

農事組合法人逢妻は平成10年に旧豊田農協のサポートを得て、いくつかの農家が集まってグループを作ったのが始まりだった。当時のメンバーには農業機械を所有しアパート経営をしている兼業農家もいた。代表理事の菅沼さんに「法人化したメリットは何ですか」と質問すると、菅沼さんは「この地域も中甲さんのところと同じで、農協が農地を斡旋しできた農事組合法人で設立当初の規模は30haぐらいだった。法人化のメリットと言えば、面積拡大しやすいこと、従業員を雇用しやすいこと、それと補助金を取りやすいことの3つ」だと答えてくれた。
逢妻がある本新町と中甲がある前林町はほぼ隣接しており、両地域とも同じ兼業地帯だと考えられ、旧豊田農協も旧高岡農協も「兼業農家の農地を守ること」が農協にとって急務だったのである。そのために、農業法人を立ち上げ農地集積の取組みを始めたのである。こうすることによって、農地の宅地化、スプロール化を防ぐことができたのである。案内された逢妻の事務所は、農協の支所で、今も、隣の部屋には農協職員が勤務していた。
経営概況
逢妻の面積規模は200haで自作地2haを除いた残りの農地は利用権設定している借地である。この利用権設定の事務処理は農協が代行してくれている。生産している作物は、コメ100ha、麦(転作)100ha、大豆(転作)30haであり、コメ、麦、大豆の出荷先は農協であり、乾燥も事務所の前にあるJAあいち豊田のカントリーエレベータを利用している。これまでは稲作が中心であったが、近年の米価下落に対応するために野菜生産を始めている。野菜生産は出荷調整作業に手間がかかるので、JAあいち豊田の仲介による農福連携により、労働力の確保と障がい者の就農支援の両立を目指している。現在、じゃがいも50a、サツマイモ20a、レタス20aを生産し、豊田市公設地方卸売市場へ出荷している。
現在、従業員は10人で7人が正社員、3人はパートで、すべて地元の人である。従業員の平均年齢は30代半ばであり、この他に、収穫時には地元の農家にアルバイトを頼んでいる。
年間の栽培スケジュールは、コメは3月中旬から4月末にかけてハウスで育苗、4月末から6月前半までは田植えである。具体的な田植日と期間は労働力の配分を考えた作付計画に基づいて行われる。麦は11月に種まき、 5月25日から収穫が始まる。大豆は6月から播種が始まり12月に収穫である。生産費は人件費が約20%を占め、農業機械経費が約3500万、カントリー利用料3000万、その他肥料等・燃料が6000万円である。なお、地代は10アールあたり0.5俵であり、1俵2万円と仮定すると経営全体で約2000万程度だと考えられる。
所有する主な機械は、18馬力から113馬力のトラクターが25台、コンバインは10台、田植機4台、小型建機3台、散布機5台などである。機械利用で一番重要なのは、農業機械の価格と減価償却などを含めたメンテナンス戦略であると菅沼代表は教えてくれた。
菅沼代表の話によれば、数年前の米価下落でこの地域の50a、60aの家族経営が農業生産から撤退した。この米価下落期は逢妻も営業利益は赤字だったが転作補助金で息をつくことができたとのことだった。


環境保全型補助金
逢妻でも中甲と同じように経常利益の中で転作補助金の割合が極めて大きい。逢妻では、畑作物の直接支払交付金の「ゲタ対策」と「ナラシ対策」の補助金に加え「環境型農業直接支払交付金」を受け取っている。ゲタ対策」と「ナラシ対策」については前回説明しているので、今回は「環境型農業直接支払交付金」について簡単に説明しておこう。国は、平成27年度から「農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律」に基づき、農業者の組織する団体等が実施する化学肥料・化学農薬を原則5割以上低減する取組や有機農業に新たに取り組む農業者に対し、国は新規取組面積に応じて環境保全型農業直接支払交付金を補助している。愛知県の交付金の単価は、そば等雑穀・飼料作物以外は14,000円/10a、そば等雑穀・飼料作物は3,000円/10aとなっている。逢妻では、麦(転作)100ha、大豆(転作)30haで環境型農業に取り組んでいるので、この面積に対応した環境型農業直接支払交付金が通常の転作奨励金に加算して支払われている。また、水稲作付のうち堆肥を施用しているコシヒカリ40haに対しても環境型農業直接支払交付金が支払われている。
