農業特化型生成AIがもたらすもの。そもそも生成AIとは。農業にどう役に立つのか。

農業特化型生成AIがもたらすもの。そもそも生成AIとは。農業にどう役に立つのか。

2024年末に選出された「2024年農業技術10大ニュース」第4位に気になるものがありました。

国内初! 農業特化型の生成AIを開発
-三重県で実証実験開始 将来的には全国規模で農業情報を提供-

2022年末に公開され、生成AI(人工知能)ブームのきっかけとなった対話型AI「Chat GPT」をはじめ、今、生成AIはあらゆる分野で注目される技術です。

そこで本記事では、そんな生成AIが農業にどのように役立つのか、農業技術10大ニュースに選出された国内初の農業特化型生成AIの事例も含めて、ご紹介していきます。

 

 

そもそも生成AIとは

農業特化型生成AIがもたらすもの。そもそも生成AIとは。農業にどう役に立つのか。|画像1

 

生成AIとは、新たなコンテンツを生み出すことができる人工知能(AI)の一種です。

生成AIとAIの違い

従来のAIは与えられたデータを分析し、ルールやパターンを見つけ出すことで、判断や予測を行います。例えば、スマートフォンの顔認証に使われる画像認識AIや、音声アシスタントに搭載されている音声認識AIなどは、特定のタスクを実行することに特化したAIです。これらは「識別型AI」とも呼ばれ、学習したデータの範囲内でのみ動作するという特徴があります。

一方で、生成AIは学習したパターンや関係性を活用し、テキスト、画像、動画、音声、さらにはプログラムコードなど、さまざまな種類のデータを新たに生成する能力を持っています。そのため、単なる情報処理を超え、人間が創造的な活動を行うように、新しいアイデアやコンテンツを生み出せるのが特徴です。

従来のAIは「判断する」ことを得意とし、生成AIは「創造する」ことを得意とします。

生成AIの仕組み

機械学習の一種である「ディープラーニング(深層学習)」が大きく関わっています。ディープラーニングは、人間の脳神経を模した「人工ニューラルネットワーク」を用いて、膨大なデータから特徴やパターンを自律的に学習する技術です。特に、近年発展した「大規模言語モデル(LLM)」や「基盤モデル(FM)」が生成AIの中心技術となっており、これによりAIは文章の意味を理解し、文脈に沿った自然な文章を作り出したり、画像の特徴をとらえて高精度なビジュアルを生成したりすることが可能になっています。

生成AIの最も画期的な点

専門的なスキルがなくても手軽にコンテンツを作成できることです。例えば、従来は専門知識が求められた文章作成やデザイン作業も、生成AIを活用することで短時間で実現可能になります。その結果、業務の効率化や生産性向上が期待され、すでにビジネスやエンターテインメント、医療、教育など多様な分野で活用が進んでいます。

 

 

生成AIが農業に役立つ

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農業特化型生成AIがもたらすもの

農研機構は、農業分野に特化した生成AIを開発し、2024年10月から三重県で試験運用を開始しました。このAIは、インターネット上の公開情報だけでなく、農研機構の研究データや地方の農業機関の栽培マニュアル、営農指導記録など専門的な情報を学習しており、汎用AIと比較して農業関連の質問に対する正答率が40%向上しています。
この農業特化型生成AIを導入することで、農業技術の高度化・複雑化に伴う普及指導員の業務負担の軽減、新規就農者の知識習得の支援、農業者への最新技術の提供促進が期待されています。

生成AIに期待されること

農業の現場では、高齢化や人手不足が深刻化し、さらに技術の高度化により新規就農者の育成が難しくなっています。生成AIはこうした課題の解決につながるとして注目を集めています。

前述した通り、従来のAIは「判断する」ことを得意とし、病害虫の発見や生育予測といった「識別・予測」を主な機能としていました。

一方で、生成AIは「情報の創出」や「意思決定の補助」に活用される点が特徴で、この特徴は農業経営のさまざまな場面で活用されています。たとえば、台木の選定に生成AIを活用することで短時間で適切な候補を見つけ出したり、通販サイトの商品紹介文を作成したり、ブランド野菜のネーミングや加工品の開発アイデアの提案といったマーケティング分野でも有効に機能しています。

経営データをAIに学習させ、収支の診断や経営改善の提案を受けるといったデータ活用の方法もあります。

生成AI技術活用の注意点

生成AIはスマートフォンやパソコンを使って手軽に活用できるという点で、導入コストを抑えながら農業の効率化を実現できるという点でメリットが大きいといえます。

ただし、生成AIの活用にはいくつかの注意点があります。特に、情報の正確性、法律面のリスクについて慎重に考慮する必要があります。

まず、情報の正確性について。現在の生成AIは、学習データに基づいて回答を生成しますが、常に最新の情報を持っているわけではありません。たとえば、従来のChatGPTは2021年9月までの情報しか持っていませんでした。その後、「ChatGPT-3.5」は2022年1月まで、「ChatGPT-4」は2023年4月までの情報を扱えるようになっているものの、最新の農業技術や市場動向については不正確な回答をする可能性があります。

また、質問の仕方によっては、事実と異なる「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれるもっともらしい誤情報を生成することもあるため、AIの出力をそのまま鵜呑みにせず、専門家の意見や信頼できる情報源と照らし合わせることが重要です。

次に、法律面でのリスクについて。生成AIは個人情報や機密情報を扱う場合、データ漏えいのリスクが伴います。特に、農業経営に関するデータや取引情報などを無防備に入力すると、不正利用のリスクが高まります。生成AIの活用法に関する記述の中で、“経営データをAIに学習させ、収支の診断や経営改善の提案を受ける”といった活用法を紹介しましたが、入力する内容によっては不正利用のリスクが高まることを十分に理解したうえで活用することが大切です。

また、画像やテキストの生成機能を活用する際には、著作権の問題にも注意してください。たとえば、AIが生成したコンテンツが既存の著作物と類似している場合、法的な問題に発展する可能性もあります。

 

 

まとめ

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農業分野においても大きな変革をもたらすと期待されている生成AIには、前述したようなリスクもありますが、慎重に活用することで農業経営に役立てることができるはずです。また、ほかのスマート農業技術との連携により、持続可能な農業の実現に向けた新たな活用方法も生まれることも期待されます。

生成AIは単なる情報提供ツールにとどまりません。農業経営の質を高め、次世代の農業を支える重要な技術としての可能性を広げています。

 

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