農業の収入が天候や市場価格に左右されがちな今、副収入を得られる手段として「6次産業化」が注目されています。6次産業化とは、「農業生産(1次産業)×加工(2次産業)×販売・サービス(3次産業)」を組み合わせ、自らの農産物に付加価値をつけて収益を上げる取り組みのこと。小規模農家でも始めやすく、地域資源を活かした商品開発や観光農業など、その可能性は広がっています。
この記事では、6次産業化でできることや始め方などをご紹介していきます。
6次産業化でできること

6次産業化は、必ずしも大がかりな工場や直売所が必要というわけではありません。家庭用の加工器具を活用した小規模なスタートでも十分に可能です※。以下に代表的な例を紹介します。
※後ほど詳しく記しますが、家庭用の加工器具で始めること自体は可能なものの、製造・販売を行う場合は食品衛生法に基づく営業許可や施設基準、保健所への届出が必要なケースが多くあります。まずは最寄りの保健所に相談し、設備基準や必要手続を確認してください。
加工品の製造・販売
収穫した野菜や果物を、たとえば規格外品などを活かして、ジャム、漬物、ドレッシング、スナック、乾燥野菜などを製造・販売。日持ちする加工品は販路も広がりやすく、ECサイトでも販売可能です。
農家カフェや体験型農業
畑に隣接したスペースを活用し、農家カフェや農業体験イベント、収穫体験、味噌づくり教室などを開催することで、観光客や地域住民を呼び込みます。農村地域の活性化にもつながります。
オンライン販売・直売所との連携
地域ブランドやこだわり加工品を、オンラインショップやマルシェ、道の駅、提携直売所などを通じて販売。SNSを活用した情報発信も有効です。
農産物の価値を高めることで、収益向上につなげます。この際、特別な設備を用意することではなく、「自分の農産物の強みをどう活かすか」が鍵となります。
始めるには何が必要?基本のステップ

では、具体的に6次産業化を始めるには、どのようなステップを踏めばよいのでしょうか。
1.
まず明確にしたいのは6次産業化を始める「目的」です。「何のために6次産業化を行うのか」を最初に考えることはとても大切です。副収入が目的なのか、地域貢献がしたいのか、後継者育成を見据えているのかなど、目的を明確化します。
それに加えて、自分の農業の強みを整理します。たとえば、味に定評のある野菜を栽培している、希少な品種を栽培しているなどです。
2.
次に市場調査を行います。自らの農産物に付加価値をつけて販売し、収益を得るためには「売れる商品づくり」が欠かせません。そして、そんな「売れる商品」をつくるには、ターゲットとなる消費者のニーズをつかむことが重要です。直売所や道の駅での売れ筋や商品の傾向、SNSの投稿などを参考にして、売れそうな加工品やサービスのイメージを固めます。
3.
売れる商品やサービスのイメージが固まったら、加工・販売の準備に入ります。冒頭で、必ずしも大がかりな工場や直売所が必要というわけではない、と記しましたが、必要に応じて加工場の確保や許可申請が必要です。
たとえば、ジャムや漬物を作る場合は、食品衛生法に基づく営業許可申請が必要になります。一般にジャムや漬物などの加工・販売は食品衛生法に基づく許可の対象です。自治体によっては許可要件や運用に差があり、近年は漬物業の許可化など制度変更もあるため、具体的な可否・手続きは保健所へ確認してください。
また小規模に行う場合、自宅の一部を加工室にするケースもありますが、小規模であっても手洗い設備や作業場の衛生区分が求められます。家庭の調理場を使う場合でも、保健所が定める衛生設備や動線が必要になるケースが多いです。
4.
販路の開拓も重要です。直売所や道の駅のほか、地域イベントやオンラインショップなど、さまざまな販路がありますから、自分の商材に合った販路を開拓していきます。
5.
はじめは試行錯誤の連続となり、苦労も多々あるかと思いますが、顧客の声や売れ行きをもとに商品やサービスの改善を続けることが収益を上げることにつながります。
本記事では基本のステップとして6次産業化の大まかな流れを記しましたが、可能であれば、一度地域の農業普及指導センターや商工会議所などに相談することをおすすめします。
補助金・支援制度の活用
6次産業化は初期費用がかかるため、補助金や支援制度を活用したいところです。各自治体の支援制度や農業者向け融資制度などがありますが、各自治体の支援制度については、自治体によって内容が異なりますから、地域の農政課に確認することをおすすめします。
6次産業化、失敗を防ぐポイント

まず好例としては、観光農園の6次産業化があげられます。たとえば、ももやりんごなどの果樹園を活用した「果物狩り体験」と、自園産果実を原料とした「ジュース」「ジェラート」の加工販売を組み合わせることで、農産物の収益を大きく伸ばすことにつながります。また自治体の支援制度の活用で、加工施設の整備や販促活動に必要な資金を確保できます。
一方、6次産業化がうまくいかない例も少なくありません。特に以下の4つの失敗パターンには注意が必要です。
- 消費者ニーズを無視した商品化
- 誤った価格設定
- 許認可の不備
- 人手不足・経営の複雑化
1.
まず、自分では「良い商品」に感じられても、消費者が魅力を感じなければ売上にはつながりません。どのような層にどう売るのかを考えたうえで商品開発を行う必要があります(たとえば、主婦層向けには時短調理ができる加工食品、観光客向けには持ち帰りやすいサイズ・パッケージ設計を施すなど)。
2.
価格設定にも注意が必要です。相場や競合商品とのバランスを考えなければ販売は難しくなります。原価や損益分岐点を正しく把握し、赤字を避けることが大切です。
3.
前述した“加工・販売の準備”でも触れましたが、食品を製造・販売するには、法律に基づいた届出や許可が必要になります。これらを怠ると、行政指導や回収対応など、事業の信頼を損なうリスクにつながります。最寄りの保健所や農政課に早めに相談してください。
4.
最後に、6次産業化は「作る・加工する・売る」という3つの役割をこなす必要がありますが、最初からすべてを一人で抱え込むのは無理があります。家族の協力を得たり、パートスタッフを雇ったり、同業者とグループで連携するなどの体制づくりを意識することで、手一杯になることを防ぎます。販路開拓や広報などに慣れていない場合には、商工会や6次産業化プランナーに相談するのも有効です。
小さく始めて、じっくり育てる
6次産業化は、農産物を「売る」だけでなく、「育てた価値を形にする」手段といえます。設備投資や許可手続きなどのハードルもありますが、段階的に小さく初めて、販路や商品を育てていくことで、安定した収入源になり得ます。
まずは、自分の農産物の強みに目を向けてみてください。
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