おとり作物としてのエンバクが効果を発揮するメカニズム

おとり作物としてのエンバクが効果を発揮するメカニズム

エンバクは、キャベツやキャベツやハクサイなどのアブラナ科野菜で深刻な「根こぶ病」を低減する「おとり作物」として非常に有効です。

根こぶ病とは土壌伝染性病害の代表例で、Plasmodiophora brassicaeと呼ばれる病原菌によって引き起こされます(以下、根こぶ病菌)。

根こぶ病菌は土壌粒子と同じくらい小さな休眠胞子と呼ばれる胞子をつくり、土壌を汚染します。この胞子は耐久性があり、土壌中で7〜10年以上生存し、土壌中で感染できる植物が栽培されるまで長く生き残る厄介な存在です。

根こぶ病菌がハクサイやキャベツ、ブロッコリーなどの根に感染し、根をこぶ状に肥大させます。その結果、水分や養分の吸収が阻害されてしまい、作物は生育不良や枯死に至ります。

一度汚染された土壌では、条件が整うと根こぶ病菌の発芽・感染が繰り返されたり、土壌pHが6.0以下となった酸性の土壌や排水不良の圃場では発病が助長されたりと非常に厄介な病気です。

 

 

エンバクが効果を発揮するメカニズム

おとり作物としてのエンバクが効果を発揮するメカニズム|画像1

 

根こぶ病の対策として、土壌消毒や石灰によるpH調整、抵抗性品種の導入などがありますが、エンバクもその一つです。エンバクには土壌中の菌密度を劇的に減らす効果が報告されています。そのメカニズムにおいては現在も研究が続いています。

以前は、根こぶ病菌の休眠胞子は植物の根から出る成分に反応して発芽し、エンバクのような非宿主植物でもその発芽を促すのではないか、と考えられてきました。実際、過去の研究では、宿主だけでなく非宿主植物の根から出る成分でも発芽が進む可能性が示されていました。

しかし、2023年の研究において、この可能性をそのまま受け取れないことが示されました。この研究では、無菌条件で集めた根からの分泌物を使って調べたところ、宿主植物でも非宿主植物でも、それだけでは休眠胞子の発芽を直接促せなかったのです。研究チームは、胞子が目を覚ますには、根そのものよりも、土の中にいる細菌の集まりが重要だと報告しています。さらに、硝酸態窒素や糖、アミノ酸などが土壌細菌の構成を変え、その結果として、発芽しやすい土の状態がつくられる可能性を示しています。

つまり、根こぶ病菌が動き出すきっかけは、植物の根から出る物質そのものというより、根が土壌中の微生物環境に与える影響を通じて生まれている、と考えた方が実態に近いとされています。

ここで、本記事で取り上げているエンバクについて。エンバクはイネ科の植物であり、根こぶ病菌の宿主植物であるアブラナ科ではありません。根こぶ病菌にとっては本来の増殖先ではないのです。ところが、エンバクを育てると、根の周囲の土の環境や微生物の集まりが変わり、休眠胞子が発芽しやすい状態になる可能性があります。そこでは根こぶ病菌が発芽したとしても、そこにある植物の根は非宿主植物であるエンバクの根ですから、うまく増殖することができません。つまり、根こぶ病菌は発芽したのに、増殖できない状態になります。その結果、土の中に残る病原菌の数を少しずつ減らせる、というのがおとり作物としての基本的な考え方です。

現時点では、エンバクが特別な成分を出して、病原菌をピンポイントで発芽させるとまでは言い切れないのが現状です。むしろ最新研究をふまえると、エンバクの効果は、根のまわりの土壌環境や微生物相を変えることで、結果として病原菌の発芽と消耗を引き起こしている、と考えられます。

エンバクは根こぶ病菌が動き出しやすい土の状態をつくりつつ、自分自身は増殖先にならない植物といえます。これが、エンバクが根こぶ病のおとり作物として使われる理由です。発芽した病原菌が増殖するのを妨げ、土の中の菌密度を下げ、次に作付けするアブラナ科野菜の被害を軽くすることが期待されます。

ただし、冒頭でも述べた通り、根こぶ病菌は土壌中で非常に長く生き残る特徴があります。エンバクだけで完全に解決するというより、石灰によるpH調整や排水改善、輪作などと組み合わせて使うことが好ましいです。

根こぶ病対策としてのエンバク活用のポイント

十分な生育期間・分解期間を確保する

エンバクは播種後一定期間、生育させることで効果を発揮します。短期間ですき込むと発芽刺激が不十分となる可能性があります。事例では約50日程度の栽培期間が菌密度低減に寄与したとされています。

また、エンバクをすき込むことで有機物が土壌に供給され、団粒構造の改善が期待できます。ただし、過度な窒素固定や未熟有機物の残留を防ぐため、適切な分解期間を設けることが重要です。

発病程度に応じて多面的な対策を併用する

先述した通り、エンバクだけで根こぶ病対策に講じるのはおすすめできません。菌密度が極端に高い圃場では、石灰施用によるpH矯正や排水改善、抵抗性品種の導入などとの組み合わせが重要です。特にpH管理は根こぶ病対策の基本です。土壌pHを6.5以上を目安に調整することが推奨されています。

 

 

エンバク活用は“時間を味方につける”戦略

おとり作物としてのエンバクが効果を発揮するメカニズム|画像2

 

根こぶ病菌は土壌中で長期間生存する厄介な病原体です。しかし、その発芽メカニズムを逆手に取ることで、菌密度を低減させることが可能です。

重要なのは、単独の技術として過信するのではなく、pH管理や排水改善、抵抗性品種との組み合わせによって総合的に対策を講じることです。エンバクの活用は中長期的な菌密度低減を目指す技術、と位置付けるべきです。

 

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