注目の微生物資材に用いられるトリコデルマ菌とは。どんな効果がある?

注目の微生物資材に用いられるトリコデルマ菌とは。どんな効果がある?

近頃「バイオスティミュラント」という言葉を目にする機会が増えました。

バイオスティミュラントはアメリカの2018年農業法案とも呼ばれる2018年農業改善法において、「種子、植物、または根圏に適用した場合、自然プロセスを刺激して、栄養吸収、栄養利用効率、生物学的ストレスに対する耐性、または作物の品質や収量を向上または向上させる物質または微生物」と定義されています。EUでは2011年にEBIC(European Biostimulants Industry Council、欧州バイオスティミュラント協議会)が発足されています。

バイオスティミュラントは現在の「肥料」「農薬」「土壌改良剤」といったカテゴリーに分類されるものではありませんが、これらの製品の目的や効果としては植物の水分吸収や栄養素の利用を促進したり、非生物的ストレスへの耐性を高めたり、植物の活力や品質の向上、作物の収量の増加などが挙げられます。

日本でも多くのメーカーからバイオスティミュラント資材が開発、販売されていますが、その中には「トリコデルマ菌」を用いたものがあります。納豆の製造に用いられるバチルス属細菌やヨーグルト製造などでお馴染みの乳酸菌など、さまざまな微生物が農業に活用されていますが、本記事ではこのトリコデルマ菌についてご紹介します。

 

 

トリコデルマ菌とは

注目の微生物資材に用いられるトリコデルマ菌とは。どんな効果がある?|画像1

 

トリコデルマ菌はバイオステュミュラントが登場する以前から、有用菌として農業利用されてきた微生物です。トリコデルマ(Trichoderma)属はカビの一種です。バイオ殺菌剤として種子処理や土壌処理に利用されています。

トリコデルマ菌は「ツチアオカビ」という名称でも知られています。ツチアオカビとも呼ばれる「トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)」は住宅建材や畳の裏に発生し、住宅をカビくさくする原因となる微生物です。

トリコデルマ菌は森林土壌などに普通に見られる微生物で、枯れ木や朽ち木などによく繁茂します。その特性上、キノコ栽培においては有害微生物として知られています。また水稲の苗立枯病を引き起こす原因菌にも含まれます(トリコデルマ属菌の他、ピシウム属菌、フザリウム属菌、リゾプス属菌が苗立枯病の原因菌として知られています)。

 

 

トリコデルマ菌の農業利用

注目の微生物資材に用いられるトリコデルマ菌とは。どんな効果がある?|画像2

 

有害微生物の一面もあるトリコデルマ菌ですが、その性質を活かして他のカビによる病害を防ぐなど、生物殺菌剤としてさまざまな病気の抑制のために利用されています。トリコデルマ属菌によって制御できる植物病害には根腐れ病、萎凋病、果実腐敗病などが挙げられます。

農業雑誌『現代農業』の2003年9月号には「トリコデルマ菌ボカシで灰カビ激減、キュウリ10a3t増収!」という特集でトリコデルマ菌を活用することで得られる効果が紹介されています。記事によると、トリコデルマ菌とモミガラ、米ヌカ、木酢を混ぜて作るトリコデルマ菌ボカシを10〜20日おきにまいたところ、毎年のように発生していた灰色カビ病がほとんど出なかったとあります。

またトリコデルマ菌は植物生育促進菌類(Plant Growth Promoting Fungi:PGPF)の代表的な菌でもあります。PGPFは植物の病気を起こしにくくしたり、生育を促進したりする菌を指します。Nur A.Zin『Biological functions of Trichoderma spp. for agriculture applications』(Annals of Agricultural Sciences、2020年)では、過去の研究から、トリコデルマ属菌が分泌する二次代謝産物が病原性微生物の成長を抑制すること、植物の成長を刺激すること、植物とトリコデルマ属菌の相互作用によって側根と主根の長さが増し、植物の栄養吸収に有効性をもたらしていることを記しています。

トリコデルマ菌の植物生育促進作用は日本農薬学会誌のショートレビューにも記されています。片岡良太『多彩な機能を有する土壌糸状菌Trichoderma属菌の農業利用』(日本農薬学会誌、2022年)によると、ダイズの根圏土壌から分離したトリコデルマ菌がレタスやコマツナの成長を促進することを確認した、とあります。また「トリコデルマ・ハルチアナム(Trichoderma harzianum)」によるトマト種子処理では、種子の発芽が促進され、水分や浸透圧、塩分、低温、熱ストレスへの改善が見られるなど、冒頭のバイオスティミュラントの目的や効果に記した“非生物的ストレスへの耐性”についても記されています。

有害微生物の一面もあるトリコデルマ菌ですが、ある環境下では有用され、ある環境下では有害とされることは他の微生物においてもあります。トリコデルマ菌は病害の種類や目的によっては高い効果を発揮することが期待できます。市販されているバイオスティミュラント資材を使ったり、『現代農業』の記事の事例のようにぼかし肥料にして用いたりして、微生物を活用してみてください。

 

参考文献

  1. バイオスティミュラント資材 活用による作物の生育等改善
  2. 農林水産研究イノベーション戦略2021
  3. Biostimulants in Farm Bill | Biological Products Industry Alliance
  4. Greenhouse & Floriculture: What are Biostimulants? | Center for Agriculture, Food, and the Environment at UMass Amherst
  5. PGPR-ルーラル電子図書館―農業技術事典 NAROPEDIA
  6. PGPF-ルーラル電子図書館―農業技術事典 NAROPEDIA
  7. Biological functions of Trichoderma spp. for agriculture applications – ScienceDirect
  8. ト リ コ デ ル マ 菌 ボ カ シ で 灰 カ ビ 激 減 、 キ ュ ウ リ 一 〇 a 三 t 増 収 !
  9. 多彩な機能を有する土壌糸状菌Trichoderma属菌の農業利用

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