新規就農者が最初に直面する大きな課題の一つに「資金」があげられます。一般的に農業は初期投資が大きく、収益が安定するまでに時間がかかるため、就農初期の資金計画は非常に重要です。
そこで本記事では、「新規就農者が知っておきたい就農準備資金と経営開始資金」と題し、この2つの公的支援制度についてご紹介していきます。
就農準備資金とは
就農準備資金とは、都道府県などが認める農業大学校や研修機関で農業の技術や知識を身につけるための研修を受ける就農希望者に対し、研修機関中の生活を支援する目的で交付される資金です。なお、令和3年度までは「農業次世代人材投資資金(準備型)」という名称で知られていました。
この資金の交付対象となるにはいくつかの条件があります。原則として就農予定時の年齢が49歳以下であり、次世代を担う農業者としての強い意欲を持っていることが求められます。また、都道府県が認めた研修機関で概ね1年以上(1年あたりおおよそ1,200時間以上)の研修を受けることが必要です。
また、就農準備資金は、実家が農家で親元で研修を受ける場合にも活用できます(資金交付要件等は農林水産省HPにてご確認ください)。
生活コストを抑えながら就農研修に集中できるという点は大きな魅力といえます。
経営開始資金とは
経営開始資金は、研修を終えた新規就農者が農業経営を始める際、収入が安定するまでの生活費を支援するための制度です。月額12万5,000円(年間最大150万円)が、最長で3年間支給されます。こちらも令和3年度までは「農業次世代人材投資資金(経営開始型)」という名称で知られていました。
この資金も交付対象となるにはいくつかの条件があります。独立・自営就農時の年齢が49歳以下であることに加え、市町村が作成する「人・農地プラン」において中心的な経営体として位置づけられていること(または位置づけられることが確実と見込まれること)が含まれます。
就農直後の不安定な収入を補うための安定的な資金が確保できることが、この資金のメリットです。農業経営を軌道に乗せるまでの期間、精神的にも大きな支えとなるはずです。
それぞれの制度の注意点
それぞれの制度には、活用しやすさや資金面での支えとなる一方で、注意すべき点もあります。
就農準備資金は、独立時の資金準備にもつなげられる魅力的な制度ですが、研修終了後1年以内に独立就農または農業法人等への就職ができなかった場合、受給額の返還義務が生じることがデメリットとしてあげられます。
これにより、農業以外の進路を考えていたり、研修後に農業以外の進路に変更したくなったりした際の選択肢が狭まります。つまり、この制度の活用には、農業に従事するという強い意志と覚悟が求められる、ともいえます。
経営開始資金は、新規就農時に一定の収入が保証されることで精神的な安心感が得られるという点が大きなメリットとなりますが、一方で、年間所得が350万円を超えると交付が停止される、所得に応じて交付額が減額されるなど、年収を上げるほど補助金の額は減っていきます。
加えて、交付期間終了後も交付期間と同じ期間以上は営農を続ける必要があります。ここで営農を継続しなかった場合には返還が求められます。万が一、地域とのトラブルなどで営農継続が難しくなった場合、同期間以上はその地域で営農を続ける必要がある、あるいは返還義務が発生する可能性がある、という点には注意が必要です。
その他、支援制度
新規就農者向けの支援制度は、国だけでなく、自治体でも様々な取り組みが行われています。
たとえば、大分県では親元就農者に対して「大分県親元就農給付金制度」を設け、55歳未満の農家子弟を支援しています。大分県独自のこの制度も、研修段階の「準備型」と農業開始後の「開始型」に分かれ、それぞれ生活面・経営面から新規就農者を後押ししています。
大分県はそのほかにも、中高年層向けの「中高年移住就農給付金」、女性向けに妊娠・出産時の労働力確保を支援する「代替労働力確保支援」、女性農業者のスキルアップやネットワーク構築を目的とした「おおいたAFF女性ネットワーク」といった取り組みを行っています。
まとめ
本記事でご紹介した支援施策以外にもさまざまな制度が用意されています。たとえば以下の表は支援施策と内容を簡潔にまとめたものです。これらの支援施策の詳細や申請手続きについては、農林水産省HPなどをご参照ください。
支援施策名 |
内容 | 支援額 | 期間 |
主な要件 |
就農準備資金 |
就農前の研修を受ける方への資金支援 |
月12.5万円(年間最大150万円) | 最長2年間 |
就農予定時の年齢が原則49歳以下。都道府県等が認めた研修機関で概ね1年以上(年間約1,200時間以上)研修を受けること。 |
経営開始資金 |
就農直後の経営確立を支援する資金 |
月12.5万円(年間最大150万円) | 最長3年間 |
独立・自営就農時の年齢が原則49歳以下の認定新規就農者。市町村が作成する「人・農地プラン」に中心的経営体として位置付けられていること。 |
経営発展支援事業 |
就農後の機械・施設導入、家畜購入、果樹・茶の新植・改植等を支援 |
補助対象事業費上限1,000万円(経営開始資金と併用の場合は上限500万円) | ※補助率:都道府県支援分の2倍を国が支援(国の補助上限1/2)。 |
独立・自営就農時の年齢が原則49歳以下の認定新規就農者。市町村が作成する「人・農地プラン」に中心的経営体として位置付けられていること。 |
青年等就農資金 |
無利子・実質無担保・無保証人の融資。農業経営開始に必要な施設・機械整備、家畜購入、果樹・茶の新植・改植費、長期運転資金等に対応 |
借入限度額3,700万円(特認限度額1億円) | 償還期限17年以内(据置期間5年以内) |
市町村から青年等就農計画の認定を受けた認定新規就農者 |
なお、農水省のウェブサイトには、上記事業を活用した新規就農者の事例が掲載されています。
また、補助金・助成金ポータルサイトをチェックするのもおすすめです。「スマート補助金」というウェブサイトには、大分県が新規就農者の経営安定を図るために行っている事業が掲載されています。
支援制度を活用するためには、一定の要件があったり、条件を満たさなかった場合は返還が必要になったりと注意しなければならない点もありますが、これらの制度は最も不安の多い就農前後の生活や経営面の支えとなるはずです。
事前に詳細を確認し、納得の上で申請を行って、ぜひ制度を活用してみてください。
参考文献:中村恵二『最新 農業の動向としくみがよ〜くわかる本[第2版]』(秀和システム、2023年)
参照サイト