不耕起栽培とは「畑を耕したり均したりすることなく、前作の刈り株を残したまま次作の種子を撒く方法」です(引用元:「耕さない」という技術)。耕さずに、土の表層にある有機物や土壌生物の働きを生かしながら作物を育てる方法ともいえます。
耕す作業を減らすことで、土の団粒構造や微生物のすみかを壊しにくくなり、土が本来もつ保水性・通気性・緩衝力を保ちやすくなるとも考えられています。
不耕起栽培を始める前の注意点

ただし、不耕起栽培は「耕さないでいれば自然に土がよくなる」というわけではありません。むしろ、不耕起栽培を始める前の土の状態によって成果が大きく分かれます。
イメージとして、不耕起栽培には地力を維持する特徴があります。そのため、もともと有機物や養分が乏しい畑で始めると、何年たっても十分な生育を得られない場合があります。地力の低い畑で始める場合には、数年かけて地力を高めてから不耕起栽培に挑戦する必要があります。
不耕起栽培に向いている土
なお、涌井義郎『土がよくなりおいしく育つ 不耕起栽培のすすめ』(家の光協会、2015年)によると、土壌の地力には、大きく分けて2つの側面があります。
1つは「栄養地力」です。栄養地力とは、作物に養分や水分を供給する力です。窒素、リン酸、カリウム、カルシウムなどの肥料成分を保ち、必要に応じて作物に渡せる土は、栄養地力が高い土といえます。
もう1つは「緩衝地力」です。緩衝地力とは、土の環境を安定させる力です。たとえば、水分量、地温、pH、養分濃度、土壌中の空気量などが急激に変わりにくい土は、作物にとって負担が少ない土です。また、根から出る老廃物や有害物質を分解する微生物の働き、病原菌や害虫が増えすぎないようにする生物的なバランスも、緩衝地力に含まれます。
不耕起栽培に向いているのは、この2つの地力がある程度備わった土です。たとえば不耕起栽培により、土壌を頻繁にかき混ぜないことで団粒構造や土壌生物の環境を守ることは、緩衝地力を維持しやすくなります。しかし、養分そのものが不足している場合や乾きやすく固い、微生物の働きも乏しいといった土でいきなり不耕起栽培を行うと、作物の生育は安定しにくくなります。そのような場合には、まずは堆肥や緑肥、適切な施肥などによる補給が必要です。
不耕起栽培に適した土の条件

有機物の継続的な投入で地力が形成されている
腐植を含む有機物は、養分を保持するだけでなく、土の粒子を結び付けて団粒構造を形成します。団粒の内部には水を保持する小さな孔隙があり、団粒同士の間には水や空気を通す比較的大きな孔隙があります。こうした構造が発達した土では、保水性と排水性が両立しやすくなります。
たとえば堆肥は、土壌のち密度や保水性、可給態窒素、土壌有機物など、複数の性質を総合的に改善する基本的な資材と位置付けられています。
不耕起栽培へ移行できるかどうかの目安の一つは、少量の元肥でも作物が長期間生育し、収穫を続けられるかどうかです。ただし、明確に判断する場合には、作物地上部の生育状態だけでなく、土壌診断によってpH、可給態窒素、有効態リン酸、塩基類なども確認することが望まれます。
水はけと水持ちのバランスがよい
不耕起栽培に向いている地力が高い畑の土は、大雨後に長期間水がたまらず、一方で晴天が続いても急激に乾燥しないものといえます。
耕うんを行わない畑では、耕うんによって一時的に作土を軟らかくしたり、排水経路をつくったりすることができません。
そのため、もともとの排水性が極端に悪いと、作物の根域が酸素不足になりがちです。
反対に、砂質で乾燥しやすい畑の場合、不耕起栽培と敷き草を組み合わせることで、表面からの水分蒸発を抑えられる場合があります。なお、愛知県の試研報告書では、過去の研究より“不耕起栽培の優れた機能の一つとして土壌水分の保持があり”と示され、比較実験において“不耕起圃場では耕起圃場に比べ土壌水分が多く、出芽率が高かったことが考えられた”と考察しています。
参照元:コムギ跡作のカボチャおよびスイートコーン不耕起栽培における 麦稈被覆の雑草抑制効果
根が伸ばしやすい
不耕起栽培の土は、耕した直後の畑のように、表面全体がふかふかしているとは限りません。しかし、植物の根、ミミズ、土壌動物などによってつくられた連続的な孔隙があれば、根はそこを通って深く伸びることができます。
作物を抜いた跡の根穴や、土壌生物がつくった通路は、水と空気の移動経路にもなります。不耕起栽培では、こうした生物由来の土壌構造を壊さずに残すことが重要です。
ただし、根域全体が過度に締め固められている状態は別です。前述したように、地力の低い畑で始める場合には、まずは数年かけて地力を高める必要があります。そのため、根が入りにくい硬盤層がある場合は、不耕起へ移行する前に心土破砕などを検討する必要があります。
不耕起栽培に適さない、または改善が必要な土

