積算温度とはある期間の毎日の平均気温(または基準温度を超えた温度)を日々足し合わせた値です。
植物や昆虫の生育は、暦の日数だけでなく気温に大きく左右されます。たとえば植物の場合、同じ「播種後30日」でも、暖かい年は生育が早く、寒い年は遅くなります。そこで、経過日数ではなく、毎日の気温を足し合わせて生育の進み具合を捉えるのが積算温度の基本的な考え方です。
積算温度は開花日や収穫適期などを予測するために使われます。その理由は、暦の日数だけでは捉えにくい年ごとの気温差を反映できるところにあります。
あらためて積算温度について

農業で「積算温度」と呼ばれるものには、大きく分けて次の2種類があります。
単純積算温度
一定期間の日平均気温をそのまま合計する方法です。
たとえば、3日間の日平均気温が次のようだったとします。
日 日平均気温
1日目 15℃
2日目 18℃
3日目 20℃
この場合の積算温度は、
15+18+20=53℃・日
となります。
単位には「℃・日」や「度日」が用いられます。ただし、農業関係の資料では、単に「℃」と表記されることもあります。
水稲では、出穂後の日平均気温を合計した積算温度が、刈り取り時期を判断する目安として利用されています。気象庁が紹介する山形県の事例では、品種ごとに設定された出穂後の積算気温をもとに刈り取り適期を予測しています。
有効積算温度
作物や昆虫は、気温が低ければまったく発育しない、あるいはほとんど発育しないことがあります。そのため、日平均気温をすべて足すのではなく、発育が進むと考えられる基準温度を超えた分だけを合計する方法があります。これが「有効積算温度」です。
基本的な計算式は、次のように表せます。
1日の有効温度=日平均気温-基準温度
ただし、日平均気温が基準温度以下の場合は、通常、その日の有効温度を0として扱います。
たとえば、ある作物の基準温度を10℃とし、5日間の日平均気温が次のようだったとします。
日 日平均気温 基準温度を超えた分
1日目 8℃ 0℃・日
2日目 12℃ 2℃・日
3日目 15℃ 5℃・日
4日目 18℃ 8℃・日
5日目 10℃ 0℃・日
有効積算温度は、
0+2+5+8+0=15℃・日
となります。
式で表すと、次のようになります。
有効積算温度=各日の「日平均気温-基準温度」の合計
日平均気温が基準温度以下の日については、マイナスの値を加えず、0として扱うのが一般的です。ただし、より精密な予測では、日平均気温だけでなく、日最高・最低気温や1時間ごとの気温を使う方法もあります。
「基準温度」はどう決めるのか
基準温度とは、簡単にいえば、その作物や昆虫の発育が進み始める下限の温度です。昆虫の場合には「発育零点」と呼ばれることがあります。ただし、基準温度はすべての作物に共通しているわけではありません。基準温度は、次のような条件によって異なります。
- 作物や害虫の種類
- 品種
- 発芽、出葉、開花、成熟などの生育段階
- 対象とする地域
- 使用する予測モデル
なぜ気温を足すと生育を予測できるのか
植物の生育速度は、一定の温度範囲では気温と深く関係しています。気温が低いと、発芽、葉の展開、開花、果実の成熟などはゆっくり進みます。一方、適温の範囲内で気温が高くなると、生育は比較的速く進みます。
つまり、作物の生育にとっては「何日経過したか」だけでなく、その期間がどの程度暖かかったかが重要です。
たとえば、同じ30日間でも、日平均気温が15℃前後だった場合と、20℃前後だった場合では、作物が受けた温度の合計が異なります。暖かい日が続いた年は必要な積算温度に早く達するため、開花や成熟も早まる可能性があります。
気象庁は、気温の予測値を利用することで、作物の生育や病害虫の発生を予測し、事前の対策や作業計画に役立てられるとしています。実際に、水稲の刈り取り適期、小麦や果樹の開花日、害虫の防除適期などの予測に気温データが利用されています。
開花日を予測できる理由
植物がある生育段階から開花に至るまでに必要とする温度量は、同じ品種、同じような栽培条件であれば、おおむね一定の傾向を示します。そこで、過去の気温と実際の開花日を調べ、開花までに必要な積算温度や発育速度を明らかにしておけば、現在の気温から開花時期を予測できます。
たとえば、ある果樹が発育を始めてから開花するまでに、一定の有効積算温度を必要とするとします。毎日の気温を積算し、その値が目標に近づけば、開花日も近いと判断できます。さらに、これまでの実測気温だけでなく、今後の気温予報を計算に加えれば、「目標値に達するのは何月何日ごろか」を事前に予測できます。
ただし、花芽ができる仕組みには気温だけでなく、日長や休眠、低温にさらされた期間なども関係します。そのため、果樹などの開花予測では、単純に春先の気温を足すだけではないことがあります。また、積算温度は開花を予測する重要な材料ですが、作物の種類によって計算の起点や方法が異なる点には注意が必要です。
積算温度を使うメリット

年ごとの気温差を反映できる
「出穂から40日後」のように日数だけで判断すると、高温年と低温年の違いを十分に反映できません。積算温度なら、暖かい年には早く目標値へ達し、涼しい年には到達が遅くなります。そのため、平年より生育が早い年や遅い年にも対応しやすくなります。
作業の準備を早めに始められる
開花日を予測できれば、授粉作業、人員、資材などを準備できます。収穫適期が予測できれば、収穫機械や乾燥調製施設の準備、作業員の確保、出荷日程の調整を進められます。
適期を逃すリスクを減らせる
積算温度から収穫適期を予測することは、適期内に作業を終えるための計画づくりに役立ちます。
たとえば、収穫が早すぎれば、作物が十分に成熟していない可能性があります。一方、遅すぎれば、品質低下、過熟、裂果、脱粒、病害の発生などにつながる場合があります。水稲では、早刈りによる充実不足だけでなく、刈り遅れも玄米品質の低下につながります。
注意点

積算温度だけで開花日や収穫日を決めない
積算温度は便利な指標ですが、それだけで作物の生育を完全に説明できるわけではありません。実際の生育には、気温以外にも次の条件が関係します。
- 日射量や日長
- 土壌水分
- 降水量
- 地温
- 肥料や土壌の状態
- 品種
- 着果量や籾数
- 病害虫
- 高温・低温による生育障害
また、気温が高いほど無制限に生育が速くなるわけではありません。作物の適温を超える高温では、生育が停滞したり、品質が低下したりすることがあります。積算温度の基準値も、作物や品種、地域、作型によって異なります。異常高温や低温の年には、通常の基準が当てはまりにくくなる場合もあります。
実際に、水稲の収穫基準に関する研究でも、高温や低温などの異常気象年には使用を避けるよう注意が示された例があります。
そのため、積算温度は「この日に必ず開花する」「この日に必ず収穫する」と断定するための数値ではありません。
目標値に近づいたら圃場を観察し、花芽の発育、果実の色や硬さ、籾の黄化程度や水分など、対象作物に応じた判断材料と組み合わせて使うことが大切です。
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