一般的に、作物を育てる前にはトラクターや耕うん機で土を耕します。耕起は、播種や定植の準備を行う一般的な作業として、広く取り入れられてきました。
一方で近年は、土をできるだけ耕さずに作物を育てる「不耕起栽培」や、耕す範囲を限定する「省耕起栽培」も注目されています。その背景には、農作業の省力化や燃料費の削減に加え、土壌侵食の抑制、土壌有機物の維持など環境面への関心もあります。
ただし、不耕起栽培は簡単に実践できる栽培方法ではありません。圃場の排水性や土質、栽培する作物などによって、導入のしやすさは大きく異なります。そのため、耕すことで作物が育ちやすくなる圃場もあれば、耕す回数を減らしたほうが土壌流出や作業負担を抑えられる圃場もあります。
そこで本記事では、まず土を耕すメリットとデメリットを整理します。そのうえで不耕起栽培が注目されている理由や導入時の注意点を解説します。
土を耕すメリット

土をやわらかくして播種や定植をしやすくする
耕起の大きなメリットは、硬く締まった土をほぐし、種子や苗を植えやすい状態にできることです。
地表面が硬いままでは、播種機の作溝部分が土に入りにくくなったり、種子の深さがばらついたりすることがあります。耕起によって土を砕き、地表面を平らにすることで、播種深度や覆土をそろえやすくなります。
また、定植する野菜では、苗を植える穴を開けやすくなり、畝立てやマルチ張りなどの作業も進めやすくなります。特に、根菜類や地下部の形状が品質に影響する作物では、土の硬さや土塊の大きさを整えることが重要です。
肥料や有機物を土壌に混和できる
耕起によって、肥料や堆肥、石灰質資材などを作土全体に混ぜ込むことができます。
地表面に散布した資材をそのままにしておくと、成分が表層に偏ることがあります。耕起によって土と均一に混ぜれば、作物の根が伸びる範囲に養分を分布させやすくなります。
(ただし、肥料や堆肥は、混ぜれば混ぜるほどよいわけではありません。土壌診断を行わずに過剰な量を施用すると、養分の偏りや塩類集積、水質への負荷を招く可能性があります。土壌の状態を確認し、必要な量を適切な深さに混和することが大切です。)
土を耕すデメリット

土壌構造や土壌生物への影響
耕起すると、土の塊が砕かれるため、作業直後の土はやわらかくなります。ただし、土を細かく砕きすぎたり、土が湿った状態で農業機械を走行させたりすると、雨や機械の荷重によって土が再び締まりやすくなる場合があります。特に、土が湿った状態で農業機械を走行させたり、毎回同じ深さで耕起を繰り返したりすると、耕起層の下部に締まった層が形成され、根の伸長や排水を妨げることがあります。
また、土の中には、植物の根やミミズがつくった水や空気の通り道があります。耕起直後には通気性や排水性が一時的に改善することがあります。一方、耕起を繰り返すと、植物の根やミミズがつくった連続的な孔隙が途切れたり、耕起後に土が再び締まったりして、長期的には水や空気の通りやすさが低下する場合があります。
さらに、耕起によって土の中に空気が多く入ると、微生物による有機物の分解が進みます。有機物の補給が少ない状態で耕起を続けると、土壌中の有機物が減り、土が水分や養分を保つ力も低下する可能性があります。
このように、耕起は一時的に土をやわらかくする一方、頻繁に行うことで、長期的には土が締まりやすくなったり、根が伸びる環境を損なったりすることがあります。
降雨や風による土壌流出のリスク
耕起した直後の土は、細かくほぐされ、地表面に露出した状態になります。やわらかくなった土は播種や定植には適していますが、強い雨や風の影響を受けやすいという弱点があります。
強い雨が降ると、雨粒の衝撃によって地表の細かな土が跳ね上げられます。さらに、土の中へ入りきらなかった雨水が地表を流れると、跳ね上げられた土も一緒に圃場の外へ運ばれます。傾斜のある圃場では水が流れやすいため、土が削られる可能性がさらに高まります。
また、地表付近の土には、作物の生育に必要な養分や有機物が比較的多く含まれています。そのため、表土が繰り返し流出すると、作物が利用できる養分が失われ、根を張ることのできる土の層も薄くなる可能性があります。流れ出した土が排水路を埋めたり、肥料成分とともに周辺の水域へ流れ込んだりすることも問題です。
作業時間や燃料費などの負担
耕起、砕土、整地を複数回行う栽培体系では、その分だけトラクターの走行回数が増えます。走行回数が増えれば、作業時間や燃料費、機械の維持費も増加します。
あらためて不耕起栽培・省耕起栽培とは何か

