農業に天然資源を活用。積雪の農業利用事例。

農業に天然資源を活用。積雪の農業利用事例。

積雪は作物や農業施設に被害をもたらすことがありますが、うまく活用することでメリットを得ることもできます。

 

 

積雪の農業利用事例

|農業に天然資源を活用。積雪の農業利用事例。|画像1

 

越冬野菜

収穫した野菜を雪の中に埋め、越冬させる、または秋に育った野菜をあえて収穫せず、雪の下で越冬させて収穫させることで、特徴的な味わいを生み出します。例えば北海道の函館では、秋に収穫した大根を雪の下で保存します。すると、普通の大根の糖度が5程度なのに対し、糖度7以上の甘い大根になります。長野県の飯山地方で栽培されているニンジンは、秋に収穫せず、雪の下で越冬させることで、ミネラル分の多い甘いニンジンになるのだとか。

野菜は光合成を行うことで糖分やビタミンなどを生成します。光合成で作られた糖分は、通常植物の生長やデンプン合成に用いられますが、越冬できる植物は冬の気温低下に耐えるため、細胞内にそれらを蓄積し始めます。このことが細胞の中を凍りにくくします。細胞の中が凍りにくくなれば、細胞内にあるタンパク質や核酸が気温低下によって変性してしまうことから守ることができます。すなわち、冬の寒い時期に起こる糖分等の蓄積は、冬に生き残るためには必要不可欠な働きなのです。

越冬野菜が甘く美味しく感じられるのは、野菜が糖分やビタミン類などの栄養を蓄えているから。ただし、全ての野菜が雪の下で越冬できるわけではないので、冬の環境を活かせる野菜だけに可能な方法ではありますが。

貯蔵に活用する

古くから利用されてきた施設として有名なのは「氷室(ひむろ、ひょうしつ)」です。冷蔵や冷房が普及し、その数は激減しましたが、氷雪をうまく活用した事例といえます。なお農業土木学会誌に掲載された室蘭工業大学の媚山政良特任教授の「地域資源としての雪の農業利用」(2002年4月)によると、天然雪の冷熱を利用した大型倉庫「氷室型農産物長期保冷庫」にて保冷したナガイモは、その減耗率(乾燥による重さの減少割合)が、

一般冷凍機で保冷した場合 → 50日間で約5%の減耗
氷室型保冷庫で保冷した場合 → 300日経過後も減耗は約4.5%

という結果となり、氷室型保冷機が貯蔵性に優れていることが示されています。

雪を用いた農産物貯蔵施設の特長には、天然資源を活用することで、

電気による冷凍機よりも経済的に有利であること
省エネルギー、省資源につながること
冷熱を利用するための送風機以外の動力をほとんど使わないことで、自然災害などの危機に耐えやすくなること

などが挙げられます。

 

 

雪室の研究進む!?

|農業に天然資源を活用。積雪の農業利用事例。|画像2

 

豪雪地帯では、積雪により交通網が断絶されたり、除雪作業に追われたりと、人々の生活に支障が出ることが多々あります。ですが越冬野菜や雪を貯蔵に活用する方法は、そんな地域だからこその知恵であり、特色でもあるといえます。

2020年6月22日の日本経済新聞には、雪エネルギーの普及を推進する新潟県上越市の「雪だるま財団」と東京農業大学が協定を結び、「雪室」を科学的に検証する研究が行われるとありました。研究内容には雪室の貯蔵能力や食味変化の検証だけでなく、雪室ならではの新たな食品開発にも取り組むとありました。

「地域資源としての雪の農業利用」には、雪を用いた農産物貯蔵施設の特長に「地域独自性」も含まれていました。この研究が進めば、豪雪地帯ならではの特産品として、地域独自性を獲得できるかもしれません。

 

参考文献

  1. 雪が野菜をおいしくするってホント>|農畜産物|長野県のおいしい食べ方
  2. 雪を待っていました!!雪の下に埋める「越冬野菜」が甘くおいしくなる季節|tenki.jp
  3. 冬野菜の糖度の件|みんなのひろば|日本植物生理学会
  4. 地域資源としての雪の農業利用
  5. 「雪室」を科学的に検証 雪だるま財団と東農大が協定:日本経済新聞
  6. 雪だるま財団とは|公益財団法人 雪だるま財団

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