農作物に起こりうる貯蔵病害、その原因と対策について

農作物に起こりうる貯蔵病害、その原因と対策について

農作物の収穫後、消費者の食卓に届くまでの間に発生する病気を「ポストハーベスト病」と呼びます。

関連記事:ポストハーベストとは。収穫後のロスを減らすための技術と、ポストハーベスト農薬について

その中でも、貯蔵中に発生する病気を「貯蔵病害」といいます。貯蔵病害は、青果物が貯蔵されている間にさまざまな要因によって引き起こされ、品質を著しく低下させる可能性があります。

 

 

貯蔵病害の原因

農作物に起こりうる貯蔵病害、その原因と対策について|画像1

 

貯蔵病害の発生にはさまざまな要因が関与していますが、特に病原微生物が要因として知られています。カビや酵母、細菌がそれぞれ異なる条件で貯蔵病害を引き起こします。

また病原微生物による貯蔵病害には、収穫前に発症している場合と収穫後に感染して発病する場合に分けられます。

カビや酵母による腐敗

カビによる腐敗は野菜や果実に広く見られます。代表的なものは以下の通り。

  • アルタナリア属菌:トマトやダイコンの黒斑病、ナシやリンゴの芯腐れ症を引き起こす。
  • ペニシリウム属菌:カンキツ類やリンゴの貯蔵中に青かび病・緑かび病を発生させる。
  • リゾープス属菌:収穫時の傷から侵入し、市場や小売店で「くもの巣かび病」を発生させる。
  • 疫病菌(Phytophthora属菌):収穫前後にナス科やウリ科作物を急速に腐敗させる。
  • 炭疽病菌(Colletotrichum属菌):葉や果実に黒褐色のかさぶた状の病変を作り、伝染力が強い。
  • 灰色かび病菌(Botrytis属菌):果菜や花き類を腐敗させる。低温多湿で発生しやすい。
  • ラシオディプロディア属菌:熱帯・亜熱帯の果樹で胴枯れや腐敗を引き起こす。

酵母による腐敗は限定的ですが、Candida属はカンキツ類やパイナップルの腐敗を、Saccharomyces属はイチゴの腐敗を引き起こします。

細菌による腐敗

細菌による病害は野菜に多く見られ、収穫後の野菜に軟腐症状などを引き起こします。細菌は、青果物の傷や気孔などから侵入し、湿度が高い環境で急速に増殖します。また一部の細菌はエチレンを生産し、腐敗を促進します。

代表的な細菌と病害は以下の通り。

  • Erwinia属:土壌伝染性があり、キャベツやハクサイなどの野菜で軟腐症を引き起こす。果実ではメロンやマンゴーでも発生する。
  • Pseudomonas属:温暖多湿で発生しやすく、キュウリやタマネギなどの野菜で被害が報告されている。
  • Xanthomonas属:雨滴により感染し、湿度が高い環境で増殖。ダイコンやハクサイなどの野菜や、マンゴー・メロンなどの果実にも影響を及ぼす。

 

 

果実類の貯蔵中に発生する主な病害

農作物に起こりうる貯蔵病害、その原因と対策について|画像2

 

果実類は野菜類に比べて貯蔵期間が長いため、貯蔵病害の発生が多いとされています。

カンキツ類では、緑かびが最も多く、次いで青かび、白かびが検出されます。その他、黒腐病、軸腐病、炭疽病、灰色かび病、フザリウム腐敗病なども発生しますが、頻度は低いです。

リンゴやナシなどの仁果(じんか)類、ブドウや柿などの漿果(しょうか)類においては、リンゴでは炭疽病が最も多く、ブドウでは灰色かび病や黒かび病が多く報告されています。ナシやビワでも炭疽病や灰色かび、白かび、青かびによる病害が発生しますが、仁果類・漿果類の病害はカンキツ類に比べると発生件数は少ないです。

モモ・スモモなどの核果類は貯蔵期間が短いものの、果実が腐敗する症状が現れる灰星病に注意が必要です。灰星病の感染は、圃場で感染したものが収穫後に発生、傷から新たな感染が起こり、広がりやすいのが特徴です。

輸入果実であるバナナでは炭疽病やフザリウム菌による被害が多く、キウイフルーツでは灰色かび病や青かび病が発生します。

カンキツ類の貯蔵病害について

カンキツ類は長期保存されるため、貯蔵中に様々な病害にかかることがあります。カンキツ類の腐敗を引き起こす病原微生物はさまざまで、区別がまぎらわしいものもありますが、病徴や発生部位、発生時期などで区別することができます。

