農業分野におけるVR・AR技術活用事例。そもそもVR・ARとは。

農業分野におけるVR・AR技術活用事例。そもそもVR・ARとは。

2020年農林業センサスによれば、農業従事者はこの5年間で約46万人減少し、特に65歳以上の割合が69.6%を占める一方で、49歳以下の若年層はわずか10.8%にとどまっています。労働力不足と高齢化という深刻な課題に直面する日本の農業において、新規就農者の育成と効率的な農業教育は急務とされています。

こうした課題解決の一助として、近年VR(仮想現実)やAR(拡張現実)技術が注目されています。これらの技術の活用が、熟練農家の知識をリアルタイムで共有できることから新規就農者の学びを支援でき、加えて気候変動や持続可能性の課題にも対応できる革新的な手法として重要視されています。

そこで本記事では、農業分野におけるVR・AR技術の活用事例とその可能性について紹介していきます。

 

 

VR・ARとは

農業分野におけるVR・AR技術活用事例。そもそもVR・ARとは。|画像1

 

まずVRとはVirtual Realityの略称で、日本語で「仮想現実」と訳されます。

VRは「仮想空間」に入り込むような技術です。用意された仮想空間のコンテンツを専用のヘッドセットやゴーグルを装着して見ると、その世界(仮想空間)に入り込んだような体感ができます。ゲームやオンライン研修などに応用されています。

一方、ARはAugmented Realityの略称で、「拡張現実」と訳されます。

ARは現実世界に仮想の情報を重ねて(=拡張して)表示する技術です。ARの体験には、スマートフォンやタブレット、サングラス型の「ARグラス」と呼ばれるものを用います。ARの例には、現実世界の商品にスマートフォンのカメラを向けると商品の情報が表示される、2Dのキャラクターが現れるなどの仕組みがあげられます。

いずれも現実と仮想の融合を実現する技術であり、近年さまざまな分野で活用が進んでいます。

 

 

VR・AR活用のメリット

農業分野におけるVR・AR技術活用事例。そもそもVR・ARとは。|画像2

 

VRとARの活用は、農業分野においてさまざまなメリットをもたらします。

VRの場合、バーチャルトレーニングによる技術習得の効率化が可能になり、新規就農者の獲得に貢献するとして期待されています。たとえばVRシミュレーションを活用することは新規就農者のスキル向上につながるだけでなく、実際の農地を傷つけることなく、農機の操作や害虫対策などを安全かつ繰り返し学習できるというメリットがあります。また、VR空間を活用したプロモーションでは、消費者との双方向な交流が可能になると期待されています。

ARの場合、農作業の効率化や遠隔支援に役立ちます。たとえば、ARグラスを用いることで熟練者がリアルタイムで遠隔指導を行うことができるので、技術継承の促進につながります。また、作物の健康状態をARアプリで可視化して、農薬や肥料の最適な使用量を判断すれば、コスト削減や収穫量の増加が見込めます。

 

 

活用事例

農業分野におけるVR・AR技術活用事例。そもそもVR・ARとは。|画像3

 

農林水産省やJA共済などはVR技術を活用した農業関連の体験コンテンツを提供しています。たとえば農林水産省では、農業・農村の体験動画コンテンツを作成し、遠方の人でも農業の現場を擬似体験できる環境を整えています。自動運転田植機のVR体験では、最新機械の操作を仮想空間で体感できます。

JA共済が提供する「農作業事故体験VR」では、農業機械による事故の危険性を擬似体験できます。農作業事故は年間約7万件発生するとされています。JA共済はVR映像を通じて、このような事故を減らすために安全対策の重要性を伝えています。なお、この取り組みは2020年度グッドデザイン賞を受賞しています。

そのほか、東海農政局が提供するVRコンテンツは農業・農村について理解を深める目的で作成されており、新規就農者や農業に関心のある人におすすめのコンテンツです。

AR技術を活用した事例には、代表的なものに株式会社Rootが開発した農作業支援ツール「Agri-AR」 があります。これはスマートフォンやARグラスを利用して、農作業に必要な情報をリアルタイムで表示する、というもの。畝立て作業の効率化や作物のサイズ測定などに役立ちます。従来、2人がかりで行っていた作業を1人で実施できるという点から、人手不足の解消やコスト削減にも貢献しています。

 

 

今後期待されること

農業分野におけるVR・AR技術活用事例。そもそもVR・ARとは。|画像4

 

農業分野におけるVR・AR技術の活用はまだ発展途上な部分も多々ありますが、VRを活用したバーチャルトレーニングやARを活用した作物モニタリングなど、労働力不足や気候変動対策、病害虫対策などに役立つと期待されており、その可能性は大きいです。

今後も、農家や研究機関、テクノロジー企業が連携し、新たな技術革新が起こることが期待されています。

 

参照サイト

テクノロジーカテゴリの最新記事