農薬の使用量をなるべく減らしたい場合、まず思い浮かぶのは「散布回数を減らすこと」かもしれません。しかし、病害虫防除では、単純に散布を我慢すれば使用量が減るとは限りません。むしろ、発生初期を見逃したことで病害虫が広がり、結果として何度も散布が必要になることがあります。
農薬を減らす近道とは


それは、一回の防除効果を高めることです。
病害虫防除で避けたいのは、病害虫の被害が発生してから、後から追いかける形で散布を重ねることです。病気は一度発生すると、その株や葉が次の伝染源になります。害虫も同じで、苗や本圃の一部で密度が上がると、短期間で周辺に広がります。
そのため、減農薬を考えるうえでは散布回数を減らすより先に、一回一回の防除を確実に効かせることが重要といえます。一回ごとの防除効果を上げて総使用回数を減らすことが農薬を減らす近道であり、そのためには散布量・散布の丁寧さ・タイミングが重要です。
ここでいう「タイミング」は、単に病害虫の発生を確認した瞬間ではありません。むしろ、病害虫が広がりやすい生育ステージの直前、あるいは本圃へ持ち込む前の段階を指します。とくに果菜類では、苗の時期から定植直後までが、その後の防除回数を左右する大きな分岐点になります。
苗の時期に防除の徹底を


苗の時期に病害虫を持ち込むと、本圃に植えたあとで一気に被害が大きくなることがあります。定植後は株数も面積も広がり、葉数も増え、薬液を均一に付着させることが難しくなるからです。つまり、苗の段階で抑えられた病害虫を本圃まで持ち込むと、後からの防除により多くの手間と薬量が必要になります。
農研機構の資料(イチゴのIPM(総合的病害虫・雑草管理)防除体系)においても、定植苗と一緒に持ち込まれる病害虫から被害が生じることが重要視されており、定植苗で持ち込む病害虫をできるだけ少なくすることが、その後の防除の成否を決めるとされています。
最適なタイミング①
まず押さえたいのは、育苗中の予防的な防除です。病害虫防除では、発生してからではなく、発生しやすい条件がそろう前に手を打つことが基本です。
育苗中は、かん水、温度管理、苗同士の間隔などによって湿度が高くなりやすく、病気が出やすい環境になることも。とくに曇雨天が続く時期や、苗が混み合って風通しが悪くなる時期は注意が必要です。葉が濡れた状態が長く続けば、病原菌が広がるリスクも高まります。
この段階では、農薬散布だけでなく、以下の管理も重要です。
- 過湿を避ける
- 苗を混ませすぎない
- 病気が疑われる苗を早めに取り除く
- 防虫ネットや粘着板などで害虫の侵入や発生を確認する
最適なタイミング②
自根苗(種から発芽して育った植物本来の根を持つ苗)の場合、初期に防除の必要がないようであれば、苗がある程度大きくなってから防除したほうが、薬剤にコートされた葉数を多くして本圃に出せます。これは、苗が小さすぎる段階で散布しても、その後に展開した新しい葉には薬剤が付着していないためです。
特に、果菜類の苗は生育が進むと次々に新葉を展開します。防除後に出た葉が無防備なまま本圃へ出ると、定植後の感染や害虫被害の入口になりかねません。したがって、自根苗では定植前の適期に防除することが理にかなっているといえます。
とはいえ、すでに病害虫が確認されている場合は、定植直前まで待つのではなく、早めの対応が必要です。
最適なタイミング③
接ぎ木苗の場合、接ぎ木後に病害虫から守るのではなく、接ぎ木作業に入る前に防除を行います。
接ぎ木後には、活着を促すために高湿度・弱光条件で順化させる期間があります。この期間は苗にとって必要な管理ですが、病気にとっても発生しやすい条件になりやすい点に注意が必要です。とくに断根接ぎ木では順化期間が長く、多湿・弱光下に置かれるため、病害が発生しやすいので、接ぎ木苗の場合は発芽が揃い、根じめかん水(主に育苗や定植の場面で行われる、土と根を密着させて活着を促進させるための水やり)をした翌日あたり」が防除の適期といえます。
持ち込む前に確認を
苗を購入する場合、定植前に病害虫が発生していないか確認することが初期防除につながります。定植前の確認では、葉の表だけでなく葉裏、成長点、株元を見ます。アブラムシ、コナジラミ、アザミウマ、ハダニ類などの微小害虫は、ぱっと見ただけでは見逃しやすいので、早期発見には黄色粘着板やルーペの活用もおすすめです。
散布のコツ


葉裏にムラを残さない
苗の防除では、薬液のかけ方も重要です。苗は丈が低いため、葉裏に十分かけようとしても、横からの散布では薬液が届かない部分ができやすくなります。苗に散布する場合、たっぷり付着させることより、葉裏全体にムラなく付着させることの方が大切です。
そこでおすすめなのが、株の真上から、噴霧口を真下に向けてゆっくり散布する方法です。真上から散布することで、まず葉表にしっかり付着します。また、地面や育苗面から跳ね返る細かな霧が葉裏にも届きやすくなります。
薄めすぎない
農薬の使用量を減らそうとして、規定より薄い濃度で使うのは避けてください。効きが不十分になれば、病害虫が残り、追加散布が必要になる可能性があります。結果として、使用回数が増えてしまえば、農薬を減らす姿勢とは逆の方向に進んでしまいます。
農薬を使用する前には必ず、ラベルに記載された適用病害虫、使用方法、使用上の注意事項、使用時期、総使用回数などを確認し、記載事項に従って使用してください。収穫前日数や有効成分ごとの総使用回数も確認が必要です。
参考文献:白木己歳「深掘り 野菜づくり読本 農業技術者のこだわり指南」(農文協、2023年)p.76〜
参照サイト






























