種苗法で自家採種はどう変わる?

種苗法で自家採種はどう変わる?

農林水産省は、農業者が続けてきた「自家増殖」、育てた作物に実ったタネを採り、植える、を原則禁止することを打ち出しました。それに対して農業者からは反対の声が少なくありません。

自家採種できない品目が増えつつある「種苗法」について、そしてタネを取り巻く現状と今後について紹介していきます。

 

 

種苗法について

種苗法で自家採種はどう変わる?|画像1

 

種苗法とは、

農産物や園芸植物の新品種開発者を保護するため,1978年農林水産省により制定された法律。

出典元:種苗法 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

とあります。

種苗法には「品種登録制度」が設けられているため、植物における特許制度※とも言えます。種苗法では、新しい品種がつくられ登録されると、その育成者に「育成者権」が与えられます。「育成者権」は、育成者がその新品種のタネを増やしたり売ったりできる権利のことです。この権利のおかげで、第三者が勝手に増やしたり売ったりすることを禁止できます。

ただし、「改正前」の種苗法では、農家は例外として、タネを増やすことが許されていました。もちろん、登録品種の中には「農家も自家増殖してはならない品種」もあります。しかしそれらを除けば、自分の畑にまくためであれば、タネをとったり挿し木をしたりして、増やすことが許されていました。

2017年3月、農林水産省はこの「種苗法」の施行規則を一部改定しました。「農家が自家増殖できない品目」に、トマトやナスなどの登録品種も加わりました。これにより、登録品種であるトマトは「わき芽挿し」が認められなくなることも。

※産業上明らかに新規性があり、有用と考えられる発明を保護するための制度。日本では、発明者は特許庁へ出願を行い、その後の審査で特許権を取得した場合、最長20年間に渡りその発明を独占的に実施する事ができる(出典元:産学連携キーワード辞典)。

種苗法と種子法の違いとは

「種苗法」と「種子法」は名前がよく似ていますが、別物です。種子法は正式名称を「主要農作物種子法」と呼び、2018年4月をもって廃止となった法律です。主要農作物はコメ、麦、大豆を指し、主にコメを対象とした法律です。

「種子法」は第二次世界大戦後の食糧増産をはかるために定められました。日本の農産物であるコメを守るために、国がコメのタネを管理。また国は各都道府県にコメ、麦、大豆の種子の生産・普及を義務づけました。戦後の目的が達成されたとして廃止された法律により、今までコメの「タネ」をつくることが許されていなかった民間企業が参入できるようになりました。

廃止された「種子法」に対しては、以下のような懸念の声があがっています。

  • 都道府県の財政状況によって、種子の生産量が減るのではないか
  • 種子の安定的な供給ができなくなるのではないか
    →タネを育てる予算を確保する法的根拠がなくなったため
  • 特定の民間企業の寡占化が進むのではないか
  • 種子や種子を育てるための資材価格が高騰するのではないか
  • 海外企業が参入することで、遺伝子組換え作物が食卓に並ぶのではないか

自家採取の今後

「種苗法」の施行規則の一部改定により、「農家が自家増殖できない品目」(以下「禁止品目」)が増えています。2016年の時点では「禁止品目」は82種だったのですが、2019年には356種にも及びます。

種苗法の改正により、原則としてすべての登録品種で、育成者の許可を得ることなくタネを採ったり、わき芽挿しをすることが禁じられています。

なお356種の「禁止品目」は農林水産省の「種苗をめぐる最近の情勢と課題について」p.32に記載されています。

農林水産省が農家の自家増殖を制限する理由には、

  • 育成者の正当な利益を確保するため
  • 品種の保護を強化するため

などが挙げられます。

この背景には、中国に苗木が流出した「シャインマスカット」や、韓国に流出し育成者権が保護されなかったイチゴ「章姫」「レッドパール」などの出来事が影響しています。

海外に日本の品種が流出してしまうと、可能性のある海外マーケットを失う可能性が高まります。しかしUPOV条約(植物の新品種の保護に関する国際条約)における国際ルールでは、

  • 相手国で品種登録可能な品種は持ち出し自由
  • 自国内で譲渡開始後4年(木本は6年)以内しか外国で登録できない

と制定されているため、海外に流出してしまった品種は「自国での品種登録後、速やかに海外で登録」しなければ、保護することはできません。

すなわち「育成者権」の保護は、海外流出を防ぐためには必須なのです。

とはいえ、「禁止品目」が増えることに異を唱える声も。例えば、ニンジンやホウレンソウ、アサツキや2019年に追加される予定のモロヘイヤなど、現時点で登録品種が0の品種も「禁止品目」に加えられています。第三者が勝手に増やしたり売ったりすることを禁止できる「育成者権」がそもそもない品種まで禁止されることに疑問を抱く人も少なくありません。

