アグロエコロジーとは。環境への配慮で注目が集まる農業のあり方

アグロエコロジーとは。環境への配慮で注目が集まる農業のあり方

アグロエコロジーの明確な定義は定められていないものの、農業のあり方として捉える場合には、自然と共存する持続可能な農業を指す言葉と考えることができます。

アグロエコロジーに含まれるエコロジー(Ecology)という言葉は、狭義には生物学の一分野としての生態学を指し、広義には生態学的な知見を反映しようとする文化的・社会的・経済的な思想や活動を指します。

そのため、アグロエコロジーを新たな学問的アプローチとして捉える場合もあります。たとえばミゲール・A. アルティエリ、クララ・I. ニコールズ、G. クレア・ウェストウッド、リム・リーチン著 ; 柴垣明子訳『アグロエコロジー : 基本概念、原則および実践』(総合地球環境学研究所、2017年)では、アグロエコロジーを以下のように説明します。

アグロエコロジーは、社会科学、生物科学、農業科学に立脚し、それを伝統知や農民の知恵と融合させた科学である。

 

 

アグロエコロジーが重視するもの

アグロエコロジーとは。環境への配慮で注目が集まる農業のあり方|画像1

 

“社会科学、生物科学、農業科学に立脚し、それを伝統知や農民の知恵と融合させた科学である”アグロエコロジーでは、科学的な知識だけでなく、農業者の日々の観察や経験に基づく地域固有の知識や先住民族の伝統的な知識などを尊重した新たな知識の創出を重視します。

また従来の研究では除外されてきた小規模農業者や農業労働者、女性や子供、少数民族などの声に耳を傾けることも重視し、加えて農業者や消費者といった研究の受益者に可能な限り研究の企画から実施、評価に至るまであらゆる過程に参加してもらう手法を重視します。

農業者の生活に焦点を当てる背景もあり、『アグロエコロジー : 基本概念、原則および実践』では“アグロエコロジーは、政治的には中立でなく、内省的(self-reflexive)で、慣行・工業型農業に対する批判の先鋒となっている”と説明されています。利潤を追求する企業やビジネス、「緑の革命」(※)とは対極な位置にあります。

※主として開発途上国の人口増加による食糧危機克服のため、多収穫の穀類などを開発して対処しようとする農業革命のこと。(中略)新品種は多量の水や化学肥料、農薬を必要とし、砂漠化や農薬汚染など環境への影響、さらには先進国(化学肥料、農薬供給国)と開発途上国、金持ち階級と貧困層との間に深刻な社会経済的な問題も引き起こした。(引用元:環境用語集:「緑の革命」|EICネット

 

 

アグロエコロジーが実現したいもの

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『アグロエコロジー : 基本概念、原則および実践』では、“アグロエコロジーの真髄は、地域の生態系を模倣した農業生態系の構築にある”、“アグロエコロジーは、農場およびその周辺の景観に多様性を取り戻すことが、持続可能な農業実現のカギであると考える”と記されています。

農法としてのアグロエコロジーの基本的な考え方について、「季刊地域 No.55 2023年秋号」(農山漁村文化協会、2023年)には以下のように記載されている。

地域の自然生態系の機能を可能な限りいかし、肥料、農薬、石油といった外部からの投入資材を可能な限り削減して生産を行うというのが、アグロエコロジーの基本的な考え方である。

引用元:「季刊地域 No.55 2023年秋号」p.82〜(農山漁村文化協会、2023年)

アグロエコロジーは定義によっては農業のあり方を指すこともありますが、上記からも分かる通り、特定の農法を指すものではなく、従来の慣行農業、工業的農業へのさまざまな代替農法の生態学的原理と指標を示すもの=アグロエコロジーといえます。

アグロエコロジーの実践につながる手段

現状では「アグロエコロジー」という単語はまだまだ身近なものではないと思われますが、アグロエコロジーを実践する手段は決して珍しいものではありません。

アグロエコロジーの実践につながる手段には、輪作や被覆作物、緑肥や混合栽培などがあげられます。輪作では、異なる作物を交互に栽培することで土壌中の養分バランスが良好に保たれ、病原菌や害虫、雑草の発生を防ぐことにつながります。雑草抑制の目的で利用される被覆作物は土壌の流出を防ぐほか、土壌中の水分や温度の安定化にもつながります。

これらは多様性がある、より複雑な農業生態系の構築に役立つ技術です。

 

 

まとめ

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冒頭で紹介したように、エコロジーは、狭義には生物学の一分野としての生態学、広義には生態学的な知見を反映しようとする文化的・社会的・経済的な思想や活動を指します。すなわち、植物、動物、人間、環境との関係やそれらの関係のバランスを研究する学問といえます。

アグロエコロジーはエコロジーの概念を農業に応用することといえます。気候変動の緩和につながる農法を推進するだけでなく、農地周辺の自然環境、農業従事者や地域社会との関わりにつながる農法も推進します。

 

参考文献

  1. 「季刊地域 No.55 2023年秋号」(農山漁村文化協会、2023年)
  2. ミゲール・A. アルティエリ, クララ・I. ニコールズ, G. クレア・ウェストウッド, リム・リーチン著 ; 柴垣明子訳『アグロエコロジー : 基本概念、原則および実践』(総合地球環境学研究所、2017年)
  3. What is agroecology? | Soil Association
  4. レジリエントな地域社会 Vol.7 アグロエコロジーからみた長期的持続可能性と里山
  5. 2016 年京都アグロエコロジー宣言・日本語訳
  6. The 10 Elements of Agroecology: Guiding the Transition to Sustainable Food and Agricultural Systems

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