環境制御を導入する前に知っておきたい、作物の生長に適した環境要因の基礎知識

環境制御を導入する前に知っておきたい、作物の生長に適した環境要因の基礎知識

近年、ロボット、AI、IoTなどの技術を活用する「スマート農業」による農作業の省力化、軽労化が進められています。施設園芸では、効率的な栽培管理によって作業時間の短縮につながる「環境制御装置」の導入が注目されています。

しかし単に環境制御装置を導入すればいいわけではありません。効率的な栽培管理や高品質な作物の安定的な生産には、環境制御が効果を発揮する土台づくりが必要です。

そこで本記事では、環境制御を導入する前に知っておきたい、作物の生長に適した環境要因の基礎知識をまとめます。

 

 

作物の生長に適した環境要因への理解を深める

環境制御を導入する前に知っておきたい、作物の生長に適した環境要因の基礎知識|画像1

 

環境制御の目的は、植物の生長に適した環境を与えることです。そのため、主に植物の光合成に適した好ましい環境となることが求められます。

環境制御による効果を得るためには、作物の状態に適したしくみがつくられているかが重要です。

先に結論を申し上げると、環境要因は複雑に絡み合っているため、すべての環境要因を正確に把握し、管理するのは難しいです。ですが、知識として身につけておけば、環境制御装置を導入した後に作物の生長に不具合が生じたとしても、何が足りていて何が足りていないのかが導き出せるはずです。

文末には、環境制御をうまく活用する上でチェックしておきたいポイントもまとめています。

 

 

環境要因を学ぶ①地上部

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光合成に影響を与える因子として、光やCO2濃度、温度や湿度があげられます。

まず植物の生長に大きな影響を与えるのが「光」です。施設栽培であろうと露地栽培であろうと、作物の収量を増やすには積算受光量( 毎日の日受光量を積算したもの)を多くすることが大切です。ただ、光の量は天候に左右されるものです。その日の天気や季節によって日射量は異なります。

環境制御の観点においては、作物にいかにして多くの光を吸収させるかがポイントです。その方法には、遮光カーテンなどを利用して外部日射量を調整するなどのしくみづくりの他、作物の葉面積の管理も重要です。

作物の葉面積指数(LAI;床面積に対する 葉の面積比(㎡/㎡))が増大すると、その植物全体の受光量も増加します。しかしLAIの増大と受光量の増加は決して比例的ではありません。

兵庫県次世代施設園芸技術習得支援協議会が発行した「環境制御技術導入のための 指導者向けマニュアル」には、以下の記述があります。

LAIを1から2に増大させると、群落全体での受光量は20%増加する。しかし、LAIを3から4に増大した場合の 群落全体の受光量増加は6%にすぎず、頭打ちとなる。よって、入射光の90%を利用できるLAI3付近が、光合成 にとって好ましいとされる。

出典:「環境制御技術導入のための 指導者向けマニュアル」p.16

また、注意すべきはLAIの値だけではありません。日射の少ない時期にLAIを高めすぎると、上位の葉が生い茂ることで植物下部に光が届かなくなり、植物全体の光合成量が低下します。葉面積が多すぎても少なすぎても光合成量に影響が及ぶため、適正な管理が必要になるのです。

光の計測には、照度センサや日射センサ、光量子センサなどが用いられます。光量子センサを用いるのが一般的です。

CO2濃度

作物によって違いはありますが、Heuvelink他『Plant Physiology in Greenhouses』(Horti-Text BV、2015年)によると、光の条件に関係なく、CO2濃度が400ppmから1000ppmに増加すると、光合成速度は30〜50%増加するとあります。CO2濃度を把握することは生産性の向上に重要といえます。

CO2濃度を計測するセンサはその性質上、長時間使用し続けるにつれて測定値にずれが生じる傾向があり、定期的な校正が必要です。

測定値にずれが生じる理由には、センサごとの特性によって異なるものの、たとえば外気に赤外線の光を放出して、赤外線の減少量を検出することで数値化するものの場合、赤外線の光源である電球の光強度が時間が経つにつれて弱くなってしまいます。これはCO2濃度の誤認識につながります。単純に、センサー表面にチリやほこりがつくことも誤認識につながる要因です。CO2濃度を計測する精度を保つためには、定期的な校正が必要になるのです。

しかし、厳密に校正を行うには基準ガスや大気を用いる必要があり、維持管理等に手間がかかります。

とはいうものの、近年は自動校正機能を搭載した計測センサも販売されていますので、できる限り校正作業の労力が少ないものを選ぶのも手です。

また簡易的な方法には、外気のCO2濃度を400ppmと仮定して校正する方法があります。

温度

温度は、ある一定の範囲では光合成に直接影響しません。しかし、作物の種類によって異なるものの、作物にはそれぞれ「栽培適温」があり、その範囲から長い期間外れると生長に影響が及びます。また基本的には温度が上がると葉が開き、果実の成熟が進むものです。このように、温度は作物の生長に影響を与える重要な因子です。

温度センサは比較的安価なことと耐久性に優れていることから多くの生産現場で使用されています。高度な環境制御を行いたい場合には、施設内の複数の地点に設置することが求められます。

