ドイツ紀行5-ダニエル・バレンボイムとベルリンフィル

ドイツ紀行5-ダニエル・バレンボイムとベルリンフィル

ベルリン・フィルハーモニーコンサートホール

2024年10/2(木)、楽しみにしていたバレンボイム指揮のベルリンフィルのコンサートに行った。ベルリンフィルは1880年代にビルゼ管弦楽団を退団した総勢70名の楽員たちが組織した交響楽団で、常任指揮者のビューロ、ニキシュを経て、フルトベングラ―がドイツを代表する世界的な交響楽団に成長させた。
当日、ホテル近くのKurfürstendamm駅から地下鉄U9に乗り、Berlin Zoologischer GartenでU2に乗り換えPotsdamer Platz着いた。ポツダム広場からエーベルト通りを北に1km行くとブランデンブルグ門へ、さらに200m北には国会議事堂、東に2㎞ほど行くとミッテ地区がある。ベルリンフィルコンサートホールホールまではポツダム広場から歩いて7、8分だ。
コンサートホールに着くとドアが開いていたので、中に入るとホールの関係者と思われる人がいた。
「今日20時からバレンボイムがありますね」
と、声をかけると、
「そうだ」だと答え、
「バレンボイムは5月にやる予定だったが体調を壊し今日に延期された」
と教えてくれた。
隣のベルリン楽器博物館を見て、まだ、時間があったので、近くのカフェに入りビールを飲みながらバレンボイムについて考えていた。ビールは透明感があり、やや薄い感じのピルツナーだ。

バレンボイムは元々ピアニストでデビューしたが、確か、20代の半ばでイギリス室内管弦楽団との共演で指揮者デビューしたはずだ。ピアニストと指揮者を兼ねたのは、アシュケナージやラフマニノフもそうだった。バレンボイムは、現在、82歳で、2025年2月にパーキンソン病を公表していたことを思い出した。ピルツナーを飲みながらスマホで確認したところ、バレンボイムは今日のベルリンフィルのあと、パリに移動し10月16日にパリ管弦楽団を振るらしい。彼は1975年から1989年までパリ管の首席指揮者を務めていたから36年ぶりに振ることになる。
プログラムはベルリンではシューベルトの「未完成」とベートーベン「交響曲第7番」、パリ管ではベートーベンの「交響曲第6番」と「交響曲第7番」だ。私はこのパリ管の客員と曲目を見て、バレンボイムは自分の指揮者生活は残り少ないと思っているに違いないと感じた。おそらく、バレンボイム本人がベルリンフィルを振るのは今回が最後だと考えているのだと思った

バレンボイムと楽団員

コンサートホールに入り、ショップでベルリンフィルとオットー・クレンペラーのベートーベン第4番と第5番のCDを記念に買った。ホールの廊下で小学生ぐらいの男の子を連れた父親がいた。私は、勝手に、この父親は息子にバレンボイムを聞かせたい、あるいは、息子を音楽の道に進ませたい、はたまた、この男の子はクラシックが好きで、将来、音楽家になりたいと思っているのかもしれないなどと、勝手に、想像した。
さらに驚いたのは、コンサートにきている人たちの服装が普段着だったことだ。観客の中にはスーツとドレスのカップルもいたが、このカップルは、明らかに、デートだと分かったが、他の観客は写真をみても分かるように、普段着でコンサート会場に来て音楽を聴いている。その姿から、ベルリンでは日常生活の中に音楽があり、音楽を含めた文化が市民の中に根付いている、根付いていると言うよりも、そもそも、音楽が生活の中にあることに驚かされた。

私の席は3階の中央左側で楽団員の手元がよく見えた。バレンボイムが舞台の左側から姿を現すと、観客全員が総立ちになって迎えた。この観客の総立ちの姿は、「すべての観客がバレンボイムのベルリンフィルは今回が最後かもしれない」と思うほどすごかった。バレボイムはこの夜も椅子を使わず立ったままの姿勢で指揮をして健在ぶりを強烈にアピールしていたが、足取りが弱く最晩年だと感じられた。

バレンボイムの手先もよく見え、「たたき」と「しゃくい」が分かりやすかった。ベルリンフィルの団員も、バレンボイムの最後の指揮かもしれないと考えており、彼の指揮に誠心誠意答えようとサポートしていることが演奏を通して強く感じられた。私の座っている席からは楽団員の演奏する手元がよく見えた。バイオリンの弦と弓が必死に何かを訴えているように思えた。管楽器も木管楽器も、また、演奏する楽団員も、いまこの瞬間を大事そうに、時折、指揮者に目を向け、頷きながら演奏している。彼らは、単に演奏しているのではなく、彼等の人生の中で、今、バレンボイムと言う指揮者と一緒に、シューベルトやベートーベンの世界にいるように見えた。

 

【プロフィール】
稲田宗一郎(いなだ そういちろう)
千葉県生まれ。小説『夕焼け雲』が2015年内田康夫ミステリー大賞、および、小説『したたかな奴』が第15回湯河原文学賞に入選し、小説家としての活動を始める。2016年ルーラル小説『撤退田圃』、2017年ポリティカル小説『したたかな奴』を月刊誌へ連載。小説『錯覚の権力者たちー狙われた農協』、『浮島のオアシス』、『A Stairway to a Dream』、『やさしさの行方』、『防人の詩』他多数発表。2020年から「林に棲む」のエッセイを稲田宗一郎公式HP(http://www.inadasoichiro.com/)で開始する。

 

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