除草剤に頼らない水田の除草法とは。

除草剤に頼らない水田の除草法とは。

環境への影響や持続可能な農業への関心の高まりから、除草剤に頼らない雑草対策が注目されています。

 

 

除草剤に頼らない水田の除草法の例

除草剤に頼らない水田の除草法とは。|画像1

 

米ぬかの利用

有機農業や環境負荷軽減の観点から、除草剤に頼らない方法が注目を集める中、代表的な例の一つに「米ぬか」の利用があります。移植後の水田に米ぬかを散布し、雑草の発芽や生長を抑えるという方法です。

この方法の鍵となるのは、米ぬかが土壌中の微生物によって分解される過程で起こる環境の変化です。

米ぬかが分解されると、土壌表層の酸素が急速に消費され、水中の溶存酸素量が著しく低下します。処理翌日には1mg/ℓ以下にまで下がることが確認されており、土壌表面では酸化還元電位が低下し、強い還元状態になります。こうした変化は、特に酸素を必要とする雑草の発芽を抑制する効果があります。たとえば、ヒエやカヤツリグサ類、一年生の広葉雑草などが代表的で、これらは米ぬか処理により発芽率が著しく低下することが実証されています。

また、米ぬかの分解により発生する有機酸や、くず大豆と混用した際に含まれるサポニンといった成分も、雑草の根の成長を阻害する作用を持つことが報告されています。特にコナギに対しては発根抑制の効果が期待できます。

米ぬか除草法を効果的に活用するためには、いくつかのポイントがあります。

まず、散布のタイミングが非常に重要で、雑草が発芽する前に処理することが求められます。移植後すぐに散布し、可能であれば代かきから移植までの期間を短くすることで、効果が安定しやすくなります。散布量は10アールあたり10〜20kgが目安とされています。また、処理後の水田では水深をなるべく深く保つことも効果を高めるために重要なポイントです。

もちろん、注意点もあります。

まず米ぬかの効果は、イヌホタルイやタイヌビエといった種に対しては発芽の抑制効果が小さく、初期生育の抑制にとどまる傾向があります。また、米ぬかの分解過程で一時的に悪臭が発生することもあるため、近隣環境への配慮も必要です。加えて、この方法だけで完全に雑草を防ぐのは難しいため、機械除草や他の除草技術と組み合わせるのがおすすめです。

代かき、機械除草、深水・濁り水

代かき(水田に水を入れた状態で土をかき混ぜる作業)を2回以上行うことが除草に効果的とされています。

1回目の代かきは深水状態で行い、雑草の種子を表層に移動させます。その後、3~4週間湛水して雑草の種子を発芽させ、2回目の代かきでそれらを浮かせて除去したり、土中にすき込んだりします。これにより雑草の発生源を根本的に減らすことができます。より除草対策を徹底する場合には、必要に応じて3回目の代かきを行います。この方法では特にヒエ、コナギ、ホタルイなどの一年生雑草に効果が期待されます。

機械除草は、雑草が芽を出した後、成長する前の早い段階で行うことがポイントです。

草丈が3cm程度のうちに水田用除草機を使って、稲株の間を撹拌するように除草します。田植え後6日目と13日目に行う2回の機械除草によって、代表的な雑草であるノビエをほぼ駆除できたという事例もあります。さらに、自作のチェーン除草機を用いた場合でも、田植え後7日目、14日目、21日目と3回作業することで約9割の除草効果が得られたという報告があります。

深水・濁り水管理は水田の水位を意図的に高く保つことで雑草の発芽や生長を抑える方法です。

水深を5cm以上、稲の生育に応じて10〜15cm程度に保ち続けることで、雑草の葉が空気に触れず、光合成ができなくなり枯死します。また、水田の水が濁っていることで光の透過が妨げられ、種子の発芽自体も抑制されます。これによりヒエやコナギといった一年生雑草の発生を抑えることができます。ただし、深水管理は稲の分げつを抑制し、穂数や収量に影響を与えることがあるため、雑草の種類や圃場の状況に応じた管理が必要です。

アイガモ

除草剤に頼らない水田の除草法とは。|画像2

 

田植えから約1週間後から出穂期までの期間、アイガモのヒナを水田に放し飼いにする方法です。アイガモは水田内の雑草を餌として食べるだけでなく、泳ぎ回ることで足で土をかき混ぜ、水田の水を濁らせます。この濁り水が太陽光の透過を遮り、雑草の光合成を阻害して発芽や生育を抑える効果もあります。

さらに、アイガモはイネにつく害虫も食べるため、同時に害虫防除の効果も期待できます。加えて、アイガモの糞が水田に肥料として還元されることで、栄養供給の面でも有効です。

ただし、アイガモに餌を与えるなどの健康管理や、カラスやキツネなどの外敵から守るために水田をネットや電気柵で囲う必要性が生じます。

とはいえ、近年ではこのような管理の手間を省きつつ、アイガモ農法の利点を活かす技術として、「アイガモロボ」といった自動抑草ロボットも登場しています。これは水田を動き回って濁りを発生させ、雑草の生育を抑制します。

その他の方法

前述した方法の他には、「紙マルチ」「カブトエビ」「ジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)」などの利用があります。

まず、紙マルチは、再生紙を用いたマルチング資材を田植えと同時に田面に敷設し、雑草を抑制する方法です。紙マルチが日光の透過を遮ることで、田植え後およそ1カ月の間、雑草の発芽や生長を抑える効果があります。敷設した紙がしっかり田面に密着するように、代かき時に田を平らに整えることや、紙が浮かないよう極浅水で管理することが重要です。

カブトエビ、というのは淡水性の甲殻類であるカブトエビを利用した「カブトエビ農法」を指します。雑食性であるカブトエビを利用すると、水田内の雑草の新芽を食べてくれるだけでなく、泥を掘り起こして水を濁らせることで、雑草の光合成を妨げるという効果もあります。カブトエビが泥をかき回すことで、稲の根に酸素が供給され、健全な生育を助けるという一面もあります。

ジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)は稲作の害虫としても知られています。しかしその食性を逆手に取って除草に活用する技術も開発されています。田植え後3週間ほどは極浅水を保ち、苗がタニシに食べられないよう管理します。イネがある程度成長してから水位を5〜6cmほどに上げると、ジャンボタニシは雑草の方に移動し、それを食べてくれるのです。大きな苗で田植えをすることで、稲が食害を受けにくくなり、この方法の効果が高まります。ただし、一度導入すると根絶が非常に困難なため、ジャンボタニシがいない地域への持ち込みは厳禁です。

それぞれの地域や圃場の条件に応じて、最適な方法を選択し、適切に管理することが、除草剤に頼らない米づくりの成功に繋がります。

 

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