気象の影響を理解する。気象情報を活かした農業の取り組みとは。

気象の影響を理解する。気象情報を活かした農業の取り組みとは。

近年、気候変動の影響により、農業現場では高温や豪雨などの異常気象が頻発し、農作物の品質低下や収量減少、病害虫の増加といった被害が深刻化しています。2024年の日本の年平均気温は観測史上最も高く、水稲の一等比率の低下や果樹の日焼け・過熟果の増加など、多くの作物が影響を受けました。こうした気象災害に対応するためには、最新の気象情報を活用し、事前に備えることが重要です。

本記事では、おさえておきたい農業に影響を及ぼす基本的な天候とぜひとも活用したい気象データなどをご紹介します。

 

 

農業気象災害をもたらす基本的な天候

気象の影響を理解する。気象情報を活かした農業の取り組みとは。|画像1

 

農業は自然の影響を大きく受ける産業です。そのため、気象条件によっては生産に深刻な影響を及ぼします。特に、低温・長雨・高温・少雨・大雪といった気象条件は、作物の生育や品質に大きな影響を与えます。

低温

春から夏にかけて低温が続くと、作物の生育が遅れたり、病害が発生しやすくなったりします。特に水稲では、幼穂形成期から出穂期にかけて低温が続くと、障害不稔のリスクが高まります。

天候 作物への影響
春の低温
(強い寒気が流入し、気温が上がらない)
水稲の生育遅延

いもち病の増加

梅雨期の低温

(オホーツク海高気圧の影響で冷気が流入)

日照不足による生育障害

品質低下

気象データを活用した低温対策としては、1〜2週間先を対象とした「低温に関する早期天候情報」や、当日発表される「低温注意報」などを活用し、事前の管理を徹底します。

長雨・日照不足

梅雨前線が停滞すると、長雨や日照不足が発生します。この気象条件下では、作物の光合成が制限され、また湿度が高くなることで病害が発生しやすくなります。

長雨・日照不足で起こりうること 具体例
排水不良・根腐れ 野菜・水稲の根腐れ
病害の増加 果樹の黒星病・炭疽病

稲こうじ病の増加

生育障害 野菜の徒長、果実の着色不良

「長雨・日照不足に関する気象情報」を活用し、事前に対策に講じることが重要です。

高温

作物に深刻なダメージを与える気象条件の一つです。

高温で起こりうること 具体例
収量・品質の低下 水稲の白未熟粒の増加など
生育異常 野菜の着色不良・葉焼け
害虫の増加 ハダニ類やコナジラミ類、アザミウマ類などの害虫が発生しやすくなる

また、熱中症にも注意が必要です。

「高温に関する気象情報」や「熱中症警戒アラート」を活用し、農作物に対しては適切な管理を行い、農作業を行う際には熱中症にならないよう注意を向けてください。

少雨

梅雨前線の北上が遅れる、または早く終わると、少雨が続くことがあります。それに伴う水不足が発生すると、作物の生育に悪影響を及ぼします。

少雨で起こりうること 具体例
水不足 水稲・畑作物の生育障害
高温と重なる 乾燥ストレス

収量減少

長期的な少雨が予想される場合は、「少雨に関する気象情報」を活用します。少雨による影響を回避するためには、適切な水管理を行うことが大切です。

大雪(+冬の低温)

冬季は寒気の流入や低気圧の影響で大雪や低温が発生します。

大雪で起こりうること 具体例
園芸施設の倒壊 ハウスの破損・倒壊
作物の凍害 果樹の枝折れ・枯死
遅霜による障害 野菜・果樹の生育不良

活用したい気象データは「大雪警報」や「低温に関する気象情報」です。また、事前に補強や防寒対策を行うなど、早めの対策が重要です。

 

 

気象データを活用する

気象の影響を理解する。気象情報を活かした農業の取り組みとは。|画像2

 

天候リスクを予測し、事前対策を講じるために、気象データはとても重要です。気象庁や研究機関が提供する気象データを活用することで、作物にリスクをもたらす天候や異常気象による被害を抑えることにつながります。

気象データには未来の天気情報を示す「予報系」データと、現在と過去の観測情報を示す「実況系」データがあります。

まず、「予報系」にあたるものには「週間予報」や「1カ月予報」などがあげられます。長期的な気候の傾向を把握するのに役立つ1カ月予報や3カ月予報を活用することで、栽培計画の見直しやリスク管理を行うことができます。

「実況系」にあたるものには「地上観測データ」や「気象レーダー」、「衛星画像」などがあげられます。実況系のデータは現在の気象状況をリアルタイムで確認するのに役立ちます。たとえば地上観測データや気象レーダーを活用することで、局地的な大雨や強風を察知することができます。これは農作物の被害を最小限に抑えることにつながります。気象衛星データでは広範囲の気象変化を予測できるので、台風や豪雨への備えにつながります。

そのほか、気象庁は以下のような情報を提供しています。

  • 異常気象早期警戒情報:高温・低温・豪雨などの異常気象の予測
  • 気温予測値:栽培計画や収穫時期の最適化
  • 注意報・警報:災害発生時の迅速な対応

これらのデータを活用することで、農作物の品質向上や被害軽減が期待できます。

気象データを活用した農業技術

東北地方では、やませ(北海道や東北、関東などで夏に吹く北東の冷たい湿った風)による冷害や近年の高温障害が課題となっています。

これを受け、気象庁と東北農業研究センターは、2週間先の気象予測を用いた1km四方の気温予測値を作成。東北農業研究センターは岩手県立大学と共同で運営する「Google Mapによる気象予測デー タを利用した農作物警戒情報」にて、すでに提供していた1週間先の1km四方の農作物警戒情報とともに、2週間先の予測についても提供を行いました。その結果、利用者アンケートから2週間先の予測情報の継続を望む声があがりました。

また、山形農業総合研究センター(山形農総研)は水稲刈取適期の予測のため、気象データを活用しました。水稲の刈取適期は、積算気温を基に予測されます。そこで山形農総研は平年値ではなく、気象庁の1カ月先までの気温予測値を活用することで、刈取適期の精度向上を図りました。その結果、予測精度は向上し、実用上有効だと確認されました。

 

 

まとめ

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気象データの活用は、農業におけるリスク管理と生産性向上に不可欠といえます。

たとえば、前述した「予報系」データを活用して農作業を計画、「実況系」データを参考にリアルタイムでの対応を行うことで、異常気象による影響を最小限に抑えることにつながります。

加えて今後は、気象データと農業技術を組み合わせた「スマート農業」の推進により、より持続可能な農業経営が可能になると期待されています。

 

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