たとえば、青かび病や緑かび病は貯蔵中の全期間を通じて見られる病気です。果実のいずれの部位からでも発生し、発病すると腐敗が進行します。

貯蔵後期に多く見られるのが以下の病気です。

  • 灰色かび病
  • 軸腐病
  • 黒腐病
  • 黒斑病
  • 炭疽病
  • 菌核病
  • フザリウム腐敗病
  • 黒玉病

灰色かび病や黒斑病、菌核病、フザリウム腐敗病、黒玉病は果実のいずれの部分からでも発生します。軸腐病は名の通り、必ず果梗を中心にして発生します。炭疽病も果梗を中心にして発生することが多いですが、その他の部分からも発生します。黒腐病は花落ちの部分を中心に発生することが多いものの、こちらもその他の部分から発生することがあります。

 

 

貯蔵病害の予防

農作物に起こりうる貯蔵病害、その原因と対策について|画像3

 

貯蔵病害は、農作物の品質低下を引き起こすだけでなく、消費者に対する食品安全のリスクを高めます。また農産物の流通過程での損失から、経済的な損失にもつながります。

そんな貯蔵病害の予防には、適切な貯蔵管理が不可欠です。

物理的な対策

物理的な対策の基本は適切な温度管理と湿度調整です。特に低温は、病原菌の活動を抑制するだけでなく、病気の進行を遅らせることができます。青果物の呼吸代謝が活発化すると熟成や腐敗が進みますが、低温状態にすると呼吸が抑制されます。また呼吸は空気中の酸素や二酸化炭素の濃度の影響も受けます。

そのため、温度や湿度、大気組成を調整することで鮮度を保つ「CA(Controlled Atmosphere)貯蔵」やガス環境を調整することで鮮度を保つ「MA(Modified Atmosphere)貯蔵」といった技術が、青果物の流通において広く使われています。

化学的な対策

化学的な対策には、収穫前の薬剤防除があげられます。収穫前に適切な殺菌剤を散布することで、収穫後に発症する病害の抑制につながります。たとえば、貯蔵病害が起こりやすいカンキツ類の防除薬剤にはべフラン液剤やベンレート液剤などがあります。

また農薬の代替手段として過酢酸を用いる方法が紹介されています。

参照元:WO2019087972A1 – 過酢酸を用いた果実の貯蔵病害の抑制方法 – Google Patents

食品添加物として認可されている過酢酸は、消費者の農薬に対する忌避感や輸出時の残留農薬基準の違いなどに対応できる、農薬を使用しない貯蔵病害を抑制する有効な方法として注目されています。

10ppm以上100ppm未満の低濃度の過酢酸を、果実表面や果梗部に噴霧または浸漬することで、貯蔵病害を効果的に防ぐことができるとされ、特に、青かび病、緑かび病、灰色かび病などの貯蔵病害に有効で、ミカンなどのカンキツ類やリンゴ、トマト、ピーマンなどに適用可能、とあります。

その他の対策

ポストハーベスト病に強い品種の育成や、そのような品種を選定し、栽培時に病害の発生を抑えることは、長期的に見て有効な方法といえます。

そのほか、収穫時にできる対策もあります。たとえば、収穫時に果実や野菜を傷つけないことはとても重要です。前述した貯蔵病害の原因となる病原菌は果実や野菜の傷口などから侵入します。収穫後の傷を最小限に抑えるため丁寧に取り扱うこと、傷が付いたものやすでに発症が見られるものを取り除くことは病原菌の繁殖を抑えることにつながります。

適切な時期に収穫することも対策の一つです。熟期が進むと病気への抵抗性が低下し、物理的損傷を受けやすくなるため、商品価値と熟期に適切な収穫時期を判定することも重要です。

多角的なアプローチで対策を

貯蔵病害の防止には、多角的アプローチが求められます。貯蔵中の温度管理や湿度調整といった基本的なものもあれば、収穫前の適切な農薬散布など、病害の発生を圃場段階で防ぐ方法もあげられます。収穫前、収穫後、貯蔵中と各段階で適切な対策に講じることが、農産物の品質保持につながります。

 

参考文献:夏秋啓子編『植物病理学の基礎(農学基礎シリーズ)』(農文協、2020年)

 

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