温度を計測する際には、計測する間隔をできるだけ短く設定するのがポイントです。測定する間隔を短くすることで、窓の開け閉めや、温度管理を行う暖房機などの装置の異常に気づきやすくなるからです。

湿度

湿度も、温度同様、光合成に直接影響しませんが、茎葉の生長に影響を与えるものです。たとえば、湿度が低すぎると蒸散が増えます。これは葉から水を蒸散させることで、茎から水を吸い上げているからです。しかしさらに低湿度な状態が進むと、植物は水分の損失を防ぐために気孔を閉じます。逆に結露が生じるほど湿度が高い環境では、病害の発生リスクが高まります。

湿度管理の重要性への理解が広がり始めた一方で、課題もあります。湿度センサは経年劣化しやすく、また計測部が水に濡れると使えなくなります。施設栽培は1日の温湿度差が大きいため結露しやすく、湿度センサを使用する際には不敷布や通風筒などで覆ったり、薬剤散布を行う際にはビニールをかぶせて保護するなど、センサが常に正常に稼働するような工夫が必要です。

 

 

環境要因を学ぶ②地下部

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地下部の環境要因には水分、EC(電気伝導度)、pHがあります。地下部は地上部に比べ、緻密に計測するのが難しい部分です。

水分

作物の生長に欠かせません。作物内の水が不足すると、葉の伸長が妨げられ、葉面積は小さくなります。葉面積が小さくなるということは、受光量の減少につながり、光合成が抑制されてしまいます。土壌中の水分を計測することは作物の生長において重要です。

水分を計測するセンサは比較的安価で使いやすいものですが、使用時に意識しなければならない点があります。それは、培地の状態や設置箇所、設置方法などが要因で計測値にばらつきが生じやすいことです。

また、計測値にばらつきが生じやすいということは、一括管理が難しいということです。たとえば「養液土耕栽培※」か「養液栽培※」かによって、かん水量の設定に違いが生じます。


養液土耕栽培:養液栽培の手法を取り入れた栽培方式だが、培地に土を利用
養液栽培:土を使わず、肥料を水に溶かした液(培養液)を利用する栽培方式

教科書や農業誌、情報サイトなどには特定の作物に適したかん水量が記されています。しかし、それは培地条件が一定であるなど理想的な条件で設定された基準値だったり、もっと簡単に言えば、自分のほ場とは異なる条件下で設定された値のはずです。

土を利用する場合、ほ場の排水性は大抵場所によって異なります。ということは、乾燥しやすい場所ではより多くの水が必要になります。そのため、事前に乾燥しやすい箇所を把握し、土壌の水分状態に合わせてかん水量を設定する必要があるのです。

ECとpH

ECと栄養素は対応関係にあります。一般的には、ECが高いほど土壌や養液中の肥料濃度は高いと診断されます。しかし、実際のところ、ECの最適化は困難です。

というのも、作物にとって最適なECは作物自体や気候条件によって大きく変わるからです。また高いECで管理し続けると濃度障害が生じるリスクが高まります。

よって、ECの値のみで施肥量をコントロールすることはあまりおすすめしません。地下部の状態を知る指標にはなりますが、ECの値ではなく、植物が健全な根を維持して肥料成分や水分を十分に吸収できる状態にあること、それを可能にする土壌状態にすることが重要といえます。

pHは作物の根周辺への肥料成分の効き方に影響します。作物に適したpHの範囲から大きく外れると、作物の根は大きなダメージを受け、肥料成分の吸収に問題が生じます。pHは肥料濃度の調整に役立つ指標です。

とはいえ、肥料管理においては、ECやpHの値で管理を行うよりも、天候や草勢に応じて調節したほうがよいといえます。

 

 

すべての環境要因を管理するのは難しいが……

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もちろん教科書や農業誌、情報サイトなどに掲載された事例を真似ることは大切です。ただし、真似するだけというのは避けます。参考にした事例と自分のほ場の相違点や実際の生育状況を確認して、自分のほ場に合ったしくみに調整することが大事です。

最後に、環境制御をうまく活用する上でチェックしておきたいポイントをまとめます。

得られたデータの確認を欠かさずに

得られた環境データが適正範囲に収まっているかどうかの確認を欠かさないことが大切です。ここで得られた数値が、施設内に生じた変化や異常を知らせてくれます。

データが適正範囲ではない場合、原因を突き止め、できる限りの対処を行います。

目的を定め、それに合わせて環境制御を導入する

植物の生長に関係する環境要因は複数あり、それぞれが複雑に絡み合って影響を及ぼします。生育と環境を紐付けるためには、たくさんのデータが必要になりますが、実際のほ場では実験室の環境とは異なり、日射量や温度、湿度の条件が一定になることはありません。どのような要因が作物の生長に影響を及ぼしたのかをピンポイントで突き止めるのは困難です。

そこで、まずはさまざまな環境要因について調査を行い、生長や収量に因果関係のあるものに項目を絞り、それに合わせて環境制御を導入することがおすすめです。

 

参考文献

(上記2024年1月9日閲覧)

(上記2024年1月20日閲覧)

参考文献:『現代農業 2022年11 月号』(農山漁村文化協会、2022年)

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