病害虫防除を行う上で、その病気や害虫による害の特徴を捉えることが重要です。そこで本記事では、病害虫防除がうまくいかない理由としてあげられるいくつかの要因についてご紹介していきます。
病気の見分け方を間違えた
病害虫防除がうまくいかない原因の一つに、病気の見分け方を誤った、ということがあげられます。
というのも、植物の病気の中には、病原菌が異なるのに似たような症状が現れることがあり、そこで誤った診断をしたことで適切な防除ができず、病気が広がることがあります。特に、葉や茎に発生する病害では、病斑の形状や色、発生環境などを正しく見極めることが重要です。
よく似た病害①キュウリの斑点細菌病とべと病
見分けが難しい病害の一例に、キュウリに発生する斑点細菌病とべと病があります。いずれも葉面に角型の病斑を形成しますが、病原体が異なるため、防除方法も異なります。
斑点細菌病は細菌が病原体であり、銅剤や抗生物質系の農薬が有効です。一方、べと病は糸状菌(カビ)が原因のため、殺菌剤が必要です。
病名 | 病原体 | 病斑の特徴 | 見分けるポイント |
斑点細菌病 | 細菌 Pseudomonas syringae pv. lachrymans |
葉の裏に油が滲んだような水浸状の病斑ができる | 病斑の表面に白い菌泥跡がある |
べと病 | 糸状菌
Pseudoperonospora cubensis |
葉裏に霜状の灰色カビを生じる | 病斑の裏面にうす黒いカビがある |
よく似た病害②トマトの葉かび病と斑点病
トマトの葉に発生する葉かび病と斑点病も、初期症状が似ています。
葉かび病は湿度の高い環境で発生しやすく、カビの発生が特徴的です。一方、斑点病は比較的乾燥した環境でも発生し、葉にはっきりとした斑点が現れるのが特徴です。
病名 | 病原体 | 病斑の特徴 | 見分けるポイント |
葉かび病 | 糸状菌
Fulvia fulva |
葉表に淡黄色の病斑、裏面に灰黄色〜緑褐色のビロード状のカビ | 裏面にカビが密生する |
斑点病 | 糸状菌
Stemphylium lycopersici |
数mmの暗緑色の水浸状病斑ができ、後に黒褐色の斑点に | 病斑の内側が灰褐色、周囲が黄色くなる |
さび病と白さび病の違い
代表的な病害にさび病と白さび病があります。いずれも“さび病”と付きますが、それぞれ病原菌の種類が異なるため、効果のある農薬に違いがあります。
たとえばアブラナ科の白さび病には病原体である卵菌類に効果のある「べと疫剤」が有効ですが、ネギのさび病には効果がありません。逆も然りで、ネギのさび病に有効な薬剤をアブラナ科の白さび病に使っても、十分な防除効果が得られません。
病名 | 病原菌の種類 | 主な寄生植物 | 特徴 | 適用農薬 |
さび病 | 担子菌類 | ネギ、ニラ、キクなど | 葉や茎に橙色〜褐色の斑点ができ、胞子が飛散して拡がる | サプロール乳剤、アフェットフロアブル など |
白さび病 | 卵菌類 | コマツナ、ハクサイなどのアブラナ科 | 白色の斑点が発生し、葉が変形する | ザンプロDMフロアブル、ピシロックフロアブル など |
病原菌の種類や症状を正しく見極め、それぞれに適した防除対策を行うことが、病害虫防除を成功させるカギとなります。
病害を見分けるポイント
野菜の病害を見分けるポイントには以下の項目があげられます。
- 病斑の形・色・大きさを観察する:角型か円形か、病斑の色が褐色か黒色か、斑点の拡がり方などをチェックする。
- 葉の表裏の状態を確認する:カビが発生しているか、油を滲ませたような斑点があるかなどを確認する。
- 発生環境を考慮する:高温多湿か低温か、降雨後に発生したのかなど、環境条件によっても発生しやすい病気が異なる。
- 顕微鏡やルーペで詳細を確認する:細菌性病害かカビによる病害かを見極めるために、病原菌の特徴を観察する。
- 専門機関や資料を活用する:農業試験場や防除マニュアルを参照し、病気の特徴と照らし合わせる。
病害の見分けに役立つアプリ
病害の適切な防除には正確な診断が欠かせません。しかし新規就農者などにとって、病害を見極めるのは簡単なことではありません。そんな中、近年では病害の見分けに役立つアプリも登場しています。
たとえば日本農薬株式会社が2020年にリリースしたAI病害虫雑草診断アプリ「レイミー」は、スマートフォンで病害虫や雑草の画像を撮影すると、AIが即座に診断を行い、発生した病害虫の候補と対策を提示してくれるアプリです。
トマト、イチゴ、キュウリ、ナスなどの作物に対応しており、診断精度は80%以上、また、病害に適した農薬の情報も提供されるため、適切な防除策をすぐに講じることができます。
農薬の散布方法を間違えた
病害虫の防除法として農薬散布があります。農薬の効果を最大化するためには、適切な時期と方法で散布することが重要ですが、防除がうまくいかない理由の一つに散布時期を誤ることがあげられます。
病害は初期段階で発生し、早期の防除が効果的ですが、多発生後では防除が困難になるものです。たとえば、キュウリのべと病やトマトの疫病は発病初期に防除を行うことで、比較的容易に抑制できますが、多発生後では効果が薄れてしまいます。
また、アブラムシやハダニなどの害虫も、薬剤抵抗性が生じて防除が困難になるのを避けるためには、発生初期に対処する必要があります。
加えて、農薬の効き目を高めるためには、発病部分にのみ散布するのではなく、畑全体に均等に薬剤を散布する必要があります。発病初期には病原菌が広がり始めており、部分的な散布では十分な効果が得られません。収穫期が近い作物(たとえばレタスなど)では、葉の裏側や土壌と接する部分に薬剤を直接散布する必要があります。
農薬散布の際、注意したいこと
農薬の使用基準の遵守
ラベルに記載されている適用作物や使用量、希釈倍率、使用時期を厳守しなければなりません。露地や施設内で使用する場合、薬剤の使用はその作物に適用されたものだけに限られます。適用作物以外のものに散布した場合、効果が得られないだけでなく、作物に害を及ぼすことがあります。
また、農薬の使用量を超過しないこと、希釈倍率についても、最低限度を下回る希釈で使用しないことも重要です。正確な希釈と規定量での散布が大切です。
もちろん使用回数にも注意が必要です。同じ農薬を何度も使用すると、薬剤に対する抵抗性を持つ病原菌や害虫が発生する可能性があります。
散布は丁寧に
薬剤が作物全体に均等に行き渡るよう、丁寧に散布してください。農薬を作物全体に行き渡るため、散布時には葉裏や茎の隙間などにも薬剤を行き渡らせるよう努めます。
散布後の天候に注意
雨が降ると、薬剤が流れてしまい、散布効果が得られないことがあるため、農薬散布後に雨が予想される場合は、散布を避けるか、散布後の一定時間を確保してから降雨を迎えるようにします。
参考文献:米山伸吾・草刈眞一・柴尾学『新版 病気・害虫の出方と農薬選び』p.47〜51(農山漁村文化協会、2018年)
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