ポストハーベストとは。収穫後のロスを減らすための技術と、ポストハーベスト農薬について

ポストハーベストとは。収穫後のロスを減らすための技術と、ポストハーベスト農薬について

ポストハーベスト(postharvest)とは、「〜の後」を意味するポストと「収穫」を意味するハーベストを合わせた言葉で、収穫した農作物の貯蔵方法や品質管理といった、収穫後の管理全般を指します。

近年、「地産地消」が推進されています。地域で生産された農産物を生産された地域内で消費することで、物量距離が短縮され、流通経費の節減や環境保全などにつながります。

とはいえ、さまざまな産地の野菜や果物が日本全国に届けられるといった、長距離輸送が一般的な流通形態にとって、ポストハーベストの技術は欠かせません。

 

 

ポストハーベストの具体例

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ポストハーベスト技術の主な目的は、収穫後の作物の品質をできる限り維持すること、そして品質を維持した作物を、消費者に安定的に供給することです。

なお、収穫後の作物がその後の過程、たとえば運搬中に外傷が生じたり病害が発生したりするなどして、品質を損ない、消費できなくなることをポストハーベストロスといいます。

予冷

野菜の品質維持に用いられ、野菜の品質を維持するのに適した温度まで、できるだけ速く冷却する方法です。

野菜の品質維持には、野菜の「呼吸」を抑える必要があります。農作物は収穫後も生きています。呼吸によって成分が消費される、蒸散によるしおれが見られるなど、収穫後は老化が著しく進みます。

野菜は収穫直後に呼吸量のレベルが高くなり、その後、徐々に低下していきます。温度が低いほど、呼吸速度は小さくなります。温度が10℃下がれば、呼吸速度は約1/2〜1/3まで低下します。

予冷は、収穫直後の野菜の呼吸量を抑えるだけでなく、蒸散も抑えます。野菜の品質保持にいまや欠かせない技術です。

低温貯蔵とCA貯蔵

低温下で貯蔵することは、貯蔵中の呼吸や蒸散を抑えるだけでなく、エチレン生成を抑制するうえでも重要です。

植物ホルモンの1つであるエチレンもまた収穫後の野菜の老化進行に関連します。収穫直後に起こるエチレン生成がきっかけとなり、呼吸量が急激に上昇する果物(クライマクテリック型果実と呼ばれ、リンゴ、バナナ、モモなど)については、エチレン生成を抑えることが、品質保持にとても重要です。

CA貯蔵(controlled atmosphere storage)は、品質保持の期間を低温貯蔵よりもさらに延長したい場合に用いられます。これは低温で貯蔵するだけでなく、同時に貯蔵庫内のガス組成を変えることで、呼吸とエチレン生成を低下させる技術です。

リンゴは、出荷が少なかった4月〜8月にもCA貯蔵によって出荷できるようになったことで、1年を通して安定的に供給されています。

乾燥予借(かんそうよそ)

乾燥予借は、収穫した果実を貯蔵する前に青果物の表面を乾燥させる作業を指します。主にみかんなどのかんきつ類で見られます。

果実は水分が多いため、そのまま貯蔵すると、「浮き皮」が発生したり、腐敗したり、品質の低下を招きます。

浮き皮は貯蔵中の湿度が高いと発生します。果皮が吸水してふくれ、果肉から離れることで起こります。この際、果肉は養水分を吸収されてしまうので萎縮してしまいます。

乾燥予借を行うことで、水分を飛ばし、果皮を乾かすことで、浮き皮や腐敗果の発生を防ぎます。

ただし、果皮を乾燥させることで、果皮が褐色になってしまう品種や痛みが発生しやすい品種においては、この処理は行われません。

 

 

ポストハーベスト農薬について

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日本では、農薬のポストハーベスト処理は認められていません。

しかし、外国から輸入される果物では、収穫後の農作物が輸送や貯蔵中に害虫による食害や微生物の発生による汚染など、品質維持に関わる影響を受けないようにするために、収穫後の農薬に農薬が用いられることがあります。

くん蒸処理

輸入農作物中に潜む害虫が日本に侵入するのを防ぐために、輸入農作物に対して行われるポストハーベスト処理です。

害虫駆除、防カビ・殺菌を目的に行われるくん蒸では、用途に応じたさまざまな「くん蒸剤」が使用されます。農産物のくん蒸で用いられるものには、リン化アルミニウムやシアン化水素、臭化メチルなどがあります。

ポストハーベスト農薬の残留量やポストハーベスト農薬の使用に不安を訴える消費者の声もありますが、JCPA農薬工業会はウェブサイトにて、日本と世界における安全基準についてわかりやすく説明しています。気になる方はぜひご参照ください。

ポストハーベスト農薬の方が残留しやすいのですか。|そのまま食べても大丈夫?

 

 

ポストハーベスト技術に期待されること

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ポストハーベスト技術は、輸送・運搬段階での品質低下に伴う食品ロスの削減を可能にするものとして期待されています。

2023年9月に公開された農業協同組合新聞の記事によると、日本の農林中央公庫がアメリカのポストハーベスト企業に共同投資した、とあります。市場調査を行うグローバルインフォメーションの情報によると、外来の生鮮野菜や果物の需要が高まっているといいます。

今後の新しいポストハーベスト技術にも注目していきたいところです。

 

参考文献:荻原勲『図説 園芸学』(朝倉書店、2006年)

参照サイト

  1. 地産地消の重要性 | JA・農業の理解促進へ | JAあつぎ
  2. 残留農薬|厚生労働省
  3. 役割・仕組-設備・システムの実例|予冷・保冷・貯蔵工程|農業施設 – 果実・野菜・花分野|製品・サービス|農業|ヤンマー
  4. かんきつ類Q&A(品質編) – 愛媛県庁公式ホームページ
  5. 環境用語集:「ポストハーベスト」
  6. くん蒸|製品情報|ガス検知器 ガス警報器 理研計器株式会社
  7. ポストハーベスト処理市場 2027年に23億ドルに到達見込み
  8. 鮮度保持剤でフードロスに貢献 米国のポストハーベスト企業に共同投資 農林中金

(2024年3月20日閲覧)

 

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