農産物加工品の製造は、栽培した野菜や果物に新たな価値を加えられる取り組みです。ジャム、漬物、乾燥野菜、惣菜、菓子、ジュースなど、地域の農産物を活かした商品づくりは、農業経営の幅を広げる手段にもなります。
一方で、農産加工はご家庭で料理を作ることとは大きく異なります。販売を前提に食品を作る以上、衛生管理や営業許可・届出、製造記録や食品表示など、守るべきルールがあります。
農産加工品は「商品」

ご家庭で食べるジャムや漬物と違い、「商品」として販売する場合には、購入した人がいつ、どのような環境で商品を開封するかまでを管理することはできません。そのため、農産加工品には、以下の点が必要になります。
一定期間の保存に耐えられる(品質)
安全性
表示の正確さ
たとえば、原材料の鮮度や加熱温度、容器の殺菌や保存方法などが不十分だった場合、見た目には問題がなくても食中毒や品質劣化のリスクが高まります。
農産加工品は「商品」です。かつ作って売るだけの商品ではありません。「安全に作り続ける仕組みを整えるところから始まる」商品です。
営業許可・営業届出の確認
まず確認したいのがこの諸手続きです。
農産加工品を製造・販売する場合、品目や製造方法によって、保健所の営業許可または営業届出が必要になることがあります。たとえば、菓子、惣菜、漬物、密封包装食品、飲料など、扱う食品によって必要な手続きや施設基準は異なります。
食品衛生法の改正により、営業許可制度の見直しと営業届出制度の創設が行われました。現在は、営業許可が必要な業種だけでなく、許可対象ではない食品関連事業者にも届出が求められる場合があります。
そのため、加工所を整備する前に、必ず地域の保健所へ相談することが重要です。先に設備を購入したり、改修工事を進めたりしてしまうと、後から施設基準に合わないことが分かり、追加工事が必要になるおそれがあります。加工したい品目、製造量、販売方法、保存方法、販売場所を整理したうえで、早めに相談するのが安全です。
衛生管理の基本
農産加工品製造に限らず、食品衛生の基本は、細菌などの危害要因を「つけない」「増やさない」「やっつける」ことです。
つけない
原材料や手指、器具、作業台、包装資材などから食品へ汚れや微生物を移さないことです。作業前の手洗い、作業着・帽子・マスクの着用、器具の洗浄・殺菌、原材料と製品の動線分離などが該当します。
増やさない
微生物が増えやすい温度帯や時間をできるだけ避けることです。原材料の持ち込みから洗浄、下処理、加熱、冷却、包装までに時間がかかりすぎると、品質低下や微生物増殖のリスクが高まります。
やっつける
加熱殺菌や冷却、酸度・糖度・塩分の管理などによって、食品中の危害要因を抑えることです。ただし、加熱すれば必ず安全というわけではありません※。品目ごとに必要な温度や時間を確認し、実際に記録として残すことが重要です。
※熱に強い毒素や芽胞(がほう)を持つ菌、および化学物質や異物は、加熱しても分解・死滅せず食中毒や健康被害を引き起こすことがある。
HACCPに沿った衛生管理を理解する
現在、食品等事業者には、原則としてHACCPに沿った衛生管理が求められています。HACCPとは、
Hazard Analysis and Critical Control Point
食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法です。
引用元:HACCP(ハサップ)|厚生労働省
食品の製造工程の中で危害が発生しやすいポイントをあらかじめ考え、重要な工程を管理・記録する衛生管理の考え方です。
難しく感じるかもしれませんが、小規模な農産加工においては、まず「自分の加工品では、どこで危険が起こりやすいか」を具体的に見ることが出発点となります。たとえば、ジャムを製造する場合、原材料の選別・洗浄、加熱、充填、瓶の殺菌、冷却、賞味期限の設定が重要になります。惣菜であれば、原材料の保管温度、加熱不足、出荷前の温度管理などが注意点になります。
また重要なのは、これらの衛生管理を現場で実行できるものにすることです。マニュアルが立派でも、作業者が毎日それを守れなければ意味がありません。作業手順などの記録する項目をできるだけ分かりやすくし、誰が作業しても同じ水準を保てる仕組みにしておく必要があります。
製造記録について
製造記録は安全と信頼を守るための資料といえます。製造記録とは、原材料の入荷日、数量、産地、製造日、製造量、加熱温度、加熱時間、冷却方法、使用した容器、賞味期限、出荷先などを記録したものです。
記録は、単なる作業メモのように思えるかもしれませんが、万が一商品に問題が起きた場合、どの原材料を使い、どの工程で作り、どこへ出荷したのかを確認するための重要な手がかりになります。原因を速やかに調べ、必要な範囲の商品を回収するためにも、記録は事業者と消費者の双方を守る役割を持ちます。
記録方法はアナログでもデジタルでも構いません。大切なのは、後から見返したときに、誰が見ても製造状況をたどれることです。
食品表示について
食品表示は、消費者に対して商品の基本情報を伝えるものです。加工食品では、名称、原材料名、添加物、内容量、期限表示、保存方法、製造者、原料原産地名、アレルゲン、栄養成分表示など、食品表示基準に沿った表示が必要になります。
とくに注意したいのが、原材料名と添加物の表示です。たとえば、加工品の味付けに市販の醤油やレモン果汁を使った場合、その調味料に含まれる添加物やアレルゲンを確認し、自分の商品の表示に反映させる必要があります。家庭で使い慣れている材料であっても、販売用の商品に使う場合は、表示内容まで確認しなければなりません。
また、一般用加工食品では、原則として栄養成分表示も必要です。熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量などを、決められた方法で表示します。数値は計算で求める方法と、専門機関に分析を依頼する方法があります。どちらを選ぶ場合でも、根拠資料を残しておくと安心です。
なお、食品表示のルールは変更されることがあります。消費者庁の資料や自治体の手引き、保健所の説明会などを活用し、表示内容を定期的に確認することが大切です。
また、食品に関する正しい知識と表示ルールを証明する資格として「食品表示検定」があります。初級は消費者から食品業界の初心者向け、中級は製造・流通・小売業の実務担当者向けに設定されています。受験もおすすめですが、まずは「食品表示検定認定テキスト・中級」に目を通すことをおすすめします。
まとめ

農産物加工品製造を始めるには、レシピや販売先を考えるだけでなく、営業許可・届出、衛生管理、HACCP、製造記録など、諸手続きや守るべきことについて理解しておく必要があります。
農産加工は、農産物に新たな価値を加える魅力的な取り組みです。だからこそ、家庭の延長ではなく、「商品」を製造する事業としての意識を持ち、基本を一つずつ整えていくことが大切です。
参照サイト
- HACCP(ハサップ)|厚生労働省
- 営業規制(営業許可、営業届出)に関する情報|厚生労働省
- 食品表示法等(法令及び一元化情報) | 消費者庁
- 栄養成分表示について | 消費者庁
- 新たな食品表示制度の完全施行について | 消費者庁
- 食品トレーサビリティシステム 導入の手引き
参考文献:尾崎正利「Q&Aでよくわかる 知識ゼロからの農産加工入門」(家の光協会、2019年)










