プラスチックごみ削減で注目される生分解性マルチ、生分解性プラスチックについて。

プラスチックごみ削減で注目される生分解性マルチ、生分解性プラスチックについて。

近年、プラスチックごみによる海洋汚染が国際的な課題となっています。プラスチックごみの問題は、農業分野にも関わりがあります。農業生産においては、農業用ハウスや被覆資材など、さまざまな生産資材にプラスチックが使用されています。

農業分野でのプラスチック削減の取組には、使用済みの生産資材の適正な処理や合成樹脂等で肥料成分をコーティングした被覆肥料の海洋への流出防止などが挙げられますが、その中に“生分解性マルチの利用促進”があります。

本記事ではプラスチックごみ削減への取組に含まれる「生分解性マルチ」および生分解性プラスチックについてご紹介していきます。

 

 

生分解性プラスチックとは

プラスチックごみ削減で注目される生分解性マルチ、生分解性プラスチックについて。|画像1

 

生分解性プラスチックは、通常のプラスチックと同じように使うことができる資材であり、使用後は自然界にいる微生物の働きによって最終的には水と二酸化炭素に分解されるプラスチックを指します。

そもそもプラスチックとは

プラスチックは「合成樹脂」とも呼ばれ、人工的に合成された樹脂を意味します。

樹脂とは“樹皮に傷をつけたときなどに分泌される粘着性の液体が固化した物質。(出典元:精選版 日本国語大辞典)”で、代表的なものには松脂や柿渋、漆などが挙げられます。

樹脂のような性質を持つものを石油などを原料に化学的に合成したものが「合成樹脂」です。

プラスチックは合成樹脂の一部です。一般的に「プラスチック」と呼ばれるものは、
石油(厳密には精製所で蒸留された原油のうちの「ナフサ」と呼ばれる液体)に由来する高分子物質を主原料とした物質を指します(“​​高分子物質”という新たな単語が出てきましたが、これは天然樹脂と合成樹脂のことです)。

軽量で丈夫、加工しやすい特徴から幅広く利用されるプラスチックですが、自然界で分解されにくいという特徴もあります。長く自然界に残り続ける可能性があるということは、環境へ影響を及ぼす、ということです。

そこで登場したのが生分解性プラスチックです。

生分解性プラスチックの特徴

「生分解性」とは“物質が微生物などの生物の作用により分解する性質(出典元:森北出版「化学辞典(第2版)」)”のことです。

分解するプラスチックには、光や熱を受けて、添加剤の作用で崩壊する「酸化型分解性」のプラスチックも存在しますが、酸化型分解性プラスチックはプラスチック部分が残存するとされています。

一方、生分解性プラスチックは単にプラスチックがバラバラになるのではなく、先述した通り、微生物による分解が行われることによって、二酸化炭素と水に完全分解するのが特徴です。

生分解性プラスチックは原料や製造方法の観点から、

  • 微生物産生系
  • 天然物系
  • 化学合成系

の3つに区分されています。

参考文献の生分解性プラスチック – 環境技術解説|環境展望台:国立環境研究所 環境情報メディアに「生分解性プラスチックの種類」の詳細が記されているので、気になる方はぜひご覧ください。

いずれの種類であっても、後述する「生分解性プラマーク」※をつけられるのは、国際的に規定された試験や重金属等の含有物、分解過程での安全性など定められた基準をクリアした製品のみとなります。

※日本バイオプラスチック協会が生分解性と安全性に関する識別標準として設けている「グリーンプラ識別表示制度」のマーク。

 

 

生分解性マルチとは

プラスチックごみ削減で注目される生分解性マルチ、生分解性プラスチックについて。|画像3

 

生分解性マルチは、そんな生分解性プラスチックでできたマルチです。作物生育期に使用するマルチの用途としては、通常のプラスチック製マルチ(ポリエチレンマルチ)と変わりません。生分解性マルチが特徴的なのは、収穫後に土壌中にすき込むことができる点です。生分解性マルチは土壌中の微生物によって分解され、水と二酸化炭素に分解されます。

生分解性マルチを使用することで、冒頭で紹介したようなプラスチックごみによる海洋汚染の解決に貢献するといった環境面でのメリットがあります。

また使用済みプラスチックは産業廃棄物として処理を行う必要があるのでコストがかかりますが、生分解性マルチはそのまま土壌にすき込むことができるため、省力面、経済面でもメリットがあります。

省力面のメリットには、

  • マルチを踏みつけても問題がないため、マルチを気にせず圃場に車両を乗り入れることができる→収穫場所の近くで搬出作業ができる
  • 圃場に残った外葉などを片付ける必要も、収穫時に茎葉や根を取り除く必要がない(マルチと一緒にすき込めばOK)
  • 土寄せを行う作物の場合、マルチの上から土寄せできる

などが挙げられます。

 

 

生分解性マルチを使用する際の注意点と今後の課題

プラスチックごみ削減で注目される生分解性マルチ、生分解性プラスチックについて。|画像2

 

環境への配慮等で生分解性マルチを選ぶ際には、日本バイオプラスチック協会が認定する「グリーンプラ識別表示制度」により認定され、シンボルマークをつけることが許された製品を買うことをおすすめします。

マークについて
グリーンプラ識別表示制度の変更について – 日本バイオプラスチック協会

生分解性マルチは自然界で分解する分、長期保存はできません。一度開封したら使い切りましょう。製造後から時間が経過したものは劣化している可能性があるため、購入後は1年以内に使用することを心がけてください。

雑草が多い圃場の場合、草が繁茂しやすいため、光を透過する透明色や乳白色の生分解性マルチを使用すると、雑草がマルチを突き破ったり、マルチにひび割れや破れが生じることがあるので注意が必要です。

生分解の速度は温度や湿度、微生物の影響で変わります。農薬や除草剤などを使用すると分解が促進される場合があることにも注意してください。

平成31年2月に公開された農林水産省生産局「生分解性マルチの活用事例」によると、生分解性マルチの普及率は6%程度にとどまっています。まだまだ一般的なポリエチレンマルチに比べて価格が高価なことなどが考えられる原因として挙げられています。

とはいえ、世界的に脱プラスチックの取り組みは進んでいます。今後、生分解性マルチが馴染みのある農業資材となるのもそう遠くはないはずです。

 

参考文献

  1. プラスチック資源循環(農業生産):農林水産省
  2. プラスチックとは|日精樹脂工業株式会社
  3. プラスチックの基礎知識|プラスチック|プラスチック情報館|ナガセプラスチックス株式会社
  4. プラスチック問題とは 横浜市
  5. 第3回 プラスチックごみの何が問題なの?
  6. 生分解性プラスチック – 環境技術解説|環境展望台:国立環境研究所 環境情報メディア
  7. 生分解性プラスチック入門 – JBPA
  8. 生分解性プラスチック の現状と課題 – 環境省
  9. 生分解性マルチの活用事例 – 農林水産省

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