【農業病害まとめ】「伝染性病害」とは。原因となる微生物や発生要因について

【農業病害まとめ】「伝染性病害」とは。原因となる微生物や発生要因について

農作物の生育を悪くし、その収量や品質にも大きく影響することから、経済的な損害にもつながる農業病害。そんな農業病害は「伝染性」と「非伝染性」に分けられるのですが、本記事では「伝染性病害」に着目。病害の原因となる微生物の種類や発生要因についてまとめます。

 

 

伝染性病害

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病害発生の基本を知ろう

伝染性病害についてご紹介する前に、まずは病害が発生する要素について説明させてください。伝染性病害の主な原因は微生物ですが、病原として知られる微生物だけが病害発生の原因ではありません。

病害(+虫害)発生には3つの要素があります。

  1. 病原菌や害虫の存在
  2. 農作物そのものの性質
  3. 病害虫の発生に最適な環境

これらの要素が重なることで病害は発生します。

病害防除において病原微生物を取り除くことも大切ですが、まずはこれら3つの要素が重ならない、またはこれらの重なりが小さくなるよう、圃場を整えることが大切です。

原因となる微生物

病原として知られる微生物をまとめました。

病原性生物の種類 概要 主な症状 病害例
ウイルス 「遺伝子とタンパク質の殻」という単純な構造をした微生物。単独で数を増やすことはできず、ヒトや動物など(宿主)の生きた細胞を利用して自分のコピーを作り、増殖する。農薬で防除することができない。 農作物全体の萎縮、黄化、葉のモザイクなど 萎縮病、モザイク病など
ファイトプラズマ 植物に寄生し病害を起こす特殊な細菌。細菌より小さく(ウイルスほどの大きさ)、通常の細菌と異なり細胞壁を持たない。 農作物の萎縮や叢生(草木などが群がり生える)など てんぐ巣病など
細菌(バクテリア) 1個の細胞からなる単細胞微生物。感染スピードが速く、被害が広がりやすいのが厄介。 農作物の萎凋、軟腐など 軟腐病、青枯病など
菌類 大きく変形菌類と真菌類に分けられる。植物病害の8割は一般的に「カビ」と呼ばれる糸状菌(上記「真菌類」に属する)が原因。 農作物の萎凋、徒長、斑点、落葉、壊死など、症状は多岐にわたる うどんこ病、べと病など

伝染性病害の発生要因

上記病原性生物がどのようにして農作物に付着するのか、その発生要因をまとめました。

発生要因 概要 主な防除方法
土壌伝染 土壌中にいる病原体が植物の根面から侵入するなどして感染する。 ・土壌消毒を行う

・耕種的防除を取り入れるなど

種子伝染 種子表面に付着した病原体や種子に混入した病原体などから感染する。 ・種子消毒を行う

・湯温消毒を行うなど

風媒伝染(空気伝染) 主に糸状菌(通称「カビ」、真菌類カテゴリ内)の胞子などが風により飛散し、植物に付着して感染する。 ・農薬の散布

・抵抗性品種を取り入れるなど

虫媒伝染 ウイルスやファイトプラズマの多くはアブラムシ類やアザミウマ類などの昆虫によって運ばれる。 ・媒介する昆虫の駆除など
水媒伝染 細菌類などが雨水によって運ばれ、風雨などで傷ついた農作物に伝染する。 ・被覆資材で覆う

・雨期の前後に予防散布などを行う

・早期に伝染源を発見し、圃場外に出すなど

接触伝染 芽かきや摘果などの作業中、すでに発病している農作物から病原体が農業資材や器具などに付着し、そのまま他の農作物に作業を行うことで伝染する。 ・資材や器具、手指などの消毒

・病害が発生している農作物の早期発見

・発病している作物と健全な作物の作業を分けるなど

伝染性病害が発生しやすい環境

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まず「温度」は、病害の発生を大きく左右します。冒頭でも紹介した通り、病害発生の3つの要素が重なることで病害が発生します。病害が起こりやすくなる温度は「◯度」と決まっているのではなく、農作物の抵抗力が低下する温度と病原性微生物が活動しやすい温度が重なったとき、病害が起こりやすくなるので注意が必要です。

「湿度」も同様です。病原菌は湿度の影響を受けやすいため、病害の大半は湿度が高くなると発生しやすくなります。湿度を高め、水媒伝染性の病害に関わる「雨」にも注意が必要です。

先で、

農作物の抵抗力が低下する温度と病原性微生物が活動しやすい温度が重なったとき、病害が起こりやすくなるので注意が必要

と紹介しましたが、農作物の抵抗力を低下させる原因は温度だけではありません。「日照不足」や「強風」なども抵抗力低下につながります。日照不足は、農作物の生育を衰えさせ、強風は植物を傷つける要因になります。弱った農作物や傷のついた農作物に病原体が侵入することで病害が起こりやすくなるので、これらの要因からも守る必要があります。

多くの植物が基本的に日当たりの良い条件下で丈夫に育つため、

  • 日当たりがよい
  • 風通しがよい
  • 株間が適切にあけられ、密植していない
  • 適度に剪定や間引きが行われている
  • 土壌環境がよい(水はけがよい、生態系や養分のバランスがよいなど)

条件に整えることができれば、病原菌の増殖を抑えることが可能になります。

 

参考文献

  1. 有江力監修『図解でよくわかる 病害虫のきほん 病害虫発生のメカニズムから、栽培管理、農薬・肥料の使い方、防除法まで』
  2. 【防除学習帖】第1回 作物病害の発生要因|防除学習帖|シリーズ|農薬|JAcom 農業協同組合新聞
  3. 植物の病気と防除 – 神奈川県ホームページ
  4. ウイルスってなんだろう?正しく知って感染症予防|特集テーマ|サワイ健康推進課
  5. 「怠け者細菌」ファイトプラズマの謎を解く|東京大学
  6. 病害伝染の種類 – やまがたアグリネット
  7. 【防除学習帖】第3回 作物病害の伝染方式と防除|防除学習帖|シリーズ|農薬|JAcom 農業協同組合新聞

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