意外と知らない農業の立役者・土壌微生物 〜「硝化菌」について〜

意外と知らない農業の立役者・土壌微生物 〜「硝化菌」について〜

土壌が肥沃になる要因にはさまざまなものがありますが、土壌微生物たちの働きも大きいもの。そこで本記事では、意外と知らない土壌微生物に着目。土壌中の窒素循環には必要不可欠な存在「硝化菌」についてご紹介していきます。

 

 

硝化菌とは

意外と知らない農業の立役者・土壌微生物 〜「硝化菌」について〜|画像1

 

硝化菌(硝酸化成菌)とは、

  • アンモニア硝化菌(アンモニア態※窒素を酸化し、亜硝酸態窒素に変える)
  • 亜硝酸硝化菌(亜硝酸態窒素を酸化し、硝酸態窒素に変える)

これら二群の細菌の総称で、陸上に生育する植物を廻る窒素循環に重要な役割を担う細菌です。

※アンモニア態窒素→アンモニアとして含まれている窒素

亜硝酸態窒素(亜硝酸として含まれている窒素)
硝酸態窒素(硝酸として含まれている窒素)
尿素態窒素(尿素として含まれている窒素)
有機態窒素(有機物として含まれている窒素)

硝化とは

上記二群の細菌によって行われている一連の反応を硝化(硝酸化成)といいます。

「窒素」は植物の生育に必要不可欠な養分です。植物を大きく生長させる作用がある窒素は、根から吸収される必須栄養素の中で最も多く要求されます。植物が利用できる窒素が土壌中にどのくらい含まれているかによって、植物の生産性が決まるといっても過言ではないほど重要な養分です。

肥料として与えられる窒素の形態には

  • アンモニア態
  • 硝酸態
  • 尿素態
  • 有機態

がありますが、植物が吸収する際、その形態のほとんどはアンモニア態と硝酸態です。土壌に施した有機質肥料や動植物の遺骸などに含まれる含窒素有機物は分解生物によって分解され、まずはアンモニア態窒素となります。それを土壌中の硝化菌が亜硝酸態窒素、亜硝酸態窒素から硝酸態窒素へと変えていきます。

なお水田と畑土壌では、養分として存在する窒素形態が異なります。

畑土壌では、好気性(エネルギー代謝に酸素を必要とする性質)の硝化菌が土壌中のアンモニア態窒素を容易に硝化するため、硝酸態窒素が優先です。

一方、水田はアンモニア態窒素が優先です。

湛水期の水田は好気的な環境の表層(酸化層)と嫌気的環境(酸素を含まない状態)の下層(還元層)に分かれ、還元層ではアンモニア態窒素が硝化作用を受けないため、アンモニア態窒素のまま留まります。酸化層では畑土壌中と同様に硝化が起きますが、水田の水の動きに従い、硝酸態窒素が還元層に移動すると、脱窒菌と呼ばれる微生物によって硝酸態窒素は窒素ガスに変えられてしまいます。この菌は硝酸態窒素を窒素ガスに変える、すなわち「肥料成分をガス化して逃してしまう」厄介な存在です。そのため、水田はアンモニア態窒素が優先なのです。

とはいえ、イネはアンモニア態窒素を直接吸収することができる植物です。そのため水田では、アンモニア態窒素肥料を水田土壌全体に混ぜることで、イネが存分に養分を吸収できるようにし、追肥の際はアンモニア態窒素を還元層に押し込むようにして施すことが求められます。

 

 

硝化菌の役割

意外と知らない農業の立役者・土壌微生物 〜「硝化菌」について〜|画像2

 

畑土壌において、硝化菌はとても重要な役割を担っています。

陸地で生育する植物(畑土壌で育つ作物)の多くは、硝酸態窒素を積極的に利用する好硝酸性植物です。もし硝化菌が土壌中に存在しなかったら、土壌中にはアンモニア態窒素が蓄積します。アンモニア態窒素はアルカリ性を示します。イネはアンモニア態窒素を直接吸収することができますが、畑土壌中の窒素の形態がアンモニア態だけだと、畑土壌で育つ作物はアルカリ性の毒性により生理障害を起こしてしまいます。

また硝化菌は堆肥の悪臭問題を解決する存在でもあります。

堆肥の原料として利用される生ごみなどの有機物に含まれる窒素(主にタンパク質の形で存在)は微生物の働きでアンモニア態窒素と有機酸に分解されます。有機酸は微生物の養分として分解されますが、アンモニア態窒素は蓄積されます。

この際、堆肥のpHが中性もしくは弱アルカリ性だった場合、アンモニア態窒素は気体のアンモニアに変わってしまい※、アンモニアは堆肥の悪臭の原因となります。

※高校化学の復習になりますが、アンモニア態窒素の酸塩基反応に関する内容です。弱酸性のアンモニア態窒素はブレンステッド塩基( 「ブレンステッド・ローリの定義」より相手から水素イオン(H+)を 受け取る分子やイオン)と反応して、無電荷のアンモニア分子に戻ります。アンモニアがアンモニア態窒素を形成する割合は溶液のpHに依存し、pHが低いときは多くのアンモニアがアンモニア態窒素に変わり、pHが高いときはアンモニアが形成されます。

一方、堆肥のpHが中性から弱酸性、かつ堆肥の切り返しが頻繁に行われ、十分な酸素が堆肥中に供給されることで、好気性の硝化菌が活動しやすい環境になっていれば、硝化菌の働きにより「アンモニア態窒素→亜硝酸態窒素→硝酸態窒素」へと変換されていきます(硝化菌が活動しやすくなる条件、硝化が進む条件は他に、水分が多すぎないこと、60〜70℃前後が適温などが挙げられます)。

農業において重要な役割を担う硝化菌ですが、過剰施肥や有機物を施用したことで生じた過剰な硝酸態窒素による農作物への蓄積、硝酸態窒素が土壌から流亡しやすいことから生じる地下水汚染、硝酸態窒素への変換過程で土壌を酸性化させてしまうなどといった問題点もあります。過剰施肥を避けることが大切ですが、窒素肥料を多用する茶の栽培や土壌改良などで窒素肥料を施さざるを得ない場合も。

ただ、微生物というのは面白いもので、まだまだ未発見・未利用の微生物がたくさんいると言われています。2017年、農研機構が「茶園土壌から新しい硝化菌を発見」という情報を公開しました。これまで酸性に耐性をもつアンモニア硝化菌は知られていませんでしたが、強酸性の茶園土壌から、酸性耐性があり、茶園土壌の硝化に寄与している新しいアンモニア硝化菌を発見したのです。農研機構の発表には、この菌を硝化抑制資材開発の実験材料に利用することで、硝酸態窒素による水質汚染等を防ぐ技術の開発に役立つことが期待される、と締め括られています。

 

参考文献

  1. 硝酸化成作用-ルーラル電子図書館ー農業技術事典 NAROPEDIA
  2. ジェイカムアグリ株式会社 農業と科学
  3. 染谷孝『人に話したくなる土壌微生物の世界 食と健康から洞窟、温泉、宇宙まで』(築地書館、2020年)
  4. 「過剰施肥」脱却のススメ
  5. 【高校化学基礎】「ブレンステッド・ローリーの定義」|映像授業のTry IT(トライイット)

微生物カテゴリの最新記事