ロボット農機の公道走行解禁で何が変わるのか、現場に導入するには何が必要か。

ロボット農機の公道走行解禁で何が変わるのか、現場に導入するには何が必要か。

自動運転トラクターや田植え機といったロボット農機の活用は、圃場内での作業を省力化します。しかし日本の多くの農地は「点在」しているために、機械を格納庫から別の圃場へ移す際に公道を経由する場合があります。従来は人が運転して移動しなければならないため、自動運転による省力化の効果が十分に発揮されにくいのが実情です。

そんな中、公道走行の解禁に向けて指針を改める動きが報道されています。現在の改正案・指針は、遠隔監視下での自動運転を想定したものであり、完全自由な無人走行がいつでもどこでも可能になるわけではありません。とはいえ、公道走行が実現すれば、圃場間移動の自動化により稼働時間が増え、機械の稼働効率は大幅に改善する可能性があります。

 

 

現状

ロボット農機の公道走行解禁で何が変わるのか、現場に導入するには何が必要か。|画像1

 

政府は、公道での自動走行を可能にするための指針改定や実証試験を進めています。農林水産省は「農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン」を改正する検討を進め、公道での遠隔監視下での自動運転を想定した安全対策などを盛り込む方針です。国交省や警察庁と連携し、道路運送車両の保安基準や道路使用許可基準の改訂など、公道走行を可能にするための制度整備が段階的に進められています。

解禁によるメリット

公道走行が実現することで得られるメリットは以下の通りです。

移動効率の向上:
圃場から圃場、格納庫から圃場の往復を無人で行えるようになり、稼働時間が実質的に増えます。

人手不足の軽減:
移動時の付随労働が不要になります。その分、限られた人員を耕作・収穫などのコア作業に集中させられます。

実証事業では自動運転の導入で作業時間が平均で18%短縮された例も報告されています※。圃場間移動の自動化が加われば効果はさらに大きくなると期待されています。

※ただし、地域・機器・運用形態によって効果には大きなばらつきがあり、すべての環境で同等の削減が得られるわけではありません。制度化・導入検討時には自らの圃場条件での見積もり・実演を重視する必要があります。

想定される課題

ロボット農機の公道走行解禁で何が変わるのか、現場に導入するには何が必要か。|画像2

 

一方で、新たな課題が生じることも想定されています。

走行条件の制約:
走行速度、通行可能時間帯、ルート指定など運用上の縛りが生まれる見込み。

故障・事故時の責任・対応:
故障で無人農機が停止した場合の回収手順や、事故発生時の法的責任の所在をどう定義するかは、現時点でも制度設計上の重要課題です。ガイドラインや制度検討資料でも、緊急時対応や運用者・製造者・第三者との責任分担についての具体化が求められています。

地域理解の醸成:
住民や通行者に対する安全説明・周知が不可欠。地域ルールを事前に整備することが導入の前提になります。

海外の事例

海外では公道や農道を含めた自律走行への取り組みが活発です。

米国では、John Deere※が自律トラクターや自律運行キットを発表・実地デモを実施しており、現地では実地試験やデモ走行が増えています。

※アメリカに本社を置くディア・アンド・カンパニーが展開するブランドで、農業機械・建設機械の世界的企業

参照元

オーストラリアや欧州でも、自治体や研究機関と連携したパイロットプロジェクトが進行中です。例えば欧州では自動運転の公道規制や安全基準策定が各国で進展しており、実証データを基にルール作りを行う動きが見られます。

これら海外の事例は、日本の地域条件へ応用できる技術運用案やリスク管理の参考になります。

農機メーカーの最新開発動向

農業機械を取り扱う主要メーカーは「完全自動化」と「既存機への自動化キット化」の二軸で展開しています。

前述したJohn Deereはフルオートノマス(無人)トラクターの実地デモや既存機への自律化キット提供を強化。画像認識やAI処理を用いた高性能な自律技術を押し進めています。

クボタ、ヤンマーなどの国内メーカーは、国内の実情に合わせた遠隔監視機能や自動走行技術の開発を進め、公道運用に対応するための安全機能の強化を図っています。

そのほか、欧州の電動自律トラクタや中小ベンチャーが低コストの自律機を提案しており、燃費・メンテ性で差別化を図る動きも見られます。

 

 

まとめ

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上記で示したメーカー側の動きを見る限り、自動運転の技術は揃ってきています。その一方で、運用ルールや保険・責任分担の整備が追いついていない現状も見えてきます。そのため、公道走行の解禁は、日本のスマート農業を次の段階に押し上げる大きな契機であるといえます。

 

参照元

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