キジラミ類の生態と農作物への被害、対策方法について

キジラミ類の生態と農作物への被害、対策方法について

本記事では、農作物に害を及ぼすキジラミ類について紹介していきます。

 

 

キジラミ類の生態

キジラミ類の生態と農作物への被害、対策方法について|画像1

 

キジラミは半翅目キジラミ上科に属する昆虫の総称であり、農業害虫として知られているコナジラミ、カイガラムシ、アブラムシとともに腹吻群というグループを構成しています。

世界中には約3,000種類ものキジラミ類が知られており、日本では150種以上が知られています。

キジラミの成虫はセミを小型にしたような見た目をしていますが、体長は1〜4mm(翅の先まで含めると2〜6mm)とかなり小さく、セミの1/20ほどの大きさです。後脚が発達しており、跳ねることができます。井上広光『キジラミ類の分類と生態(2)ー生態および害虫種ー』(植物防疫 第58巻第1号、2004年)によると、“成虫の自力飛翔能力はそれほど高くないと思われるが、風に乗って長距離を移動することができる”とあります。同論文では、北米における調査により、寄主植物から13km以上離れた地点から越冬成虫が採集されたことが記されています。

一方、幼虫は扁平な見た目をしており、跳躍はしません。

キジラミ類は成虫・幼虫ともに植物の師管液を吸汁します。よって植物にとってはキジラミ全種が有害な昆虫といえます。農業従事者にとっては、農作物を加害する種が害虫に該当します。

キジラミ類による主な被害は幼虫が過度に吸汁することによる新芽の生長阻害があげられます。幼虫による過度な吸汁によって植物体が枯死することもあります。甘露と呼ばれる幼虫の排泄物によってすす病などの病害が誘発されたり、種によっては植物細菌病を媒介して農作物の病害を発生させたりといった害もあげられます。

 

 

防除方法

キジラミ類の生態と農作物への被害、対策方法について|画像2

 

まず防除のポイントについてご紹介します。

防除を行う場合には、飛び跳ねる成虫よりも動きが緩慢な幼虫をターゲットとします。理由は以下の通りです。

  • 成虫よりも幼虫の方が防除に用いる薬剤の感受性が高い傾向にある
  • 成虫は飛び跳ねるため薬剤が付着しにくい
  • 成虫は薬剤を散布した作物を忌避し、他の圃場へ移動することが考えられる など

なお、キジラミ類の中には薬剤抵抗性を身につけたものも報告されています。佐賀県果樹試験場によると、平成23(2011)年中国大陸から日本に侵入してきたナシの害虫・チュウゴクナシキジラミの密度が薬剤散布を実施しても低下しない事例が数件確認されており、調査を進めたところ有効薬剤であるネオニコチノイド系薬剤の殺虫効果が低いことが明らかになっています。

比較的薬剤感受性が高い傾向にある幼虫をターゲットにすることに加え、異なる系統の薬剤を組み合わせて薬剤抵抗性を身につけさせないようにすることも防除のポイントといえます。

ターゲットとなる幼虫を見つける目安は主に3つあります。

先で“甘露と呼ばれる幼虫の排泄物によってすす病などの病害が誘発”すると紹介しましたが、1つ目はこの黒いすす様の汚れ(甘露を栄養源にカビが繁殖することで生じる)です。このすす状のよごれが幼虫を見つける目安となります。

2つ目は、幼虫が分泌するワックス(白い綿のような分泌物)です。幼虫と雌の成虫はワックスを分泌します。このワックスの形状は線状や不規則ならせん状になることが多いです。ワックスを目安に、ワックスが付着した幼虫を見つけ出します。

3つ目は枝葉が繁茂した棚面付近の葉に寄生することが多いとされているので、このような場所を注意深く確認します。

一般的な防除法はキジラミ類に適用のある登録農薬を使った防除策です。成虫・幼虫ともに多く寄生する枝葉が繁茂した場所は薬剤が付着しにくいため、展着剤を混用すること、機械散布であっても手散布であっても、薬剤の効果を発揮させるため、散布ムラが生じないように丁寧な散布を心がけましょう。十分な効果を得るためには、単に散布量を増やすのではなく、確実に薬液をかけることを意識してください。

成虫に対する防除には黄色粘着板による物理的防除策もあげられます。成虫は黄色粘着板に強く誘引されます。成虫は新梢や花房が多い枝先付近に多く寄生します。周辺に黄色粘着板を針金入りのビニールひもなどで吊り下げて設置しましょう。吊り下げて設置する際、ビニールひもなどを通す穴が風雨であおられると、そこに力がかかり裂けてしまうことがあるため、ガムテープなどで補強しておくことをおすすめします。黄色粘着板は1〜2週間ごとに交換しましょう。

また天敵の活用も防除策としてあげられます。

キジラミ類の寄生性天敵と捕食性天敵には以下の昆虫が報告されています。

  • 寄生性天敵として知られているもの
    トビコバチ科、ヒメコバチ科、コガネコバチ科など
  • 捕食性天敵として知られているもの
    カスミカメムシ科、ハナカメムシ科、ハナアブ科、テントウムシ科など

農研機構の資料「ビワキジラミ防除のための総合技術マニュアル」によると、ビワキジラミと呼ばれるビワのみに寄生するキジラミの天敵となる捕食性カメムシ類が、ビワ圃場とビワ圃場周辺の広葉樹林を行き来していることが推察されており、庭先の植栽樹や放棄園などでビワキジラミの大発生を抑制できることが期待されています。

天敵の力だけではキジラミ類の被害を防ぐことは難しいものの、耕種的防除法として、天敵となる昆虫が生息できるような環境づくりも合わせて行うことをおすすめします。

 

参考文献

  1. 宮武頼夫『農林害虫としてのキジラミ類の見分け方(1)』(植物防疫第42巻第12号、1988年)
  2. キジラミ類の分類と生態 (1)
  3. キジラミ類の分類と生態 (2) – 一生態および害虫種一
  4. ビワキジラミ防除のための総合技術マニュアル

害虫対策カテゴリの最新記事