作物の生育には適切な水分管理が欠かせませんが、過剰に水を与えることは根腐れや病害を招く原因にもなります。近年では、ICTやセンサ技術を活用した「自動灌水」が注目されており、省力化と収量安定を両立させる手段として導入が進んでいます。
本記事では、「今さら聞けない灌水の基本」と題し、灌水の基礎知識や最新の自動灌水技術など、作物の生育に重要な水の管理についてご紹介していきます。
作物にとっての灌水の役割と重要性
水は作物に対して以下のような役割を果たします。
- 養分の溶解と吸収を助ける
- 光合成や蒸散を円滑に行う
- 細胞の膨圧を維持し、立ち枯れを防ぐ
- 地温や気温の極端な変化から植物体を保護する
一方で、水が多すぎると根の呼吸が妨げられ、酸欠や根腐れが発生しやすくなります。また、立枯病や青枯病などの土壌病害は、病原体の存在や温度条件など複合的要因で発症しますが、過湿はその発生を助長する主要因の一つです。そして、水不足も生育遅延や品質低下につながります。
つまり、作物の生育にとって、水を与える「適切なタイミングと量を見極める」ことがとても重要です。
最適水分量を知るために必要な知識
最適な水分量は、作物・土壌・気象条件によって異なります。特に以下の要素を組み合わせて判断することが求められます。
- 作物の種類と生育段階:
たとえばトマトであれば、定植後〜着果まではしっかり灌水を行い、それ以降は控えめにする。葉物野菜であれば、短期間で多くの水を必要とすることをふまえて灌水を行う。 - 土壌の保水力:
砂質土は水はけがよく、頻繁な灌水が必要。一方、粘土質土は保水性が高く、過湿になりやすいので注意。 - 天候や気温:
晴天続きや風の強い日には土壌水分の蒸発が進みやすくなる。反対に曇天や低温時は灌水の量を抑える必要がある。
灌水の失敗例
現場では、以下のような灌水失敗による被害も少なくありません。
失敗例 |
原因 | 結果 |
大雨後にも追い灌水 |
土壌がすでに飽和状態だった |
根腐れ・病気の発生 |
生育後期にも多量灌水 |
品質への意識が不足 |
糖度低下、腐敗リスク |
ドリップ灌水の目詰まり | フィルター清掃を怠った |
水が届かず萎れ発生 |
こうした事例からわかるのは、「適時・適量」がいかに重要かということです。農業者自身が細やかな判断で調整することも重要ですが、センサや記録アプリなどを活用し、客観的に管理することが求められます。
自動灌水が便利
そこで近年、ICTを活用した自動灌水システムが注目されています。センサやタイマー、アプリを組み合わせた灌水管理は、手間を省くだけでなく、「やりすぎ」「やり忘れ」も防げるため、省力化と高品質化を両立できます。
自動灌水を行うシステムの基本構成は以下の通り。
- 土壌水分センサ/温湿度センサ
- 制御ユニット(タイマー、リレーなど)
- 灌水装置(スプリンクラー/ドリップチューブなど)
- クラウド/スマホ連携(遠隔操作)
導入コストの目安は、簡易的なタイマー式であれば数千〜数万円、個別センサ式は数万円〜十数万円程度です。温室向けの包括的ICTシステムや大規模圃場への導入では数十万〜数百万円、場合によってはそれ以上となる場合もあります。規模や機能、設置環境によって大きく異なるため、複数見積もりの比較が推奨されます。
自治体によっては、スマート農業技術導入の補助金が利用できる場合もありますので、まずは市町村の農政課やJAに相談するのがおすすめです。
ICT灌水による省力化と収量安定の実例
農研機構の試験事例では、特定条件(施設環境、作型、使用機器構成)下のトマト栽培において、労働時間が約20%削減、収量が10%以上向上したと報告されています(ただし、効果の大きさは作物、栽培方法、圃場条件、システム設計により大きく変動します)。
さらに以下の効果も期待できます。
- 気象連動型灌水による“先回り管理”
- 夜間・早朝など時間帯に応じた灌水
- 作物ごとの水分特性に応じた個別制御
自動灌水システムの活用を
灌水の自動化は、作業負担の軽減だけでなく、環境への負荷軽減(節水)にも貢献します。
また、近年の気候変動により、極端な乾燥や集中豪雨が増える中、灌水のタイミングや量を誤るリスクが高まっていることから、これからの農業には土壌や気象の「見える化」、そして自動制御技術を取り入れたスマート灌水管理が不可欠といえます。灌水の基本をおさえ、栽培の効率をより高めたい場合には、ぜひ自動灌水システムの活用を検討してみてください。
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