耕盤層はどのように形成されていくのか。良い土のためには耕しすぎはNG!?

耕盤層はどのように形成されていくのか。良い土のためには耕しすぎはNG!?

かつては重労働だった耕転は、農業機械の登場でより早く、より深く行えるようになりました。しかし農業機械で耕す現代の畑は、耕せば耕すほど硬い耕盤層が形成され、作物の根の伸長に影響を及ぼし、排水不良を引き起こす原因ともなっています。

そこで本記事では、耕盤層がどのように形成されていくのか、適切な土壌環境(土壌の物理性)にするためにはどうすべきかについてご紹介していきます。

 

 

耕盤層はどのように形成されるのか

耕盤層はどのように形成されていくのか。良い土のためには耕しすぎはNG!?|画像1

 

農業機械で耕うん作業を行うと、機械そのものの加圧と土壌粘土の凝集によって作土直下に硬い耕盤層ができます。耕盤層が適度な硬さであれば、水田においては漏水防止や機械の走行に役立ちます。しかし大型機械を使用している畑作物の圃場の場合、硬い耕盤層が根の伸長や下層からの水分供給の阻害の原因となり、干ばつ害を受けやすくなるなどの影響が及びます。

理想的な土壌の物理性とは

作物の根が自由に貫入できる土層を「有効土層」といいます。水田、草地などでは有効土層が50cm以上、樹園地では有効土層が1m以上あると良好な1等級耕地とみなされます。

下記で紹介する硬度計で「ち密度」※1を測定した際、29mm以上で厚さ10cm以上の層が耕盤層となりますが、耕盤層や地下水面などがあった場合、その「上の層まで」を有効土層といいます。耕盤層など有効土層を制限している土層を改良し、根が貫入できる層にすれば、その層も有効土層と考えます。

※1
ち密度とは、“土層における土壌の固体粒子の充填の程度”であり、作物の支持基盤としてだけでなく、作物の根の伸長や土壌中での水や空気の移動などにも密接に関係します。

犬伏 和之・白鳥 豊(編)『改訂 土壌学概論』(朝倉書店、2020年)の〜章(p.)には、作物の根の伸長が不良となる「ち密度」について土壌別に基準値が記されています。

土壌は固体である無機質の土壌粒子と動植物の有機物粒子から成る固体と、液体(土壌水分)、その隙間(孔隙)を満たす気体(土壌空気)から成り立ち、それぞれを固相・液相・気相といいます(「土壌の三相」)。

三相分布は土壌の種類や管理方法、深さなどによって変化しますが、一般に、

  • 有機物の多い土壌は少ない土壌より固相率が低い
  • 農耕地では表土のほうが下層土より固相率が低い
  • 固相率の高い土壌や土層では根の伸長が妨げられる

とされています。

これをふまえた上で、『改訂 土壌学概論』に挙げられている表4.2 作物根の伸長が不良となるち密度(土壌別)(高井・三好, 1977)を見てみます。

ち密度 項目 非黒ボク土壌
・粘・強粘質
非黒ボク土
砂質
黒ボク土※2
固相量 固相率(%) 50〜55 50〜55 28〜30
仮比重※3 1.35以上 1.40以上 0.80以上
硬度 指標硬度
(mm)
20〜22 20〜22 20〜22

引用元:犬伏 和之・白鳥 豊(編)『改訂 土壌学概論』(朝倉書店、2020年)p.38

作物根の伸長が「不良となる」土壌では、固相率の%が高いのが分かります。

土壌の物理性から見ると、根が自由に伸長できる柔らかさと十分な作土の深さが必要になります。そのため硬度は「山中式硬度計」※4の値で20mm以下であることが望ましいとされています。

もちろん、上記数値はあくまでも目安です。とはいえ、“固相率の高い土壌や土層では根の伸長が妨げられる”ことや、仮比重や指標硬度の目安を知っておいて損はありません。

※2
黒ボク土は、火山灰などの火山砕屑物を母材とする土壌で、主に北海道南部、東北北部、関東、九州に広く分布します。仮比重は0.6〜0.8と小さく孔隙に富み、保水性、透水性は良好で、耕しやすいのも特徴です。上記では、仮比重が0.8以上になると、作物根の伸長が「不良となる」と記されています。

※3
土壌のような多孔質の物質の密度を表す値。

※4
山中式硬度計は、土壌硬度を測定する計器の一つです。仕組みは以下の通りです。まず測定する土壌表面を平らに削り、山中式硬度計の円錐部を断面に垂直に押し込みます。円錐部の圧力に対する土壌の抵抗に比例してバネが縮み、その分が指標硬度目盛りに現れます。

他に代表的な土壌硬度測定器には「貫入式硬度計」が挙げられます。これを使用する際は、土壌の断面を整える手間がかかりません。最大深さ90cmまでのち密度を簡易に測定することができます。

 

 

要注意!耕しすぎはNG

耕盤層はどのように形成されていくのか。良い土のためには耕しすぎはNG!?|画像2

 

作土の深さは、作物の種類によって必要な深さを確保することが大切です。

『改訂 土壌学概論』には、2008年の農林水産省のデータを一部改変した「普通畑土壌の基本的な改善目標」が記載されていますが、そこに記された理想的な作土の厚さである25cm以上を確保するためには、数年ごとにプラウや深耕ロータリーによる深耕を行う必要があります。また、ゴボウなどの長根菜類では60cm以上の有効土層を確保する必要があるため、トレンチャーの利用が必要です。

とはいえ、注意しなければならないのが「耕しすぎもNG」ということ。

どんなによい土づくりを心がけている圃場であっても、機械で耕している限り、何度も耕せば耕すほど硬い耕盤が形成されていきます。

やや古い資料にはなりますが、農文協編『現代農業 2006年10月号』(農山漁村文化協会、2006年)の「農文協の主張」には、作土そのものを耕しすぎているという主張が記載されていました。耕耘は、植物の根や土壌中の動物がつくった土の隙間や、微生物の働きによりできた団粒構造を破壊することにつながります。

また深く耕そうと心がけた結果、下層の土が上にあがることで作土の化学性や生物性が悪化するという指摘もあります。有機物も微生物も少なく、養分も少ない下層の土が上がってくることがかえって作土に悪影響を及ぼしてしまうのです。

深耕=悪影響、というわけでは決してありませんが、深く耕す際には、下層の土は「少しずつ」削り上げることをおすすめします。

不耕起栽培や緑肥作物による対策が注目されるワケ

近年、不耕起栽培や緑肥作物による土壌改良に注目が集まっています。不耕起・半不耕起といっても、まったく機械を使わないわけではありません。むしろ作物や土の状態によっては、表土を浅く耕す必要性もあります。たとえば重粘土壌で不耕起栽培を行ってしまうと、湿害が発生しやすくなり、発芽も初期生育も悪くなります。このような場合には、上層を耕して畝を立てる、上層を整えたらあとは植物自身の生育に任せるといった「合わせ技」が効果的です。

また緑肥作物は、堆肥などの有機物の投入や機械だけでは難しい下層土の改良に効果を発揮します。根が深く張る緑肥作物を栽培すると、耕盤層のち密度が低くなり、その後に主作物を作付けすると、主作物の根が耕盤層を越えて深く伸びていきます。

 

参考文献

  1. 犬伏 和之・白鳥 豊(編)『改訂 土壌学概論』(朝倉書店、2020年)
  2. 土壌の基礎知識 Ⅰ
  3. 穴を掘って、耕し方を見直そう
  4. 農文協の主張:2022年3月「地力アップ」で異常気象に負けない、肥料を減らす『地力アップ大事典』の科学的知見が今、頼りになる

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