スマート農業
スマート農業についてはクボタのKSAS(ケーサス)とビジョンテックのアグリルックを使っている。KSASとはクボタのインターネットクラウドを利用した営農・サービス支援システムで、パソコンやスマホを利用し、通信機器を搭載したクボタ農機と連動することでデジタル圃場地図を管理できるシステムであるが、逢妻ではこのKSAS機能を有効に活用している。作物の生育診断のツールとしてアグリルックを使用している。逢妻ではこのソフトで栽培履歴、作業履歴などの情報を圃場ごとに管理して、品質・収量の向上や作業効率の改善に使っている。
ドローンについては、DJIT25を350万で購入し圃場自動散布機能を活用し防除で使っている。ドローンに関する費用は、年1回点検費15万、保険10万で専門業者に委託している。作業効率は20ha/日なので200haを10日でカバーできるので効率が高いと考えているが、散布には2人必要で、人件費、及びランニングコストを考えると微妙なところだと教えてくれた。
経営における問題点
肥料・農薬・軽油など生産資材の価格は倍近くなっている。例えば、軽油は平成10年の 90円から140円を超えている。このままでは、増々、経営は厳しくなり補助金なしでは経営は成り立たない。さらに、水不足の恐れもある。また、数年前の米価下落でこの地域でも50haほどの家族経営が農業生産から撤退したが、その時は、幾つかの農業法人とこれらの耕地を引き受けたが、今後、耕作放棄地がでた場合には、これらの農地は、地力が低かったり、未整備など条件が悪い圃場なので引き受けたくはないのが本当のところだが、JAが関係しているので受けざるを得ないと考えている。さらに、今後も、年に1haから2haが耕作放棄地としてでてくるが、圃場整備が完了していれば引き受けるが、未整備の場合は引き受けるのが難しいと考えている。もともと、この地区は基盤整備実施時期が古く20aか30a規格であり、今の大規模経営には向いていない。さらに、20aから30aの圃場を借りても、地主によっては、あぜを取る時に問題が起こることもあると語ってくれた。
今後の規模拡大に関してはドローンによる直播に興味をもっている。直播は、現在、三好地区で、JAあいち豊田、JAあいち経済連などが連携し実証実験および導入試験が行われているが、話によるとリゾケアコーティング剤を使った発芽実験では発芽率が90%とのことだったので期待しているの事だった。
地域農業を残すために
地域農業を残すためには何が必要かと聞いたところ、菅沼さんは「最近、サラリーマンがトウモロコシと野菜作で新規就農している。この動きが続けばよいのだが」と答えた後、「農業は大規模に法人化してもなかなか儲からない」と語った。筆者が「そういえば、何年か前に「水田活用の直接支払交付金の厳格化、つまり、コメの転作作物として大豆や麦、飼料作物を栽培する農家に対し、国は10アールあたり年間35,000円を交付してきたが、今後5年間(令和4~令和8)に、1度も、水張りが行われない水田に対しては、令和8年度以降、交付金は出さないとしていましたが、国はこの政策を見直したようですね」と言ったら、菅沼さんは「そうです。令和9年度から根本的に見直すそうで、水稲作付可能な田について、連作障害を回避する取組を行った場合、水張りしなくても交付対象とするようになりました。助かりました」と答えてくれた。
前回の中甲の事例でも、大規模農業法人にとって持続的な経営を続けていくためには、転作補助金は必要と報告した。今回、国が「水田活用の直接支払交付金の厳格化」を廃止した背景には、「現行の転作補助金対象の水田は厳密には水田転作ではない。なぜならば、水田として利用していないからだ。したがって、厳密に考えれば、1度も水張りが行われない水田に対して転作補助金を出すのは間違っている。水田活用の直接支払交付金の厳格化は論理的に正しい」と霞が関の官僚たちは考え、補助金の削減が可能になる厳格化政策にかじを切ったのである。しかし、その厳格化政策を変更せざるを得なかったところにこそ、霞が関の官僚たちの農業現場の知識・知恵のなさが表れているのである。
稲田宗一郎(いなだ そういちろう)






















