館山市の石井昭一さんを訪ねて

館山市の石井昭一さんを訪ねて

元禄以前から続く石井家

10月10日東京駅八重洲南口から13:20発の安房白浜行の高速バスで館山に向かった。昔は館山に行くのにはJR内房線が主流だったが、アクアラインが完成したので、今は、南房総へは高速バスが便利になった。
今回の訪問先の石井さんが迎えに来てくれることになっていたので、南総文化ホールでバスを降り、石井さんの車でいちごのハウスを案内してもらい、ハウス内で石井さんの経営の概要を説明してもらった。イチゴ狩りの観光農業がメインらしい。ハウス内の状況を写真に取り自宅敷地内の作業場で話を聞いた。通された作業ハウスは、新しく、冷凍庫や冷蔵庫、乾燥機器など様々な機器があるのに驚いた。
石井さんは22、3歳の時に就農し、現在、50歳とのことだった。石井さんが小学校の低学年の頃に父親が鉄骨ハウスを建てイチゴ狩りの観光農業を始めた。石井家は、墓碑銘で確かめたところ、元禄以前から続く農家とのことだった。祖父の代からイチゴ作りを始め、父の代に路地栽培からハウス栽培に移行し、今はイチゴ狩りの観光農業と水稲経営がメインだ。石井さんは、現在、高設養液土耕栽培でイチゴを栽培しているが、農業の6次化にも挑戦しイチゴを中心にしたフリーズドライにも取り組んでいる。今後は、アスパラガス・トマトなどを、もう一つの経営の柱にしたいと考えている。
 

イチゴ観光農業と6次化への挑戦

経営は40aのハウスと7ha(6haの借地+1haの自作)の水稲(飼料用米やWCSなど)がメインである。労働力は、本人、両親、パート4人(全員他の仕事をもっている)であり、パートについては、将来、経営を多角化し通年雇用を目指している。そのために、数年前から6次化補助金を活用したフリーズドライイチゴ、イチゴのヘタを使った茶、および、加工品にチャレンジしていたが、ようやく商品化に目途がたち、いざ、販売の時にコロナが発生し、現在はその処理に苦戦しているとのことである。
年間の栽培スケジュールは11月から6月はイチゴ生産&観光農業であり、夏場は6月から10月にかけて、トマトとアスパラガスを栽培している。アスパラガスは2月より収穫している。
 

IPM農法とバイオシードテクノロジー

この地域の土壌は岩質では無く浅い地層に岩盤があるので、土耕栽培から高設養液土耕栽培を中心に栽培している。また、石井さんは、『従来の農業は、密植する⇒病気が出やすい⇒農薬を使う⇒経費がかかる⇒体にも悪い、逆に、密植をやめる⇒生産量が減り⇒利益がでない構造になっている』と指摘し、この悪循環を断ち切るために、また、コストを抑えるために、農薬を抑える栽培に取り組んでいると語ってくれた。具体的には、天敵ダニを用いた葉ダニ防除等のIPM農法と、従来の化学農薬や化成肥料に置き換わる安心安全な農業をサポートするバイオシードテクノロジー(酸化還元電位、二価鉄をメインとしたミネラル、そしてアミノ酸などの有機酸とのシナジーにより、土壌微生物の能力を最大限に発揮させる)農法を導入し経費の削減に努めている。苗は自家増殖を主に使用しており、また、観光農園なので、品種は「あわゆき」、「紅ほっぺ」など多品種栽培に取り組んでいる。

観光農業の新たな形を求めて

石井さんの農業経営の基本は観光農業である。観光農業をやっている地元のイチゴ農家6名でJA館野の支店内にイチゴ狩り観光センターを設置しネットを活用した集客予約を行っている。また、観光農業だけでは、すべてのイチゴが収穫できないので、生食用の販売も実施している。生鮮いちごの販売先は、現在、地元市場出荷とJAの直売であり、今後、新設される館山の道の駅(グリーンファーム館山)での販売を予定している。また、加工品のイチゴのフリーズドライは、富浦枇杷倶楽部、海のマルシェ、館山道の駅などで販売している。しかし、イチゴの観光農業は、東京に近い木更津や市原地域で新たにオープンされたので、将来を考えて、アスパラガス・トマトなどの観光農業にも取り組み始めている。さらに、6次化補助金でドライ、冷蔵、茶などの開発加工品に力をいれている。

農業の課題とは?

最近の肥料価格の高騰について聞いたところ、石井さんは、「商社が世界で一番安い国(中国)から肥料を購入していて、輸入先の多角化をしていないのが問題で、その背景には、商社のカネしか見えていない体質がある。さらに、肥料・農薬の使用を抑えれば、それだけ、労働力が必要となるので、農林水産業が推進するグリーン化農業については、普及は、むずかしいのではないか。また、農産物の末端価格は上がっても、農家の売値は上がっていないのが、大きな問題だ」と答えてくれた。
最後に、将来のビジョンについて質問すると、「木更津あたりで観光イチゴ園が伸びてきたので、将来はコメ部門、加工を含めたイチゴ部門が独立採算できるようにしたい。そのためには、『農業と経営の役割分担』が必要となるが、1人ではできないので人を雇うことになる。そうすると、かなりの資本金が必要になるので、リスクも高まり、なかなか決断が難しい」と答えてくれた。

 

 

【プロフィール】
稲田宗一郎(いなだ そういちろう)
千葉県生まれ。小説『夕焼け雲』が2015年内田康夫ミステリー大賞、および、小説『したたかな奴』が第15回湯河原文学賞に入選し、小説家としての活動を始める。2016年ルーラル小説『撤退田圃』、2017年ポリティカル小説『したたかな奴』を月刊誌へ連載。小説『錯覚の権力者たちー狙われた農協』、『浮島のオアシス』、『A Stairway to a Dream』、『やさしさの行方』、『防人の詩』他多数発表。2020年から「林に棲む」のエッセイを稲田宗一郎公式HP(http://www.inadasoichiro.com/)で開始する。

 
 

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