るための小さな袋のような構造)を形成。病斑に黒色の小粒点が見られる。 | 炭疽病、うどんこ病、菌核病 |
担子菌類 | 鉄分や腐敗物を栄養源とし、野菜や果樹に多発する。 | さび病(ネギ、エダマメ、インゲンマメなど) |
不完全菌類 | 完全な生殖段階が不明な菌類。無性胞子で繁殖し、特定の病害を引き起こす。 | 萎凋病、立枯病、根腐病(フザリウム・オキシスポラム菌、バーティシリウム菌など) |
土壌微生物を理解する
冒頭で“農作物の病害を引き起こす病原体”として紹介した細菌と糸状菌ですが、土壌中に存在するこれらすべてが病原体として悪さをするわけではありません。土壌中に存在する微生物は作物の生育に大きな影響を与え、病害防除に重要な役割を果たす側面もあります。
土壌微生物の重要な機能には有機物の分解があげられます。土壌微生物は、土壌中の有機物を分解し、養分として植物が吸収できる形に変える役割を担います。特に、デンプン、糖、タンパク質などの分解に関与する細菌や糸状菌、リグニン分解菌は重要な存在です。有機物が分解される過程で植物に必要な栄養が供給され、土壌の肥沃度が保たれます。
土壌微生物の存在は病原菌の抑制にも貢献します。微生物の種類が豊富な土壌では、多様な微生物が競争し合い、病原菌が優位に立つことを防ぐため、病原菌が単独で繁殖することが難しく、病気の発生が少なくなります。
このような土壌微生物の有用な効果を得るためには、健全な土壌づくりが欠かせません。微生物の多様性を高める土づくりには、有機物や有機質肥料の施用が有効です。定期的に土壌診断を行い、土壌の状態を把握することも大切です。
参考文献:米山伸吾・草刈眞一・柴尾学『新版 病気・害虫の出方と農薬選び』p.53〜55(農山漁村文化協会、2018年)
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