不耕起栽培とは、原則として播種や定植の前に圃場全体を耕さず、前作の跡地へ直接播種・定植する方法です。
不耕起播種では、専用の播種機で地表面に細い溝を切り、種子を一定の深さに落として覆土します。耕耘作業の省略によって労働時間や生産費を削減できることも期待されています。
ただし、実際の栽培では、収穫後の残さ処理、排水対策、雑草防除、施肥、播種なども含めて設計する必要があります。耕起だけを省略しても、ほかの管理が適切でなければ安定した収量にはつながらない点に注意が必要です。
不耕起栽培と省耕起栽培の違い
不耕起栽培では、播種前に圃場全体を耕しません。これに対して省耕起栽培は、耕起の回数や深さ、範囲を減らす栽培方法の総称です。たとえば、播種する条の周辺だけを耕す部分耕や、表層だけを浅く耕す浅耕があります。部分耕播種機では、幅数センチメートル程度の播種部分だけを耕し、その場所に種子をまきます。
圃場全体を不耕起へ切り替えることに不安がある場合は、まず耕起回数を減らしたり、部分耕を試したりする方法もあります。
不耕起栽培が注目される理由
土壌流出を抑え、農地を守る効果が期待される
不耕起栽培では、作物残さを地表面に残す管理と組み合わせることがあります。残さによって地表面が覆われると、雨滴が直接土に当たりにくくなり、土壌流出を抑える効果が期待できます。地表面の被覆は、土の粒子が砕かれて流れ出るのを抑える働きがあります。残さ被覆によって雨滴の衝撃が弱まり、土壌表面の構造や孔隙が維持されれば、表面流出や風食を抑える効果が期待できます。
ただし、不耕起であれば必ず土壌侵食を防げる、というわけではありません。作物残さの量が少ない場合や、圃場内に水の流れ道ができている場合は、カバークロップや排水路などと組み合わせる必要があります。
土壌中の有機物や生物多様性を維持しやすい
不耕起栽培では、作物残さが地表面に残り、土壌が頻繁にかく乱されないため、表層土壌に有機物が蓄積しやすくなります。
不耕起によって作物残さや土壌有機物の分解が遅くなることは、表層土壌への炭素貯留や、有機物の増加に伴ってミミズなど一部の土壌生物の生息環境が維持されやすくなることにつながるとして期待されています。
作業の省力化と燃料使用量の削減につながる
耕起や砕土、整地の工程を省略できれば、トラクターの走行回数を減らせます。その結果、作業時間、燃料消費、機械の摩耗を抑えられる可能性があります。
日本の不耕起播種の事例でも、大豆や麦では耕起・整地作業を省くことで、労働費と燃料費を削減できると報告されています。また、播種時の地耐力が高く、降雨後に作業を再開しやすいため、適期播種できる面積を増やせる可能性があります。
まとめ

耕起栽培と不耕起栽培をどう使い分けるか考える際、まず確認したいのは、圃場の土質と排水性です。
粘土質で水が抜けにくい圃場では、不耕起によって湿害のリスクが高まる可能性があります。一方、傾斜があり土壌流出が起こりやすい圃場では、耕起回数を減らして地表面を被覆することが有効な場合があります。
作土の深さ、土の硬さ、透水性、地下水位、暗渠の状態などを確認し、不耕起で問題が起こりそうな場所を把握します。
また、最初から圃場全体を不耕起栽培に切り替える必要はありません。まずは一部の圃場や小面積で試し、出芽率、雑草の発生、土壌水分、作業時間、収量などを慣行栽培と比較することが大切です。全面不耕起が難しい場合には、播種部分だけを耕す部分耕や、耕起回数を減らす省耕起も選択肢になります。
数年間継続して土壌や収量の変化を記録すれば、自分の圃場に適した方法を判断しやすくなります。不耕起栽培は、単に工程を減らす技術ではなく、そのほかの圃場管理(雑草管理、排水管理等)と合わせた栽培体系と考えることが重要です。
耕起と不耕起にはそれぞれ長所と短所があります。土を耕す目的をあらためて確認し、必要以上に耕さず、必要な場所では適切に耕すことが大切です。圃場の状態を観察しながら耕起方法を選ぶことが、作物の安定生産と農地の持続的な利用につながるのではないでしょうか。
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