今話題のバイオスティミュラントに立ちはだかる課題とは。

今話題のバイオスティミュラントに立ちはだかる課題とは。

2020年、注目されている農業資材といえば「バイオスティミュラント」が挙げられます。

植物の生育阻害や病気の原因には

  • 生物的ストレス(雑草、病害虫など)
  • 非生物的ストレス(高温・低温、乾燥など)

が挙げられます。「非生物的ストレス」は「環境ストレス」と呼ばれることもあります。近年、猛暑や集中豪雨、大型の台風や暖冬などの異常気象によって農作物が被害を受けることが珍しくありません。

バイオスティミュラントには非生物的ストレスを和らげる効果があり、植物そのものを丈夫にすると言われています。そのため「バイオスティミュラントが植物に『異常気象に対応する力』を与えられるのでは」と期待されています。

人が用いるものに例えると「漢方薬」や「サプリメント」のような役割をもったバイオスティミュラントですが、注目が集まるこの資材にはさまざまな課題があります。

 

 

バイオスティミュラントの課題

今話題のバイオスティミュラントに立ちはだかる課題とは。|画像1

 

整っていない規格化・標準化

一つ目に紹介する課題が「規格化・標準化が整っていない」ということ。

バイオスティミュラントが植物に与える影響は、農薬や肥料、土壌改良剤のものとは異なります。

<植物や土壌に変化をもたらす>

  • 農薬 病害虫や雑草から防除する
  • 肥料 植物に栄養を与える、土壌に化学的な変化をもたらす
  • 土壌改良剤 土壌に化学的・物理的な変化をもたらす

<植物そのものを強くする>

  • バイオスティミュラント 非生物的ストレスを緩和する

バイオスティミュラントが植物に効く「漢方薬」なら、農薬や肥料は植物の病気や健康状態を治す、土壌改良剤は土壌の状態を整える「医療薬」。農薬や肥料、土壌改良剤が植物や土壌に直接変化をもたらし、状態を良くするのに対し、バイオスティミュラントはあくまで非生物的ストレスを緩和するものです。

そのため、バイオスティミュラントが、農薬や肥料、土壌改良剤といった製品カテゴリーに当てはまらず、販売する際には農薬等に誤認されるような表現をしないよう、また農薬成分等が混入しないよう、内容物や表記に注意する必要が生じます

バイオスティミュラントによる科学的データを集め、有効性や安全性について説ける仕組みができれば、規格化・標準化が進み、農薬や肥料とは違う製品カテゴリーが生まれるのかもしれませんが、そこに至るまでの間に異なる課題があります。

作用機序の明確化にも課題が

作用機序とは「薬物が生体に何らかの効果を及ぼす仕組み」を表します。これを明確化し、評価軸が確立すれば、バイオスティミュラント製品の規格化・標準化が進むはずです。

しかしバイオスティミュラントの評価には、結果が出るまでに労力と時間がものすごくかかると言われています。まず単純に、バイオスティミュラントを植物に施してから収穫するまで時間がかかります。そしてその間、適切な栽培環境を維持しなければなりません。テスト期間が長くなれば、予期せぬ事態が発生したり、仮定していた以外の要因が関わってくることも十分考えられます。

実際、バイオスティミュラントを活用している現場からは「効いているどうかわからない」といった声も上がるようです。

バイオスティミュラントは植物に適したタイミングで適した量を与えないと効果が出ないこともあります。「効いているかどうかわからない」状態の要因には

  • 散布タイミングが合っていなかった
  • 農作物に求める改善点と製品がミスマッチだった
  • 実は非生物的ストレスがない、バイオスティミュラントが必要ない環境下だった

などが挙げられます。

作用機序が明確化されていれば、適切な資材を選べたり、散布のタイミングを掴めたりしたはずですが、明確化されていない現段階では「実際に使いながら最適条件を探す」しかありません

 

 

バイオスティミュラントの世界市場と今後期待されること

今話題のバイオスティミュラントに立ちはだかる課題とは。|画像2

 

規格化・標準化の課題を抱えているのは日本だけではありませんが、世界的にも注目が集まっています。

ヨーロッパでは食品廃棄物の有効活用や減農薬栽培の推進などの社会背景が、バイオスティミュラント市場の成長を後押ししています。2022年5月に施行される新肥法にバイオスティミュラントが記載され、施行後はEU加盟国の基準を満たすことを証明する「CEマーク」をバイオスティミュラント製品に付けられるようになります。

日本では2018年1月に「日本バイオスティミュラント協議会」が発足しており、規格化・標準化に向けて動いています。

バイオスティミュラントの効果はまだまだ不透明なのが現状です。効果を疑い、「バイオスティミュラント=怪しいもの」と認識する人も少なくありません。しかし環境負荷に配慮した「循環型農業」への関心の高まりを考えると、従来の農業への取り組み方が変化していくのと同じように、バイオスティミュラントへの考え方も変わっていくはずです。バイオスティミュラント製品の規格化・標準化が整うことに期待しましょう。

 

参考文献

  1. 東樹綾奈, 『AGRI JOURNAL VOL.13 2019 AUTUMN』14〜15、21ページ, 2019年10月8日, 株式会社アクセスインターナショナル
  2. バイオスティミュラントの定義と意義|日本バイオスティミュラント協議会
  3. 世界のBS|日本バイオスティミュラント協議会

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