特定農薬とは何か。有機農業でも使える「農薬」の基礎知識

特定農薬とは何か。有機農業でも使える「農薬」の基礎知識

「有機農業=農薬は一切使えない」と考えている人もいるかもしれませんが、有機JASでも使用が認められている「農薬」が存在します。それが「特定農薬」です。

特定農薬は、環境や人体への影響が極めて少なく、有機農業でも条件付きで使用が可能とされている数少ない資材です。しかし、その定義や使用方法を誤解してしまうと、「有機」の基準を外れてしまうリスクもあります。

そこで本記事では、特定農薬とは何か、その制度概要から現在の認可品目等、有機農業でも使える「農薬」の気になるところをご紹介していきます。

 

 

特定農薬とは?

特定農薬とは何か。有機農業でも使える「農薬」の基礎知識|画像1

 

特定農薬とは、「農薬取締法」において定められた、通常の農薬とは異なる扱いを受ける農薬のことです。農薬としての効果はあるものの、以下の3条件(農林水産省の定義)をすべて満たす場合に限って「特定農薬」として認定されます。

  • 人の健康に被害を及ぼすおそれがないこと
  • 動植物・農作物に被害を及ぼすおそれがないこと
  • 環境に被害を及ぼすおそれがないこと

この制度は2004年(平成16年)の農薬取締法改正時に導入され、「農薬の登録を必要としない例外的な農薬」として位置づけられました。つまり、通常の農薬とは異なり、「農薬登録番号」はなくても使用可能とされています。

現行の特定農薬一覧とその効果

2024年時点で、特定農薬として指定されているのは以下の3種類です。

特定農薬名

主な用途 特徴・効果

食酢(酢酸)

除草、防除

酸性により植物組織を破壊、葉枯れ効果

重曹(炭酸水素ナトリウム)

病害防除

うどんこ病など真菌系病害に効果

天然物由来のストチュウ(酢と焼酎を混ぜたもの)類(木酢液等) 病害虫忌避

臭気による忌避効果、殺虫効果は限定的

これらは一般的な食品添加物や生活資材としても使用されており、家庭菜園や学校菜園でも比較的安心して使える資材として知られています。ただし、「天然物」「食品由来」という理由だけで安全とは限りません。濃度や使い方を誤れば、植物にも悪影響を与える可能性があります。

 

 

使用上の注意点と勘違いしやすい点

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特定農薬は“登録不要”ではあるものの、「農薬としての使用」である限り、農薬取締法の適用を受けます。そのため、使用時には以下の点に注意が必要です。

「食品だから安全」ではない

酢や重曹は食品としては安全でも、濃度を間違えると作物や土壌にダメージを与える場合があります。たとえば、酢酸濃度10%以上の食酢を大量に散布すると、葉焼けや根傷みの原因になります。

販売時の表示義務

特定農薬を農薬用途で販売する場合には、「特定農薬」としての表示義務があります(農薬取締法第3条)。農業資材として流通する場合も、成分濃度や使用目的の明示が必要です。

他の資材と混同しない

「木酢液」や「にんにく抽出液」など、民間製剤や自作資材の中には、農薬成分として未認可なものも含まれます。それらを農薬的に使用した場合は無登録農薬の使用違反に問われる可能性もあります。

有機JASとの関係性と利用可能な範囲

有機農業に関する公的認証制度「有機JAS(日本農林規格)」では、原則として化学合成農薬の使用は禁止されています。ただし、農林水産省が「特定農薬」として指定した資材に限り、必要最低限の範囲で使用を認めるとされています。

有機JASで特定農薬を使うには、

  • 使用理由を記録する(有機JAS対応日誌など)
  • 適正な濃度と方法を守る
  • 有機認証機関の監査時に記録を提示できる状態にしておく

必要があります。

つまり、「使ってよい農薬」とは言っても、無制限に使えるわけではありません。病害虫がどうしても防げない場合など、リスクを最小限に抑える手段として活用するのが基本姿勢となります。

「適正使用」でうまく向き合う

特定農薬は、「まったくの無農薬では病害虫リスクに対応できない」「できる限り自然な方法で農業を続けたい」といった農業者の悩みに応えるものともいえます。そして重要なのは、「農薬=悪」とするのではなく、「必要最小限の使用」「制度に則った使い方」を実践すること。とくに有機農業を志す人は、制度への理解と記録の徹底が求められます。

消費者の信頼を得るためには、農薬を「使っていない」ではなく「こう使っている」と説明できることが大切です。

 

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