日本の農業は、国内需要の縮小という大きな波に直面しています。人口減少、少子高齢化、食生活の多様化によって、従来のように国内市場だけを見ていては安定的な収益を確保することが難しくなりつつあります。
農林水産省の統計によれば、農産物の国内消費量は年々減少傾向にあり、一方で海外市場では「日本産」のブランド価値が高まり続けています。
特に富裕層を中心とした国や地域では、日本の果物や米は高級品として扱われ、国内価格の数倍で取引されることも珍しくありません。こうした状況は、農業経営にとって輸出が新たな成長機会であることを示しています。
成功事例に学ぶ


JAいちかわ(千葉県市川市)は、地域特産の和梨を中東市場に持ち込みました。挑戦の舞台となったのはアラブ首長国連邦(UAE)のドバイです。取り組みは2013年から始まりましたが、当初、和梨は認知されていませんでした。
しかし2025年9月5日に掲載された日本経済新聞の記事によると、現地のスーパーで試食を提供した際、試食が好評だったことが、大きな手応えとなったとされています。
コロナ禍を除き、ほぼ毎年調査団を派遣して信頼関係を築いた結果、和食レストランやホテルの寿司店を中心に販路を拡大。同記事によると、一部の高級小売店などでは日本産梨が国内価格の数倍で販売される例(たとえば、品種によっては1個5,000円に達するなど)があります。
2024年度には、生鮮食品の長期保存技術を持つ企業「ZEROCO」と連携。これにより、従来は9〜11月に限られていた出荷可能期間を大幅に延長し、収穫から半年後でも鮮度を保ったまま輸出できる体制を確立しています。
販路拡大のポイント


上記、成功事例から学べるポイントは、以下の3段階に整理できます。
ステップ① 現地ニーズを調べる
味の好み、食文化、価格帯を徹底的にリサーチ。現地で梨といえば洋梨という常識を前提に、和梨をどう紹介するかを工夫しました。
ステップ② 信頼関係の構築
商社、行政機関、日本大使館などを巻き込みながら、10年以上にわたり地道に関係を築いたことが成果につながりました。
ステップ③ 保存・輸送技術の確立
気候条件や物流事情を考慮し、新技術を導入することで「品質を維持して届ける」仕組みを整備。ここに投資したことが、中東市場での定着に不可欠でした。
輸出に挑戦する前に押さえておくべき視点
まず、消費者がどのような味を好むか、どの価格帯に需要があるかを把握することは必須です。和梨の場合は「水分が多く、食べやすい」という特徴が強みとなりました。
次に、最初から大量輸出を目指すのではなく、まずは少量を試験的に送ることが重要です。そこから改善点を探り、次のステップへつなげられます。
加えて、成功事例で登場した和梨以外にも、米、柑橘類、ぶどう、いちごなど、日本産農産物には高価格で売れるポテンシャルがあります。「希少性」や「品質の高さ」を訴求できる作物は輸出に向いています。
海外輸出を検討する際に有効なポイント


行政・支援機関を活用する
ジェトロや各県の農業振興課は、現地市場調査や展示会出展のサポートを提供しています。まずは相談窓口を訪れることで、情報収集やパートナー探しがスムーズになるので、海外輸出を検討している方はぜひ一度相談してみてください。
現地のパートナーを見つける
商社や輸入業者と連携することで、輸出に必要な物流や通関手続きのハードルを下げられます。小規模農家が単独で動くよりも、ネットワークを持つ企業を頼ることが近道です。
品質の「一貫性」を守る
海外市場では一度信頼を失うと再起は難しいため、「規格を揃える」「輸送後も鮮度を保つ」といった品質管理が特に重要です。
クラウドファンディングや共同出荷の活用
資金面の不安がある場合、クラウドファンディングを通じて海外に直接販売する試みや、地域の仲間と共同で出荷する方法も選択肢になります。
長期的視点を持つ
輸出は短期間で成果が出るものではありません。JAいちかわのように10年単位の積み重ねが信頼と販路をつくります。目先の利益よりも「持続的な市場開拓」を念頭に置くことが大切です。
海外販路開拓の可能性と未来


日本の農業にとって輸出は、単なる収益拡大の手段ではなく、持続性を確保するための重要な戦略です。国内市場が縮小する中でも、海外市場には新たな需要が広がっています。
地域特産品を世界へ届けたJAいちかわの事例は、地道な努力と技術革新、そして信頼関係の構築によって海外販路が現実のものになることを示しています。
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