農地を取得する際の「下限面積要件」の撤廃について。農地法の目的や歴史的背景についても紹介。

農地を取得する際の「下限面積要件」の撤廃について。農地法の目的や歴史的背景についても紹介。

2023年4月1日から施行された改正農地法で「下限面積要件」が撤廃されました。

 

 

そもそも下限面積とは

農地を取得する際の「下限面積要件」の撤廃について。農地法の目的や歴史的背景についても紹介。|画像1

 

下限面積とは、農地法第3条第2項第5号に定められた、農地を利用する権利を取得する際の許可基準の一つです。

権利を取得した後、最低これだけの面積を耕作(経営)しなければならないという基準であり、これまでは都府県で50a(=5,000㎡)、北海道で2haに定められていました。そのため、新規就農する場合には、この面積以上の農地を借りるか買うかして取得する必要がありました。

農地法の目的と歴史的背景

下限面積要件が撤廃された目的を理解するために、まずは農地法の目的と歴史的背景について紹介していきます。

農地法は「農業生産の基盤である農地の所有や利用関係の基本的な仕組みを定めた法律」です。農地法は耕作者自らが農地を所有することと、耕作者の地位の安定、農業生産力の増進を目的とし、昭和27(1952)年に制定されました。

農地法の背景には、戦後まもない昭和21(1946)年から昭和25(1950)年にかけて、自作農を増やし、農村を民主化するために行われた農地改革があります。農地改革ではGHQ(連合国軍総司令部)が封建的な地主制の解体を指示したことで、日本政府は176万戸の地主から小作地を強制買収し、その農地を小作人に売り渡しました。その結果、全国に475万戸の自作農が新たに誕生し、自作地は全耕地の90%になりました。

農地法は、この成果を固定するために、農地の譲渡や賃借といった権利移動、転用について制度を設けました。

農地改革では自作農の農地保有の上限が都府県は3ha、北海道は12haと制限されていましたが、昭和36(1961)年に農業の近代化や都市勤労者との所得均衡を目標とした規模拡大が推奨されたことから、この上限は昭和45(1970)年に撤廃されました。高度経済成長が農業の機械化をもたらし、経営規模の拡大が期待されましたが、政府が期待するほどは進まず、農業機械の普及は作業効率を向上させた一方で、兼業農家の増加につながりました。

今日でも変わらず訴えられていることですが、90年代以降になると、高齢化による担い手不足や耕作放棄地、遊休農地の増加が顕著になります。平成5(1993)年に農業経営基盤強化促進法が制定されて以降、「利用権」の設定による農地の貸し借りが定着し、ここから農地の流動化が活発になります。

2000年代には政府の方針が国際競争力のある大規模経営の育成となります。一般企業の農業参入が段階的に認められるようになり、平成21(2009)年には農地法が大幅に改正され、農地を借りて農業を行う「リース方式」であれば企業の農業参入が全国どこでもできるようになりました。

同時期に、市町村の農業委員会が「別段の面積」として特例的に、都府県50a、北海道2haとされた下限面積を20aや30aなどに引き下げることができるようになりました。

下限面積撤廃の目的

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2023年3月農林水産事務次官通達に、下限面積撤廃の目的が記されています。

今般の法改正の主たる内容は、農業者の減少・高齢化が加速化する中にあっては、認定農業者等の担い手だけではなく、経営規模の大小にかかわらず意欲を持って農業に新規に参入する者を地域内外から取り込むことが重要であり、これらの者の農地等の利用を促進する観点等から、改正前の法第3条第2項第5号に規定する面積要件を廃止したものである。

引用元:https://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/attach/pdf/chiiki_keikaku-32.pdf

先でも紹介した通り、農地法は農地を効率的に利用する耕作者の権利を守ると同時に、農業生産の増大を図り、食料の安定供給を確保することが目的です。しかし現状では耕作者が不足している状態が続いており、農地の効率的な利用という目的が心許ない状況にあります。そのため、下限面積を廃止することで、小さい面積で農業を始めたい人を取り込み、農業従事者として「担い手」と呼ばれる認定農業者※以外の農家を増やそう、というのが農林水産省の狙いです。

※農業経営を営む(又は営もうとする)者であって、農業経営改善計画を作成して認定を受けることを希望する者(引用元:認定農業者とは/長野県)。比較的経営規模が大きく、補助金や融資制度の対象となる。

下限面積が撤廃されたことで、小さな面積でも農業が始めやすくなり、新規就農のハードルが下がりました。ただし、農地を取得する際に必要となる以下の要件は許可要件として継続されることに注意が必要です。

項目 規定(許可できない場合)
全部効率利用 本人又は世帯員等が、権利を取得後に利用すべき全ての農地等を効率的に利用して耕作すると認められない場合
常時従事 本人又は世帯員等が、権利を取得後に必要な農作業に常時従事すると認められない場合
地域との調和 農地の集団化、農作業の効率化その他周辺農地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に支障が生じるおそれがある場合

引用元:耕作目的による農地取得の下限面積の廃止:東松島市公式ウェブサイト

 

参考文献

  1. 季刊地域 春号(53号) 2023年05月号(農山漁村文化協会、2023年)
  2. 農地法とは|香川県
  3. 4経営第3234号 4農振第3638号 令和5年3月31日 各都道府県知事 宛 農林水産事務次官 「農
  4. のうちかいかく【農地改革】 | の | 辞典 | 学研キッズネット
  5. 改正農地法の概要
  6. 認定農業者とは/長野県
  7. 農文協の主張:2023年5月 下限面積廃止は第二の農地改革になるか
  8. 耕作目的による農地取得の下限面積の廃止:東松島市公式ウェブサイト

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