疎植栽培と密植栽培。それぞれの栽培方法の特徴とは。

疎植栽培と密植栽培。それぞれの栽培方法の特徴とは。

コメの栽培や特定の野菜の栽培方法を学んでいると「疎植栽培」「密植栽培」という用語を度々見かけます。本記事では、これらの栽培方法の特徴について紹介していきます。

 

 

疎植栽培とは

疎植栽培と密植栽培。それぞれの栽培方法の特徴とは。|画像1

 

一般社団法人全国農業改良普及支援協会と株式会社クボタで運営する営農情報サイト「みんなの農業広場」にて公開されている「農作業便利帖」によると「株間を広げて栽植密度を下げる栽培法」と記されています。疎植栽培は主にコメの栽培方法として知られています。

疎植栽培の特性

疎植栽培を実施すると、単位面積当たりの茎数は少なく、穂数もやや少なくなりますが、1穂籾数が増加することから、単位面積当たりの籾数は慣行栽培のものよりわずかに少ないだけで済みます。

慣行栽培に比べて株が大きくなるという特徴があります。収量や玄米の外観品質なども慣行栽培のものと比べ、大きな差はありません。

穂数が少なくなりすぎると減収したり、1穂籾数が過剰に増加すると品質低下を招くことがあったりといった注意点があります。生育期間が短い早生品種は穂数不足による減収、晩生品種は出穂遅延による登熟不良の恐れがあるといわれており、中生品種のイネが疎植栽培に向いています。

栽培・コスト面でのメリット

疎植栽培を行う上での明確な定義はありませんが、慣行栽培の株間15〜18cmを24〜28cmに広げ、栽植密度を㎡あたり12〜14株以下にするのが一般的です。この方法で栽培すると、必要な育苗箱の数を40〜50%少なくすることができ、苗を購入する場合には苗にかかる費用が、ハウス育苗の場合にはハウスの面積が、半分で済むといった生産コストや労働時間の削減につながります。

注意点

疎植栽培では株間が広くなります。日当たりが良くなるため、雑草が発生しやすくなるため、こまめな雑草管理が必要になります。

疎植栽培で安定した収量・品質を得るためには、保水性と地力が高い水田が適しています。コメづくりに適した土づくりを行いましょう。

 

 

密植栽培とは

疎植栽培と密植栽培。それぞれの栽培方法の特徴とは。|画像2

 

疎植栽培とは対照的に栽植密度を高めて栽培する方法です。トマトや大豆、オクラなどの作物では密植栽培を取り入れることで品質や収量の向上を図ります。

たとえばトマトの場合、渡辺慎一『低段密植栽培による新たなトマト生産』野菜茶業研究集報3号91〜98ページ(農業・生物系特定産業技術研究機構野菜茶業研究所、2006年)では「低段密植栽培」を行うことでトマトの容易な高糖度化が図れることが記されています。

タキイ種苗株式会社が公開する情報誌『タキイ最前線 2016年春種特集号』によると、「トマトの栽培法には栽培期間と収穫果房段位数により、低段栽培と長期多段栽培に分けられます」とあります。

「段」とは、4〜6つの花で形成されたトマトの1つの花序(茎への花の付き方、花軸上の花の並び方)を指します。一般的には8段以上を長期に収穫する長期多段栽培が行われていますが、「低段密植栽培」は1〜4段程度の果房を収穫し、長期多段栽培に比べて2〜5倍程度まで栽植密度を高めて栽培する方法です。

『低段密植栽培による新たなトマト生産』によると、慣行栽培では10a当たりの栽植本数が2,000〜3,000株、1株に花房6〜20段、年間で1〜2回の作付が行われる一方、一段密植栽培では10a当たりの栽植本数が10,000株、1株に花房を1段のみ、年間4回以上の作付が行われます。短期栽培を繰り返す必要は生じますが、糖度を高める他のストレス処理(塩類ストレスや水ストレスなど)に比べて、高糖度化が容易に行えると書かれています。

他のストレス処理の場合、たとえば高温期に開花した直後に塩類ストレスをかけると尻腐れ果が多発します。同論文で取り扱われている一段密植栽培では、第一花房の果実のみを考慮してストレスをかければよいため、高度な技術を必要としないとされています。

大豆の場合、兵庫県立農林水産技術総合センターが公開した資料に大型機械体系に対応した栽培方法として「大豆不耕起狭条密植栽培」が紹介されています。大豆を稲や麦と同様の30cm条間で播種すると、1株当たりの着莢数は慣行栽培に比べて減少するものの、㎡当たりの個体数が多くなり、総着莢数が増加します。

メリットとしては、栽植密度が高まることで、群落内の相互遮蔽により雑草の発生が抑制されること、分枝が少なくなり主茎が伸長することで最下着莢位置が高くなり、コンバイン収穫が容易になること、刈り残しが減少することがあげられています。

オクラの場合、生長が早く、採り遅れると実が大きくなってかたくなってしまうのを防ぐため、密植栽培が行われます。1カ所に3粒ずつ播種を行い、間引かずに栽培することで生長が抑制され、実が筋張ってかたくなるのを抑えることができます。

疎植栽培も密植栽培も、植物の特性や作業効率、求める品質に合わせた栽培方法といえます。

 

参考文献

  1. 疎植栽培法|稲編|農作業便利帖|みんなの農業広場
  2. 疎植栽培マニュアル
  3. 北海道における省力化のための水稲疎植栽培技術 | 農研機構
  4. 低段密植栽培による新たなトマト生産
  5. 次世代型生産システム トマト一段密植栽培 ~栽培管理が単純化され、計画生産による企業的経営を可能とする~(グリーンレポートNo.470)
  6. トマトの低段・多段組み合わせ土耕栽培に関する研究
  7. 2016年春種特集号_タキイ最前線
  8. 大豆の不耕起狭条密植栽培について
  9. オクラ栽培のコツ – 読んで上達!やさいの育て方 | 耕うん機 | Honda公式サイト

『現代農業 2022年8月号』p11〜15(農文協、2022年)

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