生育・収量予測ツールとは、気温、日射量、定植日、作物の大きさなどのデータから、今後の生育量や収量を計算する仕組みです。
農業では、同じ品種を同じ時期に植えても、気温や日射量などによって生育速度や収穫量が変わります。そのため、作業人数や出荷量を早めに決めることは簡単ではありません。こうした課題への対応策として開発が進んでいるのが「生育・収量予測ツール」です。気象データや作物の生育データなどを計算モデルに入力し、今後の生育や収量を数値で示します。
農研機構は、農業データ連携基盤「WAGRI」を通じて「NARO生育・収量予測ツール」をAPIとして提供しています。APIとは、異なるソフトウェア同士でデータや機能をやり取りする仕組みです。NARO生育・収量予測ツールには、果菜類、イチゴ、露地野菜に対応したものがあり、果菜類はトマト、キュウリ、パプリカ、露地野菜はキャベツ、レタス、ブロッコリー、ホウレンソウ、タマネギ、葉ネギなどが対象です。
どのようなデータから予測するのか

予測に使うデータは、作物やツールによって異なります。代表的なものは次のとおりです。
- 気温、日射量、湿度、CO₂濃度などの環境データ
- 播種日、定植日、栽植密度などの栽培データ
- 葉の長さ、幅、枚数、葉面積指数、開花日、着果数などの生育データ
- 品種、作型、栽培地域などの基本情報
- 過去の収量や出荷実績
施設栽培では、ハウス内のセンサーで測定した気温や日射量などを利用できます。一方、露地栽培では、圃場周辺の観測値やメッシュ農業気象データ※などが利用されます。将来の気象予報値を入力すれば、今後の天候を仮定した予測も可能です。実測した生育データを追加することで、計算上の作物と実際の作物のずれを確認し、予測を調整できる場合もあります。
※メッシュ農業気象データとは、全国の農地を約1km四方の区画に分け、区画ごとの気温、降水量、日射量などを示したデータです。アメダスなどの観測値や気象予報を基に作成され、観測所のない圃場周辺の気象も把握できます。
ツールは何を計算しているのか
生育・収量予測は、過去のデータから単純に平均値を出しているわけではありません。作物が温度や光に反応して成長する仕組みを数式で表した「生育モデル」などを使って計算します。
たとえば、NARO生育・収量予測ツールのトマト向け技術では、葉が受けた光から、光合成によってどれほどの有機物がつくられるかを推定します。次に、つくられた有機物のうち、果実へ配分される割合を計算し、最終的な果実の重量や収量へ換算します。
葉の面積が大きければ、それだけ多くの光を受けられます。ただし、葉が重なれば下の葉には光が届きにくくなります。また、光を受けても、気温やCO₂濃度などによって光合成の効率は変わります。こうした関係を数式に組み込み、日ごとの成長を積み上げていくのが基本的な考え方です。
ツールによっては、葉面積指数、個体重量、収穫部重量、開花や収穫の時期、一定期間ごとの収穫量なども予測できます。
予測結果は何に使えるのか
予測結果の用途の一つは、栽培管理の改善です。たとえば、ハウス内の温度やCO₂濃度を変えた条件を複数設定し、それぞれの予測収量を比較できます。実際に環境設定を変更する前に、「この条件なら収量がどう変わる可能性があるか」を検討できるのです。
収穫時期や期間ごとの収量が見通せれば、作業員の配置、選果・包装作業の準備、出荷先との数量調整にも利用できます。苗の定植時期をずらした場合の生育を比較し、収穫の集中を避ける作付計画を検討することも可能です。
さらに、予測収量と実際の収量を比較する使い方もあります。実際の収量が予測を大きく下回った場合は、病害虫、養水分管理、着果状態など、モデルに十分反映されていない要因を調べるきっかけになります。
予測結果を営農判断に使う際の注意点

最も重要なのは、予測値を「必ず得られる収量」と考えないことです。予測はあくまで、入力したデータと計算モデルが想定する条件に基づくシミュレーションです。
また、入力データの品質にも注意が必要です。センサーの設置場所が不適切だったり、葉の長さや開花日を測る方法が毎回違ったりすれば、予測にもずれが生じます。欠測値や入力間違いがないかを確認し、同じ基準で継続的に測定することが大切です。
将来の気象予報を使った予測では、気象予報そのものが変われば、生育・収量の予測も変わります。特に予測期間が長いほど不確実性は大きくなるため、一度出した予測で計画を固定せず、最新の気象データと実際の生育状況を反映して更新する必要があります。
生育・収量予測ツールは、予測値、実測値、作物の状態を照らし合わせ、出荷量や資材投入、環境制御を考えるための判断材料として使うことが基本です。まずは自分の圃場で予測と実績を記録し、どの時期や条件でずれやすいかを把握すると、より現実的な営農判断につなげられます。
参照サイト
- プレスリリース (研究成果) 「NARO生育・収量予測ツール」を組み込んだ営農支援アプリケーションの社会実装
- NARO生育・収量予測ツール (1) 果菜類のご案内 | WAGRI
- 施設園芸作物の生育・収量予測ツール | 農研機構
- 生産現場でのトマトの生育・収量予測情報の利用を可能に!ー「NARO生育・収量予測ツール①果菜類(トマト)のアプリケーションを開発しました ー
- 持続未来 果菜類の生育・収量 国内初、予測API搭載アプリ│
- (農研機構)施設栽培トマトの糖度を予測・制御可能に-「NARO生育・収量予測ツール①果菜類」にトマト糖度制御機能を追加し、高糖度トマト生産をサポート-|トピックス|みんなの農業広場
- NARO生育・収量予測ツール②イチゴ – 野菜花き研究部門
- 生育・収量予測ツールによるトマト年間収量55t/10aの実現 | 研究成果詳細 | アグリサーチャー










