本記事では、農業会計の基本と収支改善に役立つ実践的なポイントについて解説していきます。
農業会計はなぜ必要か
農業は自然相手の仕事であり、収量や価格が天候や相場に左右されやすい産業です。そのため、「勘」と「経験」に頼った経営では、利益を安定して確保するのは難しいといえます。そこで、「数字で把握する」視点、すなわち「農業会計」が重要になってきます。
農業会計には以下のような利点があります。
- 経営状況を数値化できる(儲かっているか赤字かを正確に判断)
- コストの内訳が明確になる(ムダの削減がしやすくなる)
- 設備投資や事業拡大の判断材料になる
- 補助金申請や金融機関との交渉にも役立つ
経営統計で見る収益構造の実態
農林水産省のデータによると、2022年時点の農業粗収益と農業所得(※)には以下のような傾向があります(「全農業経営体」の平均値)。
経営類型 |
農業粗収益(万円) |
農業所得(万円) |
野菜作経営 |
約1,165.6 | 約98.2 |
稲作経営 |
約579.3 |
約20.2 |
酪農経営 |
約3,949 |
約394.7 |
(MAFF 2022年「全農業経営体平均」に基づく)
※農業所得=農業粗収益−農業経費(労働報酬や減価償却費を含む)
上記傾向より、粗収益が高くても、最終的な利益があまり残っていないことがわかります。この主な要因は経費の増加です。たとえば、肥料・飼料・燃油などの資材価格高騰は、経営を直撃しています。
このような実態から、会計データをもとに「何にいくら使っているか」「どこを削減できるか」を分析することは、収益性の改善には不可欠です。
コストの「見える化」が収益性改善のカギ
農業では収入を増やすことも重要ですが、それ以上に効果的なのが「支出を減らす」こと。特に以下のコストの「見える化」と管理がカギになります。
① 資材費の内訳を明確にする
「資材費」とひとまとめにせず、「肥料」「農薬」「包装資材」など項目ごとに分けて記録します。これらの記録を蓄積することにより、過去のデータとの比較がしやすくなり、費目の増減傾向や異常値を発見しやすくなります。また、価格上昇への対策(たとえば有機資材への切り替えなど)が検討しやすくなります。
② 労務費・外注費の把握
家族労働・パート・外注業務の比率を見直し、労働力の最適配置を考えるヒントになります。たとえば、機械化や繁忙期の集中作業の平準化が検討できます。
③ 営農規模に見合った支出管理
売上に対して過剰な設備投資や資材購入がないか、定期的に見直します。経営規模が大きくなるほど、小さな無駄が大きなロスにつながります。
設備投資と経費計上について
農業では機械や施設への投資が避けられません。しかし、「投資=経費ではない」ことを理解することが重要です。
たとえば農機や施設などの耐用年数がある資産は、購入した年に全額経費にできません。税務上は数年に分けて経費化する必要があり、これを「減価償却」といいます。
例:500万円のトラクターを税務上の法定耐用年数(原則7年)で償却する場合 → 年間約71.4万円ずつ経費として計上
※上記は税法上の計算例です。会計上の見積耐用年数とは異なる場合があります。
この処理を行うことで、実際の利益と納税額を適正に調整できます。
また、補助金で取得した機械等は、国庫補助金等の会計基準や税務規定に基づき、取得価額から補助金相当額を控除する方法等で会計処理を行う場合があります。ただし、処理方法を誤ると課税や帳簿に影響が生じるため、税理士や会計専門家への確認を推奨します。
参照元サイト
- 経営形態別経営統計(個別経営):農林水産省
- 全国農業会議所
- 農業簿記とは?一般の簿記との違いや特有の勘定科目などを解説 | クラウド会計ソフト マネーフォワード
- どこまでが「経費」として認められる?経費になるもの、ならないもの | 相続税申告相談プラザ|[運営]ランドマーク税理士法人
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