 

 

種苗法に関する意見

種苗法で自家採種はどう変わる?|画像2

 

小規模農家に影響が

小規模農家の中には、自家増殖をすることで農作物を増やしているところも。例えばトマト農家であれば、タネではなく挿し木でトマトを増やすところも少なくありません。しかし「禁止品目」が増え、全面的に自家増殖が禁止されれば、タネを種苗会社から買うことになり、経済的負担が生じてしまいます。個人で品種登録する手もありますが、お金も時間もかかるため、現実的とは言えません。

今まで栽培できていた農作物が栽培できなくなる?!

現時点では356種の「禁止品目」のみですが、今後も「禁止品目」が増えていくことが予想されています。もしすべての作物に適用されてしまうと、今までできていた栽培方法ができなくなる可能性も。例えば「イモ」や「イチゴ」は、タネイモやツルから自家増殖するのが当たり前のような農作物。これらももし「禁止品目」に含まれることになれば、生産方法を大きく変えなければならなくなります。

タネを守ろうとする農家が減るのではないか

「自家増殖の習慣があったからこそ、在来種や今まで生産を続けてきた品種のタネを守ることができた」と考えから、種苗会社からタネを買うようになることで、在来種をタネから作りあげようとする農家がいなくなるのでは、という懸念の声も。

タネの供給が追いつかなくなった場合の懸念

「種苗法」により、今まで自家増殖をしていた農家もタネを買う必要が生じます。しかしそれによりタネの供給が追いつかなくなった場合、コストや規模の面から海外メーカーにタネ増殖を委託する可能性もあるのではないかと不安視されています。もし日本の農作物のタネが海外で生産されれば、本末転倒な気も。

中小の種苗会社に影響が

「種子法廃止」に反対する人の意見にもあがっていますが「特定の民間企業の寡占化が進むのではないか」という懸念の声も。品種登録をするのに資金的に余裕がない中小の種苗会社が淘汰される可能性も。

育種の面でも影響が

農林水産省が自家増殖を制限する理由は「育成者権を保護するため」。とはいえ、そのことが品種育成の場を狭めることになるのでは、と不安視する声もあります。農家が新品種を作り出すこともあった自家増殖。しかしその機会が取り除かれることで、育成権者しか交配できなくなり、品種育成の場は限定されることに。

世界では「自家増殖禁止」を撤廃しようとする働きも

自家増殖を禁止している国々の中には、「自家増殖禁止」がもたらした問題に頭を抱えているところも。

有名なのは世界の種子市場の約7割を担うモンサントと農業者の対立です。西アフリカのブルキナファソでは、自家増殖が禁止され、モンサントが開発した遺伝子組み換え綿花を栽培するようになりましたが、綿花の品質が下がったことで、綿花業者がモンサントを訴えています。

こうした現場から、日本の「自家増殖禁止」の動きは世界の動きに逆行しているとの声もあがっています。

注:すべての自家増殖が禁止なわけではない

ここまで種苗法に対する意見を紹介してきましたが、自家増殖が禁止されているのはあくまで「育成者権」が認められている「登録品種」のみです。育成者権が認められていない品種や在来種、固定種は引き続き自家採種することができます。

とはいえ、今後、在来種や固定種などの自家採種が禁じられるかどうかは、地域や農家の判断も大きく影響します。そのため、「種苗法」の目的、メリット・デメリットをふまえた上で、自らも進んで「タネ」の今後について考えていきましょう。

 

参考文献

  1. 種子法廃止は誰のためか──日本の農作物への影響と今後の課題 SMART AGRI
  2. 「種苗法「農家の自家増殖原則禁止」に異議あり!」、『現代農業』、農文協、2019.02、p.296〜p.307
  3. 月刊 現代農業 続々「農家の自家増殖、原則禁止」に異議あり!
  4. 種苗をめぐる最近の情勢と課題について 農林水産省
  5. 種苗法による自家増殖原則禁止の理解と誤解 農ledge
  6. 「種苗法」例外措置撤廃でタネ採りや挿し木が禁止に? 農水省がたくらむ「タネの増殖禁止」の裏側

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