今一度『主要農作物種子法』廃止について考える

今一度『主要農作物種子法』廃止について考える

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2018年4月1日をもって廃止された「主要農作物種子法(以下、種子法)」について今一度考えていきましょう。
2018年9月現在、種子法を復活させる法案についても話が行われているようですが、この種子法がどのような内容だったのか、なぜ廃止されたのか、廃止されたことによるデメリットは何なのか、解説していきます。

 

主要農作物種子法とは

そもそも種子法とは何なのでしょうか。
種子法の目的について第1条では「この法律は、主要農作物の優良な種子の生産及び普及を促進するため、種子の生産についてほ場審査その他の措置を行うことを目的とする」と書かれています。

ここで書かれている「主要農作物」は、

・稲
・大麦
・はだか麦
・小麦
・大豆

を指します。この1文で示されている「ほ場審査」とは「都道府県が、種子生産ほ場において栽培中の主要農作物の出穂、穂ぞろい、成熟状況等について審査すること」を言います。
種子生産のための農作物に対する審査だけでなく、種子そのものの審査も都道府県が行います。この「生産物審査」と呼ばれる審査は、「都道府県が、種子生産ほ場において生産された主要農作物の種子の発芽の良否、不良な種子及び異物の混入状況等について審査すること」とされています。

地域に合った優良な農作物の種子を安定的に生産・供給するために定められた法律です。
生産そのものは都道府県のJAや普及センターが請け負っていますが、それに必要な農業試験場の運営費などの予算を、国が担ってきました。

種子法が制定されたのは1952年の5月であり、戦中~戦後の食糧難から「食糧確保のために種子は重要だ」という考えから制定されたと言われています。

 

 

廃止された理由とは

しかし2018年4月に種子法は廃止されました。
その理由について日本政府は「国が管理するという仕組みは、民間の品種開発意欲を阻害している」と説明しています。

2017年10月に行われた会議では、種子法廃止に向けての説明資料に「総合的なTPP関連政策大綱に基づく『生産者の所得向上につながる生産資材価格形成の仕組みの見直し』及び『生産者が有利な条件で安定取引を行うことができる流通・加工の業界構造の確立』に向けた施策の具体化の方向」と記されていました。

当時はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)やRCEP(東アジア地域包括的経済連携)といったグローバル化を推し進める協定が進行していましたから、一部の専門家の見方では「企業活動を阻害する規制を緩和する措置の一環ではないか」との考えが挙げられています。
種子法の文書には、民間の参入を禁じるような項目はありませんが、民間企業と都道府県との競争体制が対等ではないという考えから廃止されたものと考えられています。

 

 

強行可決に不審を抱く声も

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ただし種子法廃止は世間にはほとんど報道されぬまま可決されました。
そのことについて不審を抱く声も少なくありません。

2016年9月に開かれた内閣府の規制改革推進会議「農業ワーキング・グループ」で議題に上がりました。
2017年2月に「主要農作物種子法を廃止する法律案」の国会提出が閣議決定しましたが、この時世間を賑わせていた問題は「森友学園問題」「加計学園問題」でした。

 

 

種子法廃止のメリット・デメリット

 

・メリット
「日本の民間企業の発展」が大きなメリットです。
今までは都道府県が品種を育て、その種子を供給するように定められていました。
民間企業の参入を禁じる記述はありませんでしたが、民間の種苗企業が主要作物であるコメなどに参入しにくい状態にあったようです。

種子法で定義づけられている主要農作物以外の農作物、野菜や花の趣旨においては研究開発が活発化し、その甲斐あってか世界市場にも通用する規模拡大を見せています。種子法によりコメなどの農作物の世界シェアは圧倒的に少ないため、よりシェアを拡大するために「種子法廃止」は役立つのです。

・デメリット
ただし「復活案」が提出されている現状からもわかるとおり、懸念事項が多々あるのも事実です。

まず1つ目に「種子の開発に予算が出なくなるのでは」という声が挙がっています。
各都道府県が責任をもって開発し、その予算を国が担ってきましたが、それがなくなるのではないかということです。
1つの品種が開発されるのに、長い年月を必要とします。長い年月と労力は、国の予算で賄われてきました。
このことに関しては、種子法を廃止しても予算が確保されるような仕組みを求める付帯決議が採択されています。ですが不安事項はまだまだあります。

2つ目に挙げるのは「種子が独占されるのではないか」という声です。
上記では公的資金のサポートが続けられるよう、付帯決議が採択されたことを示しましたが、万が一予算が回らなくなった場合、生産コストの上乗せによる種子の価格向上も考えられます。また民間企業による私有化も0とは言い切れません。

民間企業が開発、着手した種子に特許が掛けられれば、「特許料を支払わなければ種子が使えなくなる」という事態も発生しうるでしょう。
実際に世界では、力のある企業が中小の育苗企業を買収してシェアを拡大する姿が見受けられます。

他の懸念事項には「地域特有の種が消滅するのではないか?」という声があります。
小規模にしか栽培されていない地域特有の種子が日本各地にあるのですが、そのような多様性が種子法廃止によって損なわれるのではないかという意見です。

ただしこの課題に関しては、各地方自治体が「主要農作物種子法」のような条例を定めることで、多様性のある種子を守ろうとしています。地方自治体独自で、種子を守ろうという取り組みが行われているので、この課題に関してはクリアできそうですね。

 

 

日本の食の今後

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技術や資本に力のある企業が中小企業を買収する姿は、昨今珍しいものではなくなってきました。種子をはじめとする農分野においても起きている現象です。

ですがもちろん、このような囲い込みに対して対応する団体もいます。
世界的な農民組織「ヴィア・カンペシーナ」は、地域特性を損なわない農業を取り戻す活動の一環として「在来種子の保存」に取り組んでいます。

日本でも、広島県にある農業ジーンバンクが、一度作られなくなった作物を復活させ「地域の特産品」として売り出しています。種子を守るための取り組みは、種子法が廃止されても続いています。

今後、廃止されたまま民間企業による積極的な参入が起こるのか、それとも種子法が復活するのか、一般国民に決して報道されなくても、世間に動向を伝え続ける必要がありそうです。

 

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