新興国市場の成長に着目!日本の農産物の輸出について

新興国市場の成長に着目!日本の農産物の輸出について

日本産農産物・食品の輸出は大きな伸びを見せています。特に2021年には、コロナ禍にもかかわらず、輸出額が初めて1兆円を突破。2011年からの10年間で約2.7倍に増加しています。日本政府が掲げる「2025年に2兆円、2030年に5兆円」という目標に向け、順調に歩みを進めていることがうかがえます。

この輸出拡大の背景には、アジアを中心とした新興国における所得水準の向上があります。中間層の拡大により、日本産の高品質な農水産物・食品を求める層が増えたことが大きいことに加え、訪日観光客による日本食文化の体験が、日本産品への理解と人気を後押ししている側面も見逃せません。

特に近年、ASEAN諸国における輸出が顕著に伸びています。2021年の輸出額は約2,221億円に達し、前年比36%増。シンガポールやタイ、ベトナムなどが主な輸出先となっており、富裕層を対象とした日本酒や和牛といった高付加価値商品が人気を集め、輸出額増加を牽引しています。

 

 

今後、新興国市場は重要

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もとより海外市場は日本の農産物・食品を広めるうえで重要です。しかし先進国が人口も食料消費も頭打ちとなる中、世界の食料需要を牽引するのは主に新興国だといえます。

世界の食料需給において、経済成長の進む新興国の動向が今後ますます重要になると予想されています。

特に注目すべきは中国とインドで、両国は2005年時点で世界人口の約4割を占めています。また、1990年代以降、年平均で中国は10%以上、インドは6%以上の経済成長を遂げてきました。両国の所得が上がるにつれて食料への支出が増え、食料需要が拡大しています。

また、日本内の農産物市場は人口減少や高齢化により縮小が避けられない一方で、新興国では富裕層向け市場が拡大。2018年時点で約5,787万人だった高所得層は、2024年には約2.5倍の1億4,249万人に達すると推計されています。

高所得層の増加に伴い、日本産農産物への潜在需要も大きく伸びることが期待されている新興国市場(特に中国、ベトナム、インドネシア、フィリピン、タイなどのアジア地域)は今後の需要拡大が見込まれる有望市場といえます。

日本の農産物は、価格面では他国産に対する競争力には劣りますが、品質の高さや安全性、そして日本食人気の高まりによって、高級品としてのブランド価値が確立されつつあります。

日本政府は2014年に、この有望市場を見据えて、農産物輸出と現地進出を柱とする戦略を策定していました。日本産農産物の輸出拡大につなげるためには、成長を続ける新興国市場の存在が重要なのです。

 

 

輸出の際の留意点

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日本の農産物輸出において新興国市場はとても重要な場といえますが、これらの国々は自国農業の保護や防疫の観点から農産物輸入に厳しい規制を設けています。たとえば中国やベトナムでは、特定の野菜や果物の輸出が難しい状況も見られます。

そのため、新興国市場への輸出を考える農業者は、あらかじめ各国の植物検疫や輸入許可制度、放射性物質に関する規制など、輸出先の制度を詳細に把握し、理解しておく必要があります。日本の農産物をこれらの国々に輸出する前には、食品添加物の使用基準や施設登録の必要性、冷蔵・冷凍などの温度管理条件なども確認し、該当条件を満たす体制を整えておくことも必要になってきます。

また、日本政府は新興国市場への輸出のため、対象国に対し、輸入規制の緩和を働きかけています。

輸出商品に関する認証の取得も重要な要素です。HACCP(ハサップ)をはじめ、有機JAS、ハラール認証など、対象国・地域によって必要な認証は異なります。とくにイスラム圏やユダヤ教徒の多い国に向けた輸出では、宗教上の認証取得が輸出の可否を左右する場合があります。

さらに、輸出を本格化させる前には「なぜ海外展開をするのか」という目的を明確にし、商品の需要の有無、潜在需要の大きさ、あるいは新たに需要を創出できるかといった視点で調査・分析を行い、輸出計画を立てることが成功の鍵となります。

よりわかりやすい例でいえば、単に前述したような輸出先の制度を理解し、各条件を満たすだけでなく、現地の消費者に「日本産を選ぶ理由」を訴求することも重要です。たとえば、「安全・安心」「健康に良い」「伝統的な製法」「日本独自の素材」といったコンセプトや、商品の背景にあるストーリー性をアピールすること。また、日本人の「おいしさ」と現地の「おいしさ」には違いがあることも多いため、現地の食文化に配慮し、調理方法やレシピの提示などを通じて商品の使い方を伝える工夫も必要です。

これらの留意点を理解し、戦略的に対応することが、日本の農産物輸出における長期的な成功につながるといえます。

なお、最近では「日本式農業モデル」を現地に導入する動きも注目されています。日本からの直接輸出に加え、日本の農業技術やノウハウを活用し、現地で生産・販売する「日本式農産物」を展開することで、高品質で信頼性の高い商品を現地に安定供給できるというもの。

戦略的な準備と現地ニーズへの適応により、信頼される日本ブランドの構築が進んでいます。

 

参考文献:三輪泰史『図解よくわかる スマート農業 デジタル化が実現する儲かる農業』(日刊工業新聞社、2020年)

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