研究論文を読んでみた。植物ホルモン「オーキシン」に関する研究が面白い!

研究論文を読んでみた。植物ホルモン「オーキシン」に関する研究が面白い!

日本農業新聞2021年12月23日に、岡山理科大学と東京農工大学などの研究グループによって、植物ホルモンのオーキシンの量を植物が調節する仕組みを解明した、という記事が掲載されました。

 

 

オーキシンとは

研究論文を読んでみた。植物ホルモン「オーキシン」に関する研究が面白い!|画像1

 

植物ホルモンの一つです。植物ホルモンは植物の成長を調節する化学物質の総称で、オーキシンの他、ジベレリンやサイトカイニン、エチレンなどが挙げられます。

オーキシンは植物の成長を調節する中心的な役割を担う物質です。よく知られている生理作用には細胞伸長が挙げられます。

オーキシンの量を植物が調節する仕組みについて

岡山理科大学と東京農工大学などの研究グループによる研究内容についてご紹介していきます。

植物ホルモンはごく微量で作用するため、適切な量が必要な場所で必要なときに働くことが重要です。これまでの研究から、植物がオーキシンの量を適切に維持するために、余分量を不活性化していることは解明されていました。しかしどのようにして不活性化・分解しているのか、必要なオーキシンの量を調節しているのかは分かっていませんでした。

上記研究グループによる研究では、オーキシンがオーキシン-アミノ酸結合体というリサイクルできる状態に変換されて一時的に貯蔵され、分解されることがわかりました

なお、オーキシンは植物の成長を促す作用を持つ植物ホルモンの一群であり、この研究では、天然に存在するオーキシンの一種「インドール-3-酢酸(以下IAA)」のことを指します。

オーキシンがリサイクルできる状態で貯蔵され、分解される工程をより詳しく見ていきます。

まず植物のGH3という酵素がIAAをアミノ酸と結合させ、オーキシン-アミノ酸結合体という不活性(機能を出現させない状態)な結合体に変換します。そしてILR1という酵素がこの結合体の結合を切断し、IAAがリサイクル(再生)されます。

リサイクルされなかったオーキシン-アミノ酸結合体はDAOという酵素によって酸化され、oxIAA※-アミノ酸結合体となります。さらに先で登場したILR1が、oxIAA-アミノ酸結合体を加水分解し、oxIAAに変換します。

※oxIAAはIAAの酸化分解物である「2-オキソインドリン 3-酢酸」のこと。

上記は研究内容をかなり端折ってまとめたものです。研究論文は読むことができるので、実験の方法や実験の流れを詳細に知りたい方はぜひ一度読んでみてください。

オーキシン研究は他にも!葉のサイズ制御について

2021年8月には東京学芸大学、理化学研究所、東京大学大学院が、植物の葉のサイズ制御にオーキシンが関与していることを示しています。

私たちの体を構成する器官(動物では手・足・心臓など)の大きさが制御されているように、植物の葉も一定のサイズになるようプログラムされていますが、細胞増殖や細胞成長の結果として生じる葉のサイズが統制される仕組みは解明されていません。

そんな中、上記研究グループは「補償作用」現象に着目。

補償作用とは

様々な遺伝的異常により葉に含まれる細胞の数が減少した際に、個々の細胞が大型化する現象である。このことは葉の形態形成において、細胞増殖と細胞伸長との間に何らかの相互作用が存在することを示唆しているが、その実態は明らかになっていない。

引用元:補償作用抑制能を持つxs2の機能解析 ~ サリチル酸応答と補償作用の関係について

研究グループは「補償的細胞肥大{補償作用を起こす変異体で観察される過剰な細胞肥大のこと(引用元:植物の葉器官のサイズ制御の長年の謎を証明 – 東京大学 大学院理学系研究科・理学部)}」を起こすシロイヌナズナのfugu5変異体を用いて、補償的細胞肥大はオーキシンの細胞内濃度の変化によって制御されているのではないかという仮説を立て、補償的細胞肥大がどのように起こるのか実験を行いました。

その結果、fugu5変異体ではオーキシンの前駆体(一連の化学反応の中で着目したある物質の前段階の物質)であるインドール-3-酪酸(IBA)から合成されるインドール-3-酢酸(IAA)の濃度上昇とシグナル伝達※によって引き起こされることを明らかにしました。

※細胞内シグナル伝達 細胞内において、植物ホルモンなどの機能をもつ分子が対応する受容体に働きかける過程のこと。(引用元:植物の葉器官のサイズ制御の長年の謎を証明 – 東京大学 大学院理学系研究科・理学部

上記研究論文の概要は、葉は光合成を行う重要な部位であり、できるだけ広い面積が求められることと、細胞分裂に異常が起きても、補償作用のような仕組みによって細胞サイズの調整を介して葉の面積を保つことが必要なのだろう、と述べています。

オーキシン研究は他にも!モモの軟化抑制剤への利用可能性

情報は2014年とやや古いものにはなりますが、農研機構の「果樹研究所 2014年の成果情報」に、モモの軟化に及ぼすオーキシンの影響に関する成果報告があります。

一般的なモモは収穫後に急激に果肉が軟らかくなります。一方硬肉モモは収穫後もほとんど軟化しません。一般的なモモは成熟効果に「エチレン」生成量が急増し、軟化に関連する酵素遺伝子の発現が誘導され、軟化します。エチレンも植物ホルモンの一種で、代表的な働きには果実の成熟促進が挙げられます。硬肉モモは成熟中にエチレン生成量は増加しません。

このエチレン生成にオーキシンが影響を及ぼす可能性があるとし、解析が行われました。一般的なモモは成熟後期にオーキシンが急増しますが、硬肉モモは増加しません。そこで硬肉モモにオーキシン処理を行ったところ、エチレン生成が起こり、硬度が低下しました。一般的なモモにオーキシンの合成を阻害する処理を行うと、エチレン生成は抑制され、硬度が高く保たれます。

なお2021年の研究報告では、硬肉モモの原因因子がオーキシン生合成酵素の1つYUCCAであることがすでに明らかになっています。

 

 

今後の農業生産にどうつながるのか

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例えば、最後に紹介したモモへの影響であれば、オーキシン生合成阻害剤がモモの軟化抑制剤として利用できる可能性が示唆されています。

オーキシンの不活性化や分解をコントロールできるようになれば、農作物の増産、増収に向けた研究につながることが期待されています。

 

参考文献

  1. オーキシン - 光合成事典
  2. オーキシン調節の仕組み解明 岡山理科大など / 日本農業新聞
  3. 植物ホルモン「オーキシン」をリサイクル・分解する経路を解明
  4. The main oxidative inactivation pathway of the plant hormone auxin|Nature Communications
  5. 植物の葉器官のサイズ制御の長年の謎を証明 – 東京大学 大学院理学系研究科・理学部
  6. オーキシンはモモの成熟後期における軟化を誘導する|農研機構

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