農業に役立つ微生物。それぞれの性質と効果について解説

農業に役立つ微生物。それぞれの性質と効果について解説

 

近年、農業の分野では生産効率を意識した栽培方法だけでなく、減農薬や有機栽培、自然農法といった、環境負荷の少ない栽培方法も注目を集めています。それらの分野で注目されるのは農業には欠かせない存在の土と、そこに棲まう無数の微生物たちです。そこで本記事では、農業に役立つ微生物の性質や、野菜づくりに関する効果について紹介していきます。

 

 

微生物が農業に役立つ理由

農業に役立つ微生物。それぞれの性質と効果について解説|画像1

 

ゆっくりと土壌環境を整えてくれる

日本は少子高齢化の問題を抱えていますが、世界の人口は年々増加傾向にあります。人口増加を支えるのは食料です。生産効率を重視した化学肥料の存在が、この人口増を支えたとも言えます。しかし過剰な栄養分は環境汚染や土壌に悪影響を及ぼしました。

一方、土壌には元々棲み着いていた微生物が存在します。多種多様な微生物は、互いの生育を阻害する物質を生産したり、エサを奪い合うだけでなく、微生物同士が共存するものもいれば、農作物などの植物と共存関係になるものもいます。この多様性は土壌環境を良好にします。化学肥料とは違い、微生物がもたらす土壌への変化は時間を要します。しかし本来あるべき土壌微生物の生態バランスを整えてくれるため、化学肥料による栄養過多などの問題解決に役立ちます。

植物との良好な関係が栽培に役立つ

植物は根から水や酸素、養分などを吸収して成長していきます。根は吸収するだけでなく、生成物の排出も行います。土壌中の微生物はこの根から出た生成物を好みます。微生物はこの生成物を自身に取りこむ代わりに、根が自分の力だけでは吸収できない栄養分を提供します。

また微生物は取り込んだ植物の生成物を分解するのですが、そこで生じた生成物がまた植物に必要な栄養分として根から吸収されます。植物と微生物が良好な関係を築いているからこそ、互いの生育に必要な栄養分が循環しているのです。

植物を病原菌から守る作用も

微生物の中には、植物に悪影響を与える病原菌から植物を守るものもいます。植物内に共生する真菌や細菌の一種を「エンドファイト」と呼びます。エンドファイトは、植物が病害虫による被害を受けると、それに対抗する物質を作り出します。この物質により、農作物はその病害虫に対する耐性が高まります。

近年、このエンドファイトに着目した応用研究が進められています。なぜならこの特性を活かすことができれば、農薬などを使用せずとも病害虫から農作物を守ることができるからです。微生物のもつ力は、環境に配慮した農業を実現できる可能性を秘めているのです。なお最近の研究※では、耐性をもたらすものだけでなく、生長を促進する働きをもつ微生物の存在も注目されているとのこと。

※参考文献:根の養分吸収と生長を助ける微生物 農業ビジネス

 

 

農業に役立つ微生物

農業に役立つ微生物。それぞれの性質と効果について解説|画像2

 

糸状菌(麹カビなど)

糸状菌とはあくまでも総称です。世間一般で呼ばれている”カビ”と呼んだほうがわかりやすいかもしれませんね。植物に病気をもたらす原因となるカビもいますが、堆肥をつくるときなどに糸状菌は役立ちます。糸状菌は、

  • デンプンを糖に変える
  • 様々な酵素を分泌し、有機物を分解する

などの働きがあります。糸状菌の働きにより生じた糖は、他の微生物はエサとなります。エサがあれば他の微生物は増殖できます。デンプンを糖に変えるという働きは、他の微生物の増殖を助ける働きとも言い換えられます。また糸状菌の分泌する酵素は多種多様です。

  • デンプンを分解するアミラーゼ
  • セルロースを分解するセルラーゼ
  • タンパク質を分解するプロテアーゼ

など、様々な物質を分解することができるので、これもまた、他の微生物の増殖を手助けする働きと言えます。

なお先で申し上げた通り、糸状菌は植物に害を与えるものもあります。

例えば糸状菌がセルラーゼを分泌すれば、植物の外壁も分解されてしまい、植物は病気になってしまいます。しかし微生物にはそれぞれ最適な生育環境というものがあります。堆肥づくりの初期段階で役に立つ糸状菌ですが、デンプンを分解し糖をつくったことで他の微生物が増殖し、その発酵熱によって糸状菌は活動できなくなります。そのため、植物に悪さをする前にお役ごめんになるといったイメージです。

納豆菌

ご飯のおともでおなじみの納豆菌も、農業に役立つ微生物です。納豆菌には、

  • デンプンを分解するアミラーゼを出す
  • セルロースを分解するセルラーゼを出す
  • タンパク質を分解するプロテアーゼを出す
  • 植物ホルモンを生成する
    →植物の葉が大きくなる

などの効果が挙げられます。特にプロテアーゼによって、農作物の敵となるカビやヨトウムシの防除につながります。

乳酸菌

乳酸菌は糖をエサに増殖します。殺菌作用のある乳酸を生成し、雑菌を抑制する働きがあります。もちろん乳酸の生成でpHが高くなることで生育しにくくなる有用菌もいるので、畑で利用する場合には注意が必要ですが、その殺菌力はとても魅力的です。有機質肥料の腐敗防止やある特定の菌がもたらす病気の予防(殺菌)に役立ちます。

放線菌

堆肥に多く含まれている微生物で、害虫予防に役立ちます。微生物は様々な酵素を生成しますが、放線菌はキチナーゼと呼ばれる酵素を生成します。これはエビ,カニなど甲殻類の殻やカブトムシのような節足動物の外骨格を生成する「キチン質」を分解する酵素です。センチュウなどの害虫対策には大助かりの微生物です。

光合成細菌

直接農業に役立つわけではありませんが、先で紹介した放線菌のエサとなります。

 

 

農業に役立つ微生物と連作障害の関係

農業に役立つ微生物。それぞれの性質と効果について解説|画像3

 

農業に役立つ微生物の働きについて紹介してきました。これら微生物の存在は連作障害を回避するヒントになるかもしれません。

連作障害は、同じ作物を同じ場所でつくり続けることによって生じる生育不良を指します。その原因として、土壌微生物の多様性が崩れてしまったことが挙げられます。従来であれば、微生物と植物間での栄養分のやりとりのおかげで、根の周辺では大量の微生物が活発に活動しています。植物と共生関係にある微生物のおかげで、病害菌が微生物に近づくことはなかなかできません。

しかし同じ作物を同じ場所でつくり続ければ、微生物同士の拮抗が崩れます。本来、多種多様な微生物が競争しあうことで土壌環境のバランスが保たれているのですが、微生物同士の拮抗が崩れれば、特定の微生物だけが増大することになります。生成物が特定のものだけに偏れば、土壌の状態も不安定になります。

土壌微生物の生態を理解できれば、連作障害が起こる原因も生み出さずに済むでしょう。農作物だけでなく土壌環境にも目を配ることが、安定した生産につながります。

 

参考文献

  1. 土着微生物の世界 土づくりのススメ – 深掘!土づくり考
  2. 堆肥ができるまで 土づくりのススメ – 深掘!土づくり考
  3. 根の養分吸収と生長を助ける微生物 農業ビジネス
  4. 根と微生物の根圏での活動 土づくりのススメ – 深掘!土づくり考
  5. 微生物とつながる農業 NHK クローズアップ現代
  6. 『現代農業』用語集

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