メガファームの現場から学ぶ。稲作大規模経営の最新動向

メガファームの現場から学ぶ。稲作大規模経営の最新動向

日本の稲作は、長らく家族経営を中心とした小規模農家が支えてきました。しかし現在、高齢化と後継者不足を背景に、離農が進み、遊休農地が増加するなどして、その構造は大きく変化しつつあります。

農林水産省によると、担い手不足を背景に農地の大規模集約化が進展し、法人経営や集落営農組織が地域のコメづくりを担うようになっています。

この流れの中で注目されているのが「メガファーム」と呼ばれる大規模稲作経営です。

 

 

メガファームの実例紹介

メガファームの現場から学ぶ。稲作大規模経営の最新動向|画像1

 

「メガファーム」には全国で法的に統一された定義はありません。ですが、自治体や地域の政策目標などでは「100ha以上の経営面積を持つ組織」として用いられることが多いです。

100ha以上を一括で管理するといった特徴以外にも、最新の機械やICTを活用して高い収益性を実現するメガファームもあります。

たとえば福井県では、県を挙げて農地の大規模集約化が進められてきました。集落単位で営農組織をつくり、農地をまとめて管理することで、省力化と効率化を実現。県が行った区画整理や用排水路の整備も後押しとなり、担い手不足のなかでも持続的な経営が可能となりました。トラクターや田植機など大型機械の導入が可能となり、作業効率が飛躍的に高まった点が成功の大きな要因です。

北海道では、稲作の大規模化に適した広大な農地を活かし、「直播(じかまき)」と呼ばれる省力技術が普及しています。これは苗を育ててから移植するのではなく、種を直接田んぼにまく方式で、従来の移植栽培に比べて労力を大幅に削減できます。北海道のメガファームでは、ドローンやGPS搭載機械を組み合わせた直播を導入し、少人数でも数十〜数百ha規模の稲作を可能にしています※。

※直播+ドローンやGPSの組合せで省力化が確認されていますが、成功にはほ場の均平化・用排水整備・地域での技術共有(広域組織)など前提条件が重要です。もちろん、条件が整えば数十〜数百haの規模で労力削減を実現する実証例があります。導入する際は段階的な実証と基盤整備が鍵となります。

大規模化がもたらすメリット

大規模稲作経営の最大の利点は、省力化とコスト削減です。農機の大型化や自動化によって、一人あたりが管理できる面積が飛躍的に拡大し、労働集約的な作業を大幅に減らすことができます。また、資材の一括購入や作業の効率化が可能となり、1俵あたりのコストを削減できます。

さらに、法人化による安定的な雇用の創出や、若手人材の確保も進みやすくなります。

こうした効果は単に個別経営にとどまらず、地域全体の農業維持にもつながります。遊休農地の解消や耕作放棄地の再生といった課題解決にも寄与する点は大きなメリットです。

大規模化に伴う課題

一方で、大規模稲作にはリスクや課題も存在します。

まず初期投資の大きさです。大型機械やICT機器の導入、施設整備には多額の資金が必要となります。資金繰りや補助金活用の戦略が不可欠です。

また、規模拡大に伴って担い手の確保も大きな課題となります。法人化による雇用拡大が進んでいるとはいえ、農業を「働きたい職業」として持続させるためには、働きやすい労働環境やキャリアパスの提示が不可欠といえます。

環境面でも課題が。猛暑による水不足や高温障害が顕在化するなか、広大な水田を安定的に管理するには水資源の確保が欠かせません。メガファームによる膨大な水の消費によって、水源の枯渇や水利用の競合を引き起こす可能性が考えられます。今後、地域水利組合や行政との連携が強く求められる場面が増えるかもしれません。

 

 

海外のメガファーム事例に学ぶ

メガファームの現場から学ぶ。稲作大規模経営の最新動向|画像2

 

日本における大規模稲作の参考になるのが、海外のメガファーム事例です。

アメリカ・カリフォルニア州では、州全体で大規模な稲作(2019年で約498,000エーカー=約201,600ヘクタール)が行われています。(個々の農場の多くは数十〜数百ヘクタールが一般的です)。また州の産業全体としては高度な機械化や土壌・灌漑のモニタリング技術(リアルタイム水管理やIoT等)の導入が進み、干ばつリスクへの対応に活用されています。

オーストラリア(特にニューサウスウェールズ)では、水利用効率(water productivity)が世界的に高く評価されています。耐乾性品種や効率的な水管理によって高い水生産性を実現しています。

海外と日本の事例では、気候条件や稲作に利用できる土地の規模が異なりますが、「スケールメリットの追求」「技術革新による持続性確保」という点で参考になります。特に、環境制約を抱えつつも大規模経営を成立させる工夫は、日本の猛暑・水不足対策にも応用できる可能性があります。

 

 

まとめ

メガファームの現場から学ぶ。稲作大規模経営の最新動向|画像3

 

メガファームの事例から学べるのは、大規模経営が一部の農家だけでなく地域全体の課題解決につながるという点です。遊休農地の解消、雇用創出、地域インフラの維持といった波及効果は大きく、新規農業者や中規模農家にとっても示唆があります。

必ずしも「一気に大規模化」を目指す必要はなく、自らの経営に合った規模拡大や地域連携の形を模索することが重要です。たとえば集落営農組織への参加、法人化の検討、スマート農業技術の部分的導入など、段階的なアプローチが可能です。

特に、スマート農業技術の導入は、大規模稲作を持続可能に発展させるうえで重要です。日本の実例でも紹介した通り、自動運転トラクターやドローンを活用した直播・防除作業は、すでに一部のメガファームで実用化されています。

「規模拡大」と「技術革新」を両輪として進めていくことで、今後の日本の稲作経営が持続的で競争力あるものにつながるのではないでしょうか。

参照元

コラムカテゴリの最新記事