身近にある植物で農薬を作る①植物が持つ殺虫・殺菌、抗虫・抗菌作用について

身近にある植物で農薬を作る①植物が持つ殺虫・殺菌、抗虫・抗菌作用について

農薬は病害虫や雑草から農作物を守るために利用されます。しかし化学農薬が登場する前から、人々は自然の力を借りて農作物を守ってきました。近年では、消費者の健康志向の高まりや環境負荷の少ない農業のあり方から、化学農薬を使わない防除方法が注目されています。

そこで本記事では、身の回りで手に入る植物で農作物を病虫害から守れるよう、身近な植物がもつ殺虫・殺菌、抗虫・抗菌作用についてご紹介していきます。

 

 

害虫・病害菌への忌避効果がある植物

身近にある植物で農薬を作る①植物が持つ殺虫・殺菌、抗虫・抗菌作用について|画像1

 

利用できる植物の代表例を以下に記します。

植物名

効果

ドクダミ

独特の匂いに害虫への忌避作用あり。抗菌作用も。

ヒノキ

茎葉に抗菌成分ヒノキオールが含まれる。柑橘類の香り成分であるリモネンも含み、リモネンには害虫忌避作用がある。

マツ

ヤニを多く含む新芽が活用できる。ヤニが害虫の気門(腹部にある呼吸器官)をおおい、害虫を窒息死させる。

ナンテン

樹皮、葉、実に強い殺菌作用、抗菌作用あり。

ユキノシタ

茎葉や実に強い殺虫・殺菌作用あり。

ビワ

葉に含まれる成分アミダグリンに殺菌作用、抗菌作用あり。

ヨモギ

独特の匂いに害虫への忌避作用あり。

クスノキ

タンスの防虫剤でお馴染みの樟脳(しょうのう)は、クスノキの木片を水蒸気蒸留で抽出し結晶化させたもの。害虫全般に効果あり。

キハダ

生薬としても用いられる内側の黄色い樹皮の苦い部分に強い抗菌作用あり。害虫への生育阻害効果も。

アセビ

庭木としてもお馴染みだが有毒植物で、殺虫作用あり。

これらの植物がもつ固有の殺虫・殺菌、抗虫・抗菌作用のある成分を抽出し、散布することで、農作物を害虫、病害金から守ります。

 

 

植物がもつ成分の分類と作用

身近にある植物で農薬を作る①植物が持つ殺虫・殺菌、抗虫・抗菌作用について|画像2

 

アルカロイド

植物界に広く分布し、動物に対して特異な、しかも強い生理作用をもつ塩基性窒素を含んだ有機化合物の総称。(出典元:小学館 日本大百科全書 ニッポニカ)

代表的なものにはタバコのニコチン、有毒植物トリカブトの毒成分アコニチン、ジャガイモの芽に含まれるソラニン、またトウガラシのカプサイシンやお茶、コーヒーのカフェインもアルカロイドの一種です。

かつてニコチンを原料とした農薬も作られていましたが、人にも毒になるため、現在は農薬として使われていません。先に挙げた植物では、アセビに含まれる成分がアルカロイドの一種です。アセビのアルカロイドも、人体に無害とは言い切れないので、抽出液を利用する際は1000倍に希釈し、マスクをつけて散布を行います。

フェノール類

フェノール類は“ベンゼンなどの芳香環にヒドロキシ基が結合した化合物(引用元:小学館 日本大百科全書 ニッポニカ)”で上記で紹介した植物に含まれる代表的なフェノール類には渋み成分であるタンニン(ヨモギなどに含まれる)やフラボノイド(ドクダミなどに含まれる)などが挙げられます。

テルペン類

テルペン類は植物の茎葉や花、果実などから得られる揮発性の香り成分の主成分で、代表的なものにはミントに含まれるメントールや柑橘類の香りのもとであるリモネンなどが挙げられます。上記で紹介した植物においては、クスノキの樟脳もテルペン類です。

 

 

防除に植物の抽出物を使う時のポイント

身近にある植物で農薬を作る①植物が持つ殺虫・殺菌、抗虫・抗菌作用について|画像3

 

病害虫予防のために日常的に用いる場合と、天候の悪化等で病害虫が発生してしまった際に用いる場合で、使用する植物素材を使い分けるのがポイントです。例えば、ドクダミやヒノキの葉など毒性のないものは日常使いに向いています。病虫害発生時には強い作用をもつアセビやクスノキなどを局所的に活用します。

 

 

植物素材を採取する際、注意すべきこと

身近にある植物で農薬を作る①植物が持つ殺虫・殺菌、抗虫・抗菌作用について|画像4

 

ドクダミなど、農業生産において雑草と呼ばれるものは、採取がそのまま雑草刈りにもつながるので一石二鳥ですが、手作り農薬に利用できるすべての植物が圃場内に生えているとは限りません。

植物素材を得るために、公園や野山に探しに行く人もいるかと思いますが、採取する前にはその場所が植物を採取していい土地かどうか、事前に確認してください。公園に生えている植物を勝手に切り取るのはNGです。また、採取可能な場所であっても、必要な分だけを採取するようにしてください。必要以上に採取するのはマナー違反です。

それから採取する際はゴム手袋などを持参し、植物を素手で触らないようにしてください。植物によっては手がかぶれたり、痒くなったりすることがあるからです。

利用できる植物の中には毒草と見分けにくいものもあります。例えばトリカブトとセリ、キツネノボタンとヨモギなどが挙げられます(トリカブトとキツネノボタンは毒草)。判断がつかない場合には、採取しないことをおすすめします。

 

参考文献

  1. 農薬の基礎知識 詳細:農林水産省
  2. 農文協編『自然農薬のつくり方と使い方―植物エキス・木酢エキス・発酵エキス』(2009年、農山漁村文化協会)
  3. キハダ / 黄柏(おうばく)|成分情報|わかさの秘密
  4. アセビ|薬草データベース

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