日本の野菜生産を支える「タネ」の安定供給が、今、大きな転機を迎えています。国内では「野菜は自給できている」という印象がありますが、実はその根幹となる種子の約9割を輸入に頼っているという実情があります。日本で流通する野菜種子の約9割は海外で生産されており、種苗会社が海外採種地から輸入している形式が主流です。
本記事では、もしこの輸入が止まった場合のリスクや農家・生産現場が取れる備えについて整理していきます。
タネ不足が現場にもたらした混乱


まず、現場ではすでに「タネが届かない」「価格が上がった」といった混乱が起きています。たとえば、長野県南佐久郡の葉物野菜生産農場で、春前に例年実施しているレタスの種まきが、今年は2月になってもタネが届かず、種苗会社から「4月になる見込みです」と告げられたという事例があります(参照元:野菜のタネ、危うい安定調達 自給率1割のみ 迫る気候変動、円安でコスト増 – 日本経済新聞) 。
レタスは暑さに弱く、夏を迎える前に収穫を終える必要があります。種まきの遅れは出荷時期のズレのみならず、生育不良・収量減少・品質低下へとつながります。さらに、円安により種子価格が上昇しており、広島市の農園では葉物野菜の生産を減らし、ミニトマトへ切り替えるといった対応を強いられています。
このように、「タネ」の段階で遅れが生じると、実際の野菜供給に影響が生じてしまうのです。
国内外タネ事情


日本でタネ生産が難しい背景
農林水産省の報告によれば「野菜種子については、国内流通の約9割が国外で生産されている」と明示されています。 なぜ日本では、野菜種子の国内生産が進みにくいのでしょうか。背景にはいくつかのハードルがありますが、その理由として、以下のような条件が挙げられています。
- 日照時間・乾燥条件:秋冬に日照が少なく、かつ多湿な環境が種子の乾燥・採種・保管段階で不利。
- 他品種との交雑リスク:野外での種子採取には、他系統品種や野生種との交雑を防ぐため広い農地・隔離条件が必要ですが、日本ではそのような適地が限られている。
- 土地・人件費の高さ:人件費・土地利用コストが海外に比べて高く、採種に適した農地確保・人材確保が難しい。
- 技術・ノウハウの継承:野菜種子の採種には、病害虫対策・発芽率管理・手作業での花粉交配管理など専門性が高く、一般の野菜生産とは別の技術体系が必要。
なぜ海外での生産が合理的とされてきたのか
次に、なぜ「海外生産・輸入」という仕組みが合理的とされてきたのかを整理します。
具体的には以下のような利点が挙げられます。
- 複数地域に採種地を分散することで、気候変動・地域災害・病害虫発生などによる供給リスクを分散できる。
- 海外では日照・乾燥・低交雑リスクといった“採種に適した環境”を確保できる場所が存在し、量・品質ともに優位となる。
- 人件費・土地コスト・農地規模・農業投入コストが比較的低い地域を選定できるため、コスト低減につながる。
- 輸入という形をとることで、多様な品種を含めて“世界からの供給”という体制を作れ、選択肢・流通網を持てる。
実際、国内の種苗会社でも海外の採種農家に生産を委託し、その種子を国内へ輸入する流れが一般的です。
円安・輸送費高騰で「タネ」がピンチ!?
ただし、近年、この状況に亀裂が生じています。まず、円安による円建て調達コストの上昇があります。10月27日付の日本経済新聞の記事でも、「円安や輸送費高で価格が上がっている」「生産地の天候不順で品質も安定しない」との指摘があります。
具体的には以下の変化が見られます。
- 物流・輸送の手間・時間・リスクが増大しており、輸入のメリットが以前ほど明確ではなくなってきた。
- 気候変動による異常気象・病虫害の広域化・生産地の天候不順が、海外採種地でもリスク要因になっている。複数の地域に分散していたモデルでも対応が難しくなっている。
- 為替変動・原料・燃料・資材価格高騰・人件費上昇・環境規制強化などが、海外生産側のコスト上昇を招いており、価格転嫁や品種確保の難易度が高まっている。
農家・生産現場が取れる備え


1.品目・品種の選択
葉物野菜や生育期間が短く、気候・種まき時期がシビアな品目は、種まき遅延によるリスクが高く出やすいです。そこで、種子の安定供給実績がある品種・あるいは国内生産の種子を選ぶことは備えとして有効といえます。
また、品種を切り替える余力を持っておく。たとえば、種子が確保困難になった場合に代替可能な品目や品種をあらかじめ検討しておくことで、無理にリスクの高い種を使い続けるよりも対応力が高まります。高単価・収益構造が安定している野菜へシフトすることも一案です。
2.発注・仕入の分散と情報把握
種子を発注する時期を早め、複数の仕入先(国内・海外、複数国)からの調達ルートを持つことが大切です。予備の発注・バックアップ発注をあらかじめ設定しておき、主要物流が止まった場合でも一定量が確保できるようリスクを分散します。
種苗会社・種子メーカーとの関係を強化し、供給遅延や価格上昇の兆しを早期にキャッチする体制を作ること、情報の共有や連携が重要になってきます。
3.国内調達の可能性を模索する
国内で種子生産をしている会社・地域との取引を構築することで、海外物流リスクを低減できます。また、地域的な種子交換・共有の動きやアグリネットワークを活用し、タネの循環やローカルな安定供給体制を探るのも一策です。
おわりに


タネの供給が止まると、作物が植えられない、収量が落ちる、出荷時期がズレる、野菜の価格が上がる……といった連鎖が農業の現場から消費者の食卓まで届くことになります。
農家の方にとっては、品目の選び方・種子発注の分散・国内種子への切り替え検討などが、将来の不確実性に備える有効な手段です。
タネの安定供給は「食料安全保障」の視点でも軽視できないテーマです。今後も、タネの国内生産拡大・技術継承・採種農地の確保といった課題が焦点になっていくのではないでしょうか。
参照元ウェブサイト






























