雇用就農とは、農業法人や企業に雇用される形で農業に従事することを指します。
農業においては依然として自営農業の割合が高く、高齢者による就農が主流であるものの、若年層の間では法人などに雇用される形での就農が拡大しています。
具体的には、2021年の統計で新規雇用就農者数は1万1,570人と前年比15.1%増加しました。特に49歳以下の雇用就農者は8,540人で、前年から16.0%の増加を記録しています。
なお、2025年2月25日に公開された日本農業新聞の記事によれば、2023年の新規就農者数の就農形態を見ると、2020年までは親元就農(農業を営む実家の家業を受け継ぐ形で農業に従事する就農形態)が最も多かったものの、21年以降は雇用就農が上回るようになった、とあります。
雇用就農の増加には、農業法人の増加や経営規模の拡大が影響しています。6次産業化や農地の集積が進む中、人手不足の補填だけでなく、組織経営の一環として新たな人材を確保する動きが活発化しています。
この傾向は今後も続くと考えられ、農業法人の役割はますます重要になっていくと考えられます。
雇用就農のメリット
新規就農者側から見た雇用就農のメリットには、農業法人や企業に雇用され、給与を得ながら農業に従事する形態から、安定した収入が得られること、独立開業に必要となる初期投資を負担せずに農業を始められることなどがあげられます。
また、農業法人の多くは農作業だけでなく、加工・販売まで手がけることから、農業技術だけでなく経営や流通のノウハウを学ぶことができるというのもメリットといえます。特に農業未経験者にとっては、実践を通じて技術を習得できるので、将来的に独立を目指す人にとっても大きなメリットとなります。
なお、雇用就農者を対象とした教育機関も増えつつあります。これらの学校では、農業法人が求めるスキルや知識を学ぶことができ、新規就農者が農業業界に参入するための支援が行われる場合もあります。
法人側が求める人材像
前述した日本農業新聞の記事(2025年2月25日に公開)によると、農業法人は人材に対して、コミュニケーション能力と協調性を最も重視している、とあります。農業はチームでの作業が多いことから、周囲と円滑に連携し、積極的に情報共有ができる人材が求められているのです。
また、農業機械の操作に関する資格の保有も、採用に有利とされています。トラクター操作に必要な大型特殊自動車運転免許やフォークリフト運転技能講習修了証を入社前に取得しておくと、「即戦力として活躍できる」といった自己PRができます。
雇用就農のデメリット・注意点
雇用就農にはメリットも多々ありますが、現場の実態とのギャップにより雇用就農者が離農してしまうケースも少なくありません。
少々古いデータにはなりますが、総務省が公開した2014年度の調査によると、農業法人で研修を受けた1,591人のうち、564人(35.4%)が離農しています。その理由は「業務内容が合わない」「想定と違っていた」というものでした。以下、詳細です。
- 農業の理想と現実のギャップ(31.5%)
- 労務管理に対する不満(給与関係)(19.7%)
- 労務管理に対する不満(勤務時間関係)(13.4%)
また、前述した「雇用就農のメリット」にて、“実践を通じて技術を習得できるので、将来的に独立を目指す人にとっても大きなメリット”となる、と紹介しましたが、法人によっては独立志向の強い人材を避ける傾向もあることに注意が必要です。これは、農業法人側が長期雇用を前提としており、短期間で独立されることを懸念しているためです。
ミスマッチを防ぐために
雇用就農のミスマッチや離農を防ぐためには、就農前の適切なマッチングが重要です。
就農希望者と農業法人の間で、仕事に対する認識の違いをなくすため、国や自治体、民間企業による求人情報の提供や個別面談、法人就業相談会の開催など、求職者が自分に合った農業法人を選べるような環境が整備されています。
短期就業体験や「農業インターンシップ制度」も、就農後のミスマッチを防ぐための有効な手段の一つです。特に、農業インターンシップ制度は全国約300の農業法人で1〜6週間の就業体験が可能です。インターンシップを通じて、自分に農業が合っているかどうかを事前に確認できるため、離農の原因としてあげられていた就農後のギャップを減らすことができます。
農業インターンシップとは | 体験する | 農業をはじめる.JP (全国新規就農相談センター)
農業界の発展に期待高まる雇用就農の拡大
近年はロボット農機やIoT技術を活用した「スマート農業」の導入も進んでいます。従来の農業では天候に左右される労働環境や肉体的に負担の大きい作業によって、農業に対する理想と現実のギャップが生じ、モチベーションが維持できず、離農につながるケースもありました。しかしスマート農業が農作業の負担を軽減しています。
たとえば、農業データのデジタル管理を進めることで、従来は熟練農家の経験に頼っていた生産ノウハウが可視化され、効率的な作業が可能となりました。
雇用就農ならではの特徴(安定した雇用環境や労働環境)と合わせて、スマート農業を活用した環境整備が進めば、より多くの若者が農業に魅力を感じ、定着率の向上にもつながると期待されています。
もちろん、賃金や労働環境など、農業法人によって待遇に差があるといった課題もありますが、雇用就農は未経験者でも農業に挑戦しやすい仕組みといえます。今後の農業界の発展において、雇用就農の拡大と定着率向上のための取り組みはますます重要になっていくと考えられます。
参考文献:中村恵二 『図解入門業界研究 最新農業の動向としくみがよ~くわかる本』(秀和システム、2023年)
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