アブラムシの生態と農作物への被害、対策方法について

アブラムシの生態と農作物への被害、対策方法について

アブラムシは農作物に害を及ぼす害虫の一つです。大量のアブラムシが植物に群がっている姿を見たことがある人は決して少なくないはず。そこで本記事ではアブラムシの生態やどのような害を及ぼすのか、どのように対策すると効果的か、ご紹介していきます。

 

 

アブラムシの生態

アブラムシの生態と農作物への被害、対策方法について|画像1

 

アブラムシ類は半翅(はんし)目アブラムシ科とその近縁の科に属する昆虫の総称です。

なお半翅目とは、口器が針状の吻(ふん)(吻とは、口あるいはその周辺が前方へ突出している部分のこと。すなわち、口が針状ということ)で動物や植物の体液を吸うのが特徴で、アブラムシの他、セミやカメムシ、タガメやアメンボなどが含まれます。近年ではカメムシ目と呼ばれることもあります。

体長1〜4mm程度のアブラムシの栄養源は植物の汁液で、葉や茎などに針状の吻を刺し、師管から汁液を摂取します。

アブラムシが厄介な点には高い増殖能力が挙げられます。アブラムシ類の生活環(生物の成長、生殖に伴う変化がひと回りする間の様子)には

  • 完全生活環
  • 不完全生活環

があり、これはとても複雑なものとして知られています。「完全生活環」では、季節により雌と雄が存在する有性生殖世代と雌のみが存在する単為生殖(有性生殖する生物で雌が単独で子を作ることを指す)世代があり、「不完全生活環」では、1年を通して雌のみで単為生殖を繰り返します。

単為生殖の場合、アブラムシは交尾することなく体内で未受精卵を孵化させ、雌の幼虫を産むことができます。雌の成虫1匹には生涯で最大約90匹の幼虫を産むことができるのだとか。加えて驚かされるのが、その成長スピード。生まれてきた幼虫は10日ほどで成虫となり、毎日5匹程度の幼虫を産みます。

またアブラムシには同じ種の中で翅を持つもの(有翅型)と持たないもの(無翅型)がいます。雌の成虫は基本的に無翅型ですが、生育面積当たりの個体数が増加したり、餌となる植物の質が低下したりすると、有翅型の個体が出現しやすくなります。無翅型はどんどん幼虫を産んでいきますが、有翅型は移動先で無翅型の幼虫を少数産みます。そのため植物に群がって数を増やしていく、農作物に害を及ぼしているものはほぼ無翅型と思われます。

 

 

アブラムシが農作物に及ぼす害

アブラムシの生態と農作物への被害、対策方法について|画像2

 

鳥倉英徳『アブラムシ類の発生生態と防除法』(植物防疫 第 54 巻 第5号、2000 年)に記載されているイネ類へのアブラムシ害の特徴によると、光合成阻害と直接吸汁により全乾物重・葉面積・穂数の減少を引き起こす、とあります。アブラムシが葉に寄生すると、アブラムシの排泄物によりすす病などが生じ、光合成効率が低下します。葉からの吸汁は老化を引き起こし、養分蓄積の減少につながります。穂にアブラムシが寄生すると、吸汁されることでタンパク質・炭水化物が減少し、千粒重が低下する(粒径が減少する)とあります。

またアブラムシはウイルスを媒介することが知られています。アブラムシが媒介するウイルス病にはキュウリモザイクウイルスやカブモザイクウイルスなどがあります。アブラムシがウイルスにかかった作物の汁液を吸汁すると、ウイルスはアブラムシに取り込まれます。ウイルスを取り込んだアブラムシが他の作物に移り、吸汁すると、ウイルスが伝わり広がっていきます。

 

 

効果的なアブラムシ対策は?

アブラムシの生態と農作物への被害、対策方法について|画像3

 

薬剤防除が可能な場合

アブラムシが発生してしまった場合は、速やかに殺虫剤を散布します。アブラムシの種類によっては、特定の薬剤に対する抵抗性が発達した事例※があるため、薬剤散布後に効果を確認しましょう。効果が低い場合には他の薬剤に変更し、また変更する際は、同一薬剤、同一系統の薬剤の連用は避けてください。また薬剤を使用する際は、アブラムシの天敵(テントウムシ等)が定着できるよう、天敵への影響が少ない薬剤を使用するのもポイントです。

※ワタアブラムシ、モモアカアブラムシ等で有機リン剤やカーバメート剤、合成ピレスロイド剤、ネオニコチノイド剤等に対し、抵抗性が発達した事例あり。

また春から秋にかけて、アブラムシの発生の多い時期は、播種・定植時にあらかじめ粒剤を使用するなどして、発生初期からの防除を心がけましょう。粒剤はその成分が植物の根から吸収され葉に移行するため、アブラムシなど、吸汁する害虫に効果を発揮します。

そのほかにも……

先で少し触れましたが、アブラムシの天敵となる昆虫を活用するのもおすすめです。施設の場合には、アブラムシの発生初期に天敵となる生物農薬を施用したり、露地や有機栽培、不耕起栽培等の場合には、天敵が定着しやすい環境になるよう圃場を整えるのもいいでしょう。

また有翅型の飛来、侵入を防止するためには、物理的防除が効果的です。有翅型は銀白色を嫌がる性質があるので、銀白色の反射マルチ等を利用したり、農作物を寒冷紗などの被覆資材で覆うことで侵入を防いだりすることができます。

 

参考文献

  1. 野菜のアブラムシ類の発生生態と防除 – 日本植物防疫協会
  2. アブラムシ類の発生生態と防除法 円英 – 日本植物防疫協会
  3. 野菜のアブラムシ類 – 山口県
  4. アブラムシ類(農作物病害虫データベース)|長野県農業関係試験場
  5. 【配布資料】今日からはじめる自然観察「突然増えるアブラムシの秘密」|日本自然保護協会
  6. 第31話 ウィルス病の媒介害虫 – アブラムシとアザミウマ – (病害虫・雑草防除ガイド )|農業用農薬 Syngenta
  7. 農文協編『今さら聞けない 農薬の話 きほんのき』(2019年、一般社団法人農山漁村文化協会)
  8. 涌井義郎『土がよくなりおいしく育つ 不耕起栽培のすすめ』(2015年、一般社団法人家の光協会)

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