木酢液を使いこなすために知っておきたい、植物や微生物への働きかけの仕組み

木酢液を使いこなすために知っておきたい、植物や微生物への働きかけの仕組み

木酢液とは、木炭を作る工程で出る水蒸気が冷えて液体になったものです。木酢液の用途は幅広く、古くは木材の防腐剤や媒染、忌避剤としても利用されていました。もちろん農業分野でも度々活用されていますが、病虫害予防や農作物の増収に有効に働く一方、使い方を誤るとかえって生育環境を悪化させる恐れもあります。

木酢液は、殺虫剤、殺菌剤、栄養剤といった「化学製品」のように、その効果を端的に説明できるものではありません。そこで本記事では、木酢液を使いこなすために知っておきたい木酢液に含まれる成分、そしてそれがどのように植物や微生物に働きかけるのかについてご紹介していきます。

 

 

木酢液に含まれる成分

木酢液を使いこなすために知っておきたい、植物や微生物への働きかけの仕組み|画像1

 

木酢液の90%は水分ですが、残りの10%に多様な有機成分が含まれています。木酢液の原料となる樹木の種類や質、炭焼きの温度や天候などによって含まれる成分に差は生じますが、木酢液には有機酸類、フェノール類、カルボニル化合物、アルコール類、中性成分、塩基性成分が含まれています。

最も多いのが有機酸類で、木酢液に含まれる有機物のうち約50%を占めます。酢酸やプロピオン酸、酪酸などが挙げられます。有機酸類は、作物に吸収されにくい栄養成分(ミネラルなど)を作物が吸収しやすい形にかえる働きがあります。また土壌中の微生物がアミノ酸を合成する際の材料にもなります。

 

 

病気が発生しにくくなるのはなぜ?

木酢液を使いこなすために知っておきたい、植物や微生物への働きかけの仕組み|画像2

 

まず、植物はフェノール類などの抗菌・抗虫物質を植物体内で作り出し、病気や害虫から身を守っています。しかし植物が身を守る手段はそれだけではありません。

根や茎葉の表面や周囲にいる有用微生物の力を借りて、病原菌の繁殖を防いでいます。

(ちなみに有用微生物であっても病原菌であっても、微生物が有機物を分解・合成するしくみに違いはありません。例えば「発酵」も「腐敗」も微生物の働きは同じで、ヒトに有益か有害かで判断されているものです)

有用微生物(根圏微生物や葉面微生物)は、根や茎葉から分泌される光合成産物である糖やアミノ酸、ビタミンなどを栄養分として増殖します。そして病原菌の増殖を妨げたり、植物が吸収しやすいように、土壌中の栄養分を分解・合成する役割を担います。

一定濃度に薄めた木酢液は、この有用微生物のエサとなり、有用微生物の数を増やします。

木酢液の原液は強酸性なので、そのまま与えてしまうと、病原菌だけでなく有用微生物も死んでしまいます。しかし200倍〜400倍以上に希釈すると、徐々に微生物の繁殖が見られるようになります。先で紹介した木酢液に含まれる成分は有用微生物のエサになり、優先的に増殖した有用微生物が抗菌物質を分泌して病原菌を寄せ付けないことで、病気が発生しにくくなります。

病気予防のために木酢液を用いる際は、500倍に薄めた木酢液を7〜10日に1回、定期的に散布するのがおすすめです。

 

 

窒素過多の解消に役立つのはなぜ?

木酢液を使いこなすために知っておきたい、植物や微生物への働きかけの仕組み|画像3

 

植物は光合成で作った糖やデンプンを土壌中から吸収したアンモニアや硝酸態窒素と結合してアミノ酸を作ります。そしてアミノ酸を数個結合してタンパク質を作り、生長します。

※参考URL:【高校生物】「窒素からアミノ酸ができるまで」|映像授業のTry IT(トライイット)

しかし肥料が過剰に施されると、アミノ酸やタンパク質を合成するのに必要な光合成産物が足りなくなり、余った窒素成分(亜硝酸や遊離アミノ酸)が茎葉内に残ります。

ここで木酢液の出番です。木酢液を葉面に散布すると、木酢液に含まれる有機酸と余った窒素成分が結合して、アミノ酸が合成されます。

ただし、ここでも使用する木酢液の濃度に注意してください。窒素過多の解消には、200〜300倍の木酢液がおすすめです。また晴れた日の日中や夏の暑い時間帯に散布するのは避けてください。せっかく希釈しても熱で水分が蒸発し、濃度が上がってしまうことがあります。朝や夕方の涼しい時間帯に散布しましょう。

 

参考文献

  1. 木材乾留工業 とその將来 – J-Stage
  2. 日・韓両国における木炭・木酢液の活用分野拡大に関する研究
  3. (2010年7月発行)腐敗と発酵、腐敗と食中毒はどう違うのか?
  4. 農山漁村文化協会編『自然農薬のつくり方と使い方―植物エキス・木酢エキス・発酵エキス (コツのコツシリーズ) 』(2009年7月、農山漁村文化協会)

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