コメ価格の高騰は酒米や加工用米市場にも影響を与えている。今回はその背景から説明しよう。
「山田錦」で代表される酒米は「酒造好適米」と呼ばれ、主食用のコメと比べて粒が大きい。価格も主食用米に比べて高めになっている。酒蔵はJA全農などから酒米を仕入れているが、最近は地元農家と契約栽培している酒蔵が増加している(詳細は、「農大酵母の酒蔵を訪ねて」:発売(株)農大サポート)。
今回の酒米の価格高騰は、主食用米の価格が高騰したことにより、酒米から主食用米に作付を変更した農家が多く、酒米の供給量が減少したことによる。
加工用米は、一般的に、多収量で価格が安いコメが作付されているが、主食用、業務用と明確に区別されている訳ではない。加工用米は主食用や業務用米の価格が高くなれば主食用・業務用に流れる。その理由は簡単で、コメには主食用・業務用・加工用の区別は明確には無いからだ。要するにコメはコメなのだ。卸売業者などコメ関連業者は、膨大なコメの品種・地域・特性を考慮しながら、主食用・業務用・加工用の相場を見ながら多種類のコメをブレンドしビジネスを展開しているのだ。このブレンド比率はコメ関連業者の企業秘密の一つであるから、業者たちはその仕組みをオープンにはしないのだ。
《国はこのコメ関連業者の行動をケシカランと批判しているのだ》
筆者から見れば、国や小泉農林大臣は、コメ政策・農業政策の失敗の責任を転嫁しているようにしか見えない。このコラムで何回も指摘しているように、今回のコメ高騰の原因は、コメ不足、つまり、コメの生産量が絶対的に少ないからなのだ。さらに、問題なのは、マスコミ等に登場しているコメ専門家は、「今回のコメ価格高騰の理由は、流通業者がコメを隠している、コメの流通経路が複雑、JA集荷が不透明、トラックが足りないなどの複合要因がからんでいる・・・」などの差し障りないコメントばかりだ。
《農水省もコメ専門家も余りにも現場を知らなさすぎる。これでは、間違った情報が消費者に伝わるばかりだ》
最近になり、国もコメ不足を認めている。小泉大臣にいたっては、流通業者悪玉論の旗色が悪くなってきたので、コメの統計が不正確だったと認め、統計改革を速やかに実施するとアジっている。
実は、農林統計については昔から問題があった。筆者は、かつて、1990年代のガットウルグアイラウンド時に、コメの輸入自由化に対する影響予測を分析したことがあった。この時、筆者は農林水産大臣に利用申請書を提出し許可をもらい、指定統計である「米生産費調査個票」を借り出し、大型計算機を使い、幾つかのシミュレーションを行った。この時に打ち出されたデータをみると、サンプル番号1601以降のサンプルが1600番のサンプルと同じことに気がついた。筆者は掃き出しプログラムが間違っているのかと考え、入念にチェックしたが間違いはなかった。何回か計算機を回したが、いずれも同じ結果だった。
筆者は思い切って農林水産省の担当部署に問い合わせをした。
「実は、何回も計算機を回したのですが、サンプル数は1600しかないのですが・・・発行されている生産費調査の統計書を見るとサンプル数は3500サンプルと書いてあるのですが・・・」
と質問したところ、
「それは、稲田さんの指摘した1600サンプルが正しいのです。統計データで集めたサンプル数は1600で、残りの1900戸は1600番目の農家をコピーしたのです」
「それってどういう事ですか?」
「統計書の公表数字の3500サンプルに合わせるために、農水省の統計数理班と相談し正規分布を想定し1600サンプルを3500にしたのです。その処理で問題ないそうです」
「統計的に問題がなくても、しっくりいきませんね。それだったら、いっそのこと統計書の総数を1600サンプルにすればよいではありませんか?」
「1600サンプルにすると大蔵からの予算が削られてしまい、サンプル数が足りなくなるのです。だから、3500サンプルとして予算請求をして、1600サンプルを死守しているのです。稲田さん、これは秘密にしてください」
《この話は本当の話である》
今回の収穫量調査も、全国8000サンプル(圃場)での坪刈を基準にして全国の収穫量を求めていると公表されているが、おそらく、農水省はサンプル数を8000として財務省から予算を獲得した。しかし、実際のところは、坪刈したサンプル数は8000サンプルよりもかなり少なかったために、収穫量調査の精度が大きく下がったものと考えられる。
30年以上前には農水省は大蔵省、今は財務省に牛耳られており、世界に冠たる我が国の農林統計も、今やその面影もない。
《今回の米価格高騰の裏には、財務省の「日本農業はいらない」(農の風景 第2回参照)との政策・予算判断が、いみじくも表面化してしまったのである》
今後、小泉大臣は収穫量調査も含めた農業政策の予算を2兆円に増加し、新たな農業政策を国民に示すことになる。次回は、その政策で日本のコメ自給を守ることができるのかを財務省との絡みで考えてみる。
(つづく)
稲田宗一郎(いなだ そういちろう)