WAGRIとは何か。WAGRIでできることについて。

WAGRIとは何か。WAGRIでできることについて。

WAGRI(ワグリ)は「農業データ連携基盤」の通称で、農業に関連する多種多様なデータを連携・共有・提供するために構築された公的なクラウド型プラットフォームです。農林水産省や内閣府の主導により整備され、2019年4月から本格的に稼働しています。この基盤は、農水省が掲げる、農業の生産性向上や経営改善を目指す「データ駆動型農業」の中核的な存在として設計されています。

農業はWAGRIを通じて、気象、土壌、農地、肥料・農薬、市況情報など、多岐にわたるデータにアクセスできるようになります。さらに、これらのデータは共通の形式で提供されることで、農機メーカーなどは自社のシステムとデータを簡単に連携させることができ、Webサービスやアプリケーションとして農業者へ提供することができるといった特徴があります。

なお、WAGRIのサービスは、BtoBtoC型の構造を持っています。

BtoBtoC型とは、BtoB (Business to Business) と BtoC (Business to Consumer) を組み合わせた形で、企業間の取引と消費者向けの取引の間に別の企業が入り、企業から消費者に商品やサービスを提供されるまでの間に支援を行うビジネスモデルのことです。

WAGRIの場合は、データやプログラムを提供する「データ提供会員」と、それらを活用してシステムやサービスを開発・提供する「データ利用会員」が存在し、最終的にエンドユーザーである農業者がその恩恵を受けるという形です。

 

 

WAGRIでできること

WAGRIとは何か。WAGRIでできることについて。|画像1

 

WAGRIは農業に関する多様なデータを統合し、農業者の生産性向上や経営改善を支援するための公的クラウドサービスです。その最大の特長は、気象、土壌、農地、市況、病害虫、防除など、農業に必要な情報を一元的に提供し、誰もが活用しやすい形で提供している点にあります。

WAGRIが提供する主要なデータやプログラムにはこのようなものがあります。

データ・プログラム名

内容

1Kmメッシュ気象情報

局地的な天気予測データ

農地データ

圃場の位置や形状に関する情報
病害虫AI診断

画像解析による病害虫の特定

農薬登録情報

農薬の種類や使用方法に関するデータ
青果物市況情報

市場における農産物の取引価格情報

生育・収量予測

作物の生育状況や収量の予測データ

以下では、WAGRIを活用することで実現できる代表的な取り組みを紹介します。

精密な気象情報による栽培管理の効率化

近年、異常気象が頻発し、従来の経験則だけでは対応が困難になっています。WAGRIが提供する「1Kmメッシュ気象情報」は、非常に細かい単位での天気予測が可能です。これにより、地域特有の気象リスクに対応した栽培管理が実現。また、圃場作業の計画立案や省力化が進み、スマートフォンを活用した効率的な圃場管理も実現できます。さらに「農地データ」と組み合わせれば、位置情報を活用したより高精度な営農につながります。

病害虫対策の高度化と省力化

新規就農者にとって、病害虫の識別や対策は大きなハードルとなります。WAGRIが提供する「病害虫AI診断」を活用すれば、スマートフォンで撮影した画像をもとに病害虫を自動判定できます。これにより、早期発見と的確な対策が可能となり、被害拡大の防止につながります。また、「農薬登録情報」により、登録済みの農薬データ(約7,400種)を活用することで、適切な農薬の選定や使用回数の管理も容易になります。WAGRIを活用することで正確な防除を行えば、GAP認証取得にもつなげることができます。

市場動向を踏まえた戦略的な出荷計画

農産物の価格は需給に大きく左右されます。WAGRIでは「青果物市況情報」や「卸売市場調査情報」が提供されており、日々の価格動向を把握できます。これにより、高値の時期や市場を見極めて出荷する戦略的な販売が可能となり、収益の向上に貢献します。加えて、「生育・収量予測」プログラムを活用すれば、作物の生育状況に応じた収穫・出荷のタイミングを予測し、計画的な販売戦略を立てることができます。

多様なデータを重ねた一元的管理

WAGRIが提供するデータは、民間企業が開発する営農管理システムとも連携可能です。航空写真や地形図、土壌データ、生育予測、気象データなどを重ね合わせることで、農業者自身の圃場を視覚的かつ総合的に管理することができます。このことは、農業の見える化と判断の迅速化につながります。

 

 

WAGRIの利点と今後の展望

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WAGRIの導入により、さまざまなメーカー等が提供するシステム間のデータ連携が実現することで、農業者は特定のメーカーに依存することなく、自身の農業スタイルに合ったシステムを自由に選択できるようになります。また、農業者同士がデータ共有に同意すれば、地域内での技術向上や技能継承にも貢献することができます。

さらに、WAGRIには収穫期予測シミュレーションなど、農研機構の研究成果を活用したアプリも搭載されています。今後は野菜や果樹を対象としたアプリの実装も進む予定であり、農水省はWAGRIへの成果実装を委託研究や実証プロジェクトの条件とするなど、年々機能とデータベースの拡充が進められています。

なお、農業者のデータは、農林水産省が定めたガイドラインに基づき厳重に管理されており、第三者が無断で閲覧・利用することはできません。これにより、安心してWAGRIを活用することができる環境が整えられています。

 

 

WAGRI利用料金について

WAGRIとは何か。WAGRIでできることについて。|画像3

 

WAGRIは、利用者の目的や立場に応じて複数の会員プランが用意されています。

主な有料プランには、API※を活用してデータの取得・提供ができる「データ利用・提供会員」があり、月額40,000円で月間転送量は20GBまで。これを超過した場合は1GBあたり2,000円の追加料金が発生します。

教育機関向けの「アカデミア会員(A割)」や農業法人向けの「C割」では割引料金が設定されており、それぞれ月額8,000円、10,000円で利用できます。

もちろん、無料で利用できるプランも。無料プランには、自社データの提供のみが可能な「データ提供会員」、APIの仕様を試すことができる「お試し会員」などもあります。

会員種別

月額料金 データ利用 データ提供 月間転送量上限

備考

データ利用・提供会員

40,000円

20GB

超過分は2,000円/GBの追加料金

アカデミア会員(A割)

8,000円(実習利用で4,000円)

20GB

教育機関限定。申請は組織単位、追加割引あり

農業法人会員(C割)

10,000円

20GB

販売規模300万円以上の農業法人が対象、使用目的のヒアリングあり

データ提供会員

無料

×

API開発・運用は自社対応、データ提供のみ

お試し会員

無料

◯(限定)

×

25MB

アクセス100回/月、有効期間1年、サンプルAPI限定

特別会員

無料または割引

WAGRI運営事務局が認めた場合に適用

※APIとは「アプリケーション・プログラミング・インターフェース (Application Programming Interface)」の略で、アプリケーションをつなぐインターフェースを意味します。異なるソフトウェアやアプリケーションが相互に通信し、データを共有したり、機能を呼び出したりするための仕組みを指します。

過去にはこんなイベントも

2024年8月23日には、「デジタルで日本の農家を応援します!」と題し、「WAGRIオープンデー2024」と呼ばれるイベントが開催されました。このイベントは、WAGRI会員の内、約20団体が会場内のブースに分かれ、農業データ・プログラムを活用したさまざまなアプリ、サービスの展示を行ったものです。

今後開催されるかどうかは未定ですが、農業データ・プログラムを活用した農業に興味がある方は、ぜひチェックしてみてください。

 

参考文献:三輪泰史『図解よくわかるスマート農業: デジタル化が実現する儲かる農業』(日刊工業新聞社、2020年)

参照サイト

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