一部繰り返しになりますが、
地力が著しく低い
過湿で排水経路がない
強く締め固められている
多年生雑草が繁茂している
このような状態の畑では、いきなり不耕起栽培を始めてもうまくいかない可能性が高いです。
地力が著しく低い場合には、3〜5年かけて堆肥や緑肥作物を活用して地力を高めていきます。この際、大量に堆肥を入れるのはNGです。土壌診断を行わずに多量に投入すると、リン酸やカリウム、塩類などが過剰になる場合があります。投入量は、作物の吸収量や土壌中の養分量を踏まえて調整してください。
排水性の低い畑に対しては排水対策を強化し、不透水層やち密層がある場合には、心土破砕や明渠、暗渠などが改善策となります。
これまで耕転作業が行われていた畑などでは、大型機械が湿った畑を繰り返し走行したり、同じ深さで耕うんを続けたりすることで、地表下に硬い層ができることがあります。それをそのままにして不耕起栽培を行うと、植物が根を深く伸ばせず、浅い範囲に集中してしまい、乾燥や倒伏の影響を受けやすくなります。
改善策としては、表層への堆肥施用のほか、硬さの程度によっては事前の物理的改良が必要です。
最後に、不耕起栽培では耕うんによる雑草の埋没や切断を行いません。そのため、雑草が優位な環境のままだと作物の生育に影響が及びます。そのため、不耕起栽培へ移行する前に、優占して生えている雑草の種類を確認し、刈り取ったり、遮光を行ったり、さまざまな除草方法を組み合わせることが重要です。
なお、不耕起栽培では雑草は作物栽培の「敵」としてだけでなく「資源」として見ることができます。たとえば一年生雑草は、刈り倒して地表のマルチとして利用できます。これにより、土の乾燥を防ぎ、有機物を補い、表層の生物活動を支えることができます。そのほか、雑草は根粒菌、菌根菌、エンドファイト、拮抗微生物などと関わり、草の陰が天敵昆虫のすみかになることもあります。
もちろん、草が伸びすぎれば、光、水分、養分をめぐって作物と競合します。そのため、完全に排除するのでも放置するのでもなく、適切なタイミングで刈り倒し、マルチとして活用することが大切です。
参照サイト
- 「耕さない」という技術
- 1) 土づくりとは
- 土壌有機物と農業生産との関係についての総説
- 土壌物理性簡易診断として圃場全面深さ60cmまでの土壌硬度を三次元分布で評価する | 農研機構
- 中央農業研究センター:土壌生物グループ | 農研機構
- 2 土壌pH・ECの診断
- Conservation Agriculture principles
- 農地土壌をめぐる事情
- 平成 28 年度 岩手県農業研究センター試験研究成果書
- コムギ跡作のカボチャおよびスイートコーン不耕起栽培における 麦稈被覆の雑草抑制効果
- 水稲・麦・大豆の 不耕起播種栽培マニュアル
- 緑肥利用マニュアル
- Chapter 7. The role of conservation agriculture in organic matter deposition and carbon sequestration
参考文献:涌井義郎『土がよくなりおいしく育つ 不耕起栽培のすすめ』(家の光協会